第102話 帝都暴走 22
「突入、三・二・一」──指令の声が低く落ちる。
扉が完全に開くと同時に、機動隊員がなだれ込んだ。
閃光弾が白い火花を散らし、銃声が金属の反響を伴って倉庫の奥へ飛び込んでいく。
黒と灰の影が、倉庫内の暗闇を切り裂く。
金属がぶつかり、ライトが一瞬点滅する。
闇に銃声が割れてこだました。
鋭い破裂音が倉庫の空気をえぐる。
反射で散る火花と、金属が擦れる音、体が床に倒れる鈍い音。
勝負の時間は短かい、しかし激烈だった。
半グレたちは銃を取る間もなく制圧され、逃げ場を失って倒れる。誰かが呻き、誰かが静かに絶命する。暴力の代償は、いつも冷たい。
機動隊の放つ銃弾の音は短く、正確だった。
半グレたちが倒れ、黒い影が一人、また一人と崩れ落ちる。
「前進!」
先発の機動隊が掃討を終えると、次の一団が躍り出た。
そこは白兵戦と医療作戦が交錯する地点だ。
スーパー・タイガー・モスキート駆除班が、白い発煙機を肩に乗せて滑り込む。
「ドライアイス設置、続いて放水、続け!」
敷き詰めたドライアイスから発生した白煙が床を這い、薄い霧が光を拡散させる。
放水銃が唸り、水流が噴霧ノズルをくぐり、水の霧が低く広がる。
霧を浴びたドライアイスから、激しい二酸化炭素のガス柱が立ち上り、視界が白煙で遮られた。
特殊繊維スーツに包まれた隊員たちは、顔を覆うシールド越しに互いを確かめ合う。声はヘッドセット越しにしか届かない。
「注意、噴霧開始。転倒・転落防止のため環境調整と動線確認を徹底。スーパー・タイガー・モスキートの群れを囲め!」
加奈子の短い号令が、無線を通して堅く響く。
隊員たちは手早く列を作り、白い霧で空間を封じる。
霧はゆっくりと、確実に、滑らかに床面を覆っていった。
蚊はその霧の中で視界を失い、飛行パターンを狂わせる。
噴霧器の圧が上がり、薬剤の粒子が細かく砕ける音がする。
指令の声に、駆除班が動いた。
隊長が前に出る。
グローブ越しの手で、ペン型注射器を確認する。
万が一刺されても、すぐに自己注射で抗血清を投与できるようにするためだ。
だれもが、その一瞬のために用意をしていた。
酸素ボンベの圧力計が小さく振れる。
霧が充満した瞬間、倉庫の空気が止まった。
蚊群が噴霧の中で一斉に動きを失い、床に落ち、壁に張りつく。
タイミングを見た駆除隊が網を下ろすように噴霧器を手放し、
動きを止めた蚊群を、強力な集塵機で一気に、集める。
捕獲用の箱が開かれ、隊員たちが、群れを捕らえた集塵機のカートリッジを手際よく箱の中に回収する。
白い霧と殺虫剤の薬の匂いが、夜の冷たさに溶けていく。
白いドライアイスの霧が床を這い、酸のような鼻をつく薬品の匂いが満ちていく。
二酸化炭素の霧は、中で呼吸をするものすべてから酸素を奪う。
阿羅業は、その霧の中心を凝視していた。
白い霧の向こう、金属棚の陰に、頽れた人影があった。
少女のような女――李雪蘭。
黒髪が濡れ、頬にかすかな血の線。
胸のあたりを押さえ、うずくまっている。銃弾が脇腹を掠めていた。
「雪蘭……!」
阿羅業は、思わず駆け出した。
背後で加奈子の制止の声が響いたが、彼は止まらなかった。
足元から立ち上る二酸化炭素と殺虫ガス混じりの毒霧が肺を刺す。視界が白く霞む。呼吸が奪われ、頭が痺れる。
だが、彼は酸素ボンベを掴み、霧の中へ踏み込んだ。




