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第1話 半グレさん、いらっしゃい 1

 今年の春も、最凶医科大学に研修医がやってきた。


 不人気病院と言われても、埼京医大は東京都の研修指定病院。


 僻地の大学病院とは違って結局、どこかしらからは研修希望者が流れ着くものなのだ。


 第四内科のカンファレンス室でも、新年度最初のミーティングが始まっていた。


 司会を受け持つのは、医局長の片山秀人。元々は腕の立つ外科医だったが、夫人に逃げられ、生活が荒廃。


 外勤先の当直室から盗んだカップ麺と缶コーヒーを"戦利品"と称して生活の糧としている、まさに「白衣を着た盗賊」に他ならないが、医療の現場ではなぜか患者の信頼を得ていて医局長の地位についている逸物である。


「今年は三人か。研修三銃士だな。では自己紹介を」


「開高秀治です。ここしか採ってくれなかったので来ました。いいところが見つかるまでは頑張ります」


「江別哲也です。ここは研修が楽と聞いて来ました。それなりに期待しています」


「薄壁白子です。研修が終わったら美容に行きます。それまでの腰掛けと思って我慢します」


「うん、とても『いい』志だね。とりあえず離職だけはせずに頑張ってちょうだい」


 三人三様、ふざけていると思えなくもない入局挨拶の弁であったが、片山は気にしない。


 そもそも、不人気医大としては入局者がいること自体が有難いのである。


「ちょっと、ジョージ……、今年は、覚えが悪いとか、態度がむかつくからって殴っちゃだめよ。今度やったら、三度目の医局追放はもんなんだから」


 広瀬綾香副医局長が、小声で隣に座る、助教仲間の赤嶺丈二に釘を刺した。


 身長190センチ、体重135キロの巨体が、プッとわずかに笑う。


「アタシは、何をやらかしても許すわよ。でも……この拳が許すかどうかは分かんないわねェ」


「……去年はあんたのおかげで、週刊文駿に"最凶医大"って全国に悪名がとどろいたんだから、頼むわよ」


 にやつく赤嶺の肩が微かに揺れた。しんから笑っているのか、ふりをしているだけなのか、誰にもわからない。


 カンファレンスが終わって間もなくだった。


 カンファレンス室の内線電話が鳴った。


 内科の外来診察室からだった。


「ジョージ先生を、お願いします!コードホワイトです!」


「あら、なんの騒ぎかしら?」


 コードホワイトは、不審者が院内で暴れている、暴言を吐き散らかしているときの院内の隠語である。


「患者様が、もらった薬が足らないと騒いでいます!」


 赤嶺がうれしそうに立ち上がった。


「あら、やだわ。また返り血で白衣が汚れっちゃう……」


 赤嶺は、全医体八連覇(?)を誇る、元、総合格闘技全日本医学生王者。医療の現場でも"力は正義、力で解決"を信条に動く破壊的医療者。


 内視鏡で結腸を破壊しても、斬ってはいけない動脈をちょん斬っても、処置室の中心で「アタシの筋肉に罪はないのよ!!」と叫べる強さを持つ。


 医局から幾度追放はもんされても、なぜか翌日には何処かの医局に入局している。


 そういうわけで、柄の悪い患者が来たときは、ジョージを出せ。ジョージに相手をさせろ、が院内の合言葉なのだ。

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