帰還
そんなこと、あったの?
いや、全く知らないといえば嘘だよな。
綾川の記憶阻害の魔法を解いて貰ったおかげで、オレは、あの夜未夜に告白されたことや、それに返事したことを思い出していた。
だけど、綾川、お前オレのこと好きだったの? それってどういうハーレムだよ。
「だからって、なんで綾川が異世界に残るの? ちょっと飛躍しすぎじゃないか?」
「あたしはここがいいの。カーマイン公女はとてもよくしてくれるし。
それに、あたしは紫魔導士じゃない。ミーヤの心の中だって、見たくなくたって見えるのよ。あたしには絶対芽がない、ってわかっちゃった。
1年近くたったから、もうミーヤのことはふっきれたと思ってたんだけど、いざこうして顔を見るとやっぱりダメね。
だから、ハッセーには記憶を返してあげるけど、ミーヤの記憶は戻してあげない」
「???」
「そうよ、自分が誰をずっと好きだったかに気づいたことも、ハッセーに告白したのも、ハッセーがミーヤにした告白の返事も、ミーヤはなにも覚えてない。
それはハッセーにしかない記憶なの。
あたしからミーヤをうばったハッセーへの嫌がらせよ」
おいおい、三角関係そっち向きに矢印ついてたの? 勘弁してよ。
「あたしがしたことを納得しろとは言わないけど、なんでクラスのみんながアラザールでの出来事を忘れてるかは理解できたでしょ?
全員に、あたしが認識と記憶阻害の魔法をかけたのよ。記憶阻害はハッセーとミーヤには中途半端にしかかからなかったみたいだけどね。
わかったら、ふたり、自分たちだけで帰れるわよね」
隣に座っていたカーマイン公女は、オレたちを召喚したときとおなじ、申し訳無さそうな顔をオレたちふたりに向けたがずっと黙ったままだ。
「綾川は、ここにいるほうが幸せなんだな」
「そうね、あたしんち、親子関係はギスギスしてるし、ハッセーも記憶阻害のせいで思い出していないかもだけど、あたしはクラスで浮いていじめられるみたいになってて、ハッセーとミーヤ以外にかまってくれる人いなかったしね。
だから、あたしのことは放っておいて、あっちに帰ってしあわせに暮らしたらいいよ。
あと、ミーヤには、今度はハッセーから告白してあげなね」
「……また綾川に会いにここに来てもいいか?」
「どうだろ。ハッセーはまだ青魔導士だからさ、まあ、その内にまた話せたらいいね」
そう言うと、綾川は未夜の顔をもう一度、じっと名残り惜しそうに見る。
オレは綾川に一つだけ頼み事をしてから目を閉じ、もう一度未夜の手を握って、もとの世界をイメージした。
別れの言葉を告げるカーマイン公女と綾川の前で、オレと未夜は再び白い光に包まれた。