再出発
帰って来るためにかけた、時空魔法は成功した。
目論見どおり、12月21日の朝8時、いままさに、未夜がチャイムを鳴らして、オレがドアを開けたところだ。
朝の冷たく透き通った空気に、吐く息が白い湯気になっている。
「おはよう、タッくん」
「加蔦さん、久しぶり」
「久しぶり。タッくんに昨夜メッセージ送ったのは覚えているんだけど、わたし、なんの用があったのかしら?」
未夜に残っていたアラザールにいた時の記憶は、帰って来る前に綾川に頼んでもう一度念入りに封印して貰った。
「終業式のあとのオレの悪ふざけがヒドかったから心配してようす見に来てくれたんだろ。昨日は悪かったよ」
「そうね、いくらなんでも高校生にもなって、クラス転移なんて厨二病みたいなこと言ってたら、心配するわよ」
「そのことなら、もう大丈夫。しばらくはイタい奴認定が続くかもしれんけど、ちょっと寝ぼけてただけだから」
オレが蒸し返さないかぎり、アラザールのことも、綾川優梨のことも、オレが実はまだ時空魔法が使えるということも、もう誰も思い出すことはない。
綾川の写真を卒業アルバムで見返しても、これからは「こんな子、同級生にいたっけ?」と言うことになるだろう。
寂しいとは思うが、それは綾川が望んだことだった。
アラザール公国でクラスメイトたちとした冒険も、その中でふたりが急速に親密になったあの夜の出来事も、未夜の記憶からは封印されている。
綾川に言われたとおり、今度はオレから未夜に告白するつもりだ。
だけど、それは、未夜との関係性をもう一度構築しなおしてからのことだ。オレたちは、ただの十年来の幼馴染に戻ってしまったんだから。