第11話:「今すぐ戻れ」? 嫌です、家庭菜園が忙しいので
「ええい、アメリアは何をしている! まだ戻らんのか!」
王城の玉座の間で、国王の怒号が響いた。
広域結界が消滅して一夜。王都はパニックに陥っていた。
空にはワイバーンが飛び交い、城壁にはオークが群がっている。騎士団が必死に応戦しているが、結界なしの防衛戦など数十年ぶりのことで、戦線崩壊は時間の問題だった。
「陛下! アメリア嬢の居場所が判明しました! 北の廃棄ダンジョンです!」
「あそこか! ならば話は早い。近衛騎士団を向かわせろ!」
国王は血走った目で叫んだ。
「あの娘のことだ、どうせ泣きながら救助を待っているに違いない。『許してやるから、すぐに戻って結界を直せ』と伝えれば、尻尾を振って戻ってくるはずだ!」
その言葉を受け、王国最強と謳われる「王立近衛騎士団」の精鋭部隊が、馬を飛ばしてダンジョンへと向かった。
彼らは知らなかったのだ。
そこが既に、王国の支配が及ばない「魔境」と化していることを。
* * *
ダンジョン入り口に到着した騎士団長は、目を疑った。
ゴミ山だったはずの場所が、黄金に輝く結界に守られた美しい庭園になっていたからだ。
「な、なんだこれは……? 別荘地か?」
「団長! アメリア様らしき姿が見えます!」
結界の奥、ログハウスの庭で、アメリアが麦わら帽子を被って何か作業をしているのが見えた。
団長は尊大な態度で、結界越しに叫んだ。
「アメリア嬢! 迎えに来てやったぞ! 陛下の慈悲だ、今すぐその結界を解いて――」
ズシンッ!
言葉の途中で、巨大な銀色の影が立ちはだかった。
庭師として働いていた、元ジャンク・ゴーレムの「ゴロー」だ。
しかし今の彼は、私が全身をミスリル銀でコーティングし、関節を魔法潤滑油で満たした「ミスリル・ガーディアン」。
太陽を反射してギラギラと輝くその姿は、王国のどんな魔導兵器よりも神々しく、そして凶悪だ。
「ひっ……なんだこのゴーレムは!? 構えろ!」
騎士たちが剣を抜く。
だが、ゴローは無慈悲だった。
彼らが振り下ろした鋼鉄の剣を、そのミスリルの指先で「デコピン」のように弾いたのだ。
パキンッ! パキパキパキンッ!
名剣とされた騎士団の剣が、飴細工のように砕け散る。
「ば、馬鹿な! オリハルコン製の剣だぞ!?」
「ひいいっ! 足元が! 足元が溶ける!」
さらに、地面からはクリスタル・スライムの「スー」が忍び寄り、騎士たちの鎧の留め具だけを器用に溶解させていく。
ガシャン、ガシャンと鎧が脱げ落ち、最強の騎士団はあっという間にステテコ姿の哀れな集団へと変わった。
「な、何なんだここは……! 化け物屋敷か!」
団長が腰を抜かした、その時。
ログハウスのテラスから、絶対零度の殺気が放たれた。
『……騒々しいな』
現れたのは、銀髪の美青年――フェンリルだ。
彼は不機嫌そうに尻尾を揺らし、黄金の瞳で騎士たちを見下ろした。
『我が主は今、イチゴの収穫でお忙しい。貴様らのような羽虫が視界に入れば、イチゴの糖度が下がる』
フェンが軽く指を振る。
それだけで暴風が巻き起こり、ステテコ姿の騎士たちは枯れ葉のように空の彼方へと吹き飛ばされていった。
「うわあああああ……ッ!」
星になって消えていく騎士団。
その騒ぎに、ようやくアメリアが顔を上げた。
「ん? 何か音がしたような……」
彼女の手には、赤ちゃんの頭ほどもある巨大で真っ赤なイチゴが握られている。
世界樹のチップを肥料にしたせいで、とんでもなく立派に育ってしまったのだ。
「まあ、いいわ。フェン、見てこれ! すっごく甘そうよ!」
「ああ、見事だ。……あの羽虫どもを排除した甲斐があったな」
アメリアはニコニコと、摘みたてのイチゴをフェンの口に運ぶ。
フェンは嬉しそうにそれを頬張り、ゴローとスーは平和になった庭で再び手入れを始めた。
王国最強の戦力が「門前払い」されたことなど、アメリアの知る由もない。
彼女の今日の悩みは、大量に採れすぎたイチゴをどうやってジャムにするか、それだけだった。
第12話予告「王都壊滅? 私は神獣の抜け毛でセーターを編みます」
ついに王都の城壁が突破され、逃げ惑うカイル殿下と聖女。一方アメリアは、フェンリルの換毛期に大興奮!「あら、この抜け毛、最高級の羊毛以上ね」
編み上がったのは、物理・魔法完全無効の最強セーター(部屋着)。ボロボロの元婚約者たちを尻目に、ぬくぬく冬支度を始める第12話!




