綾川優梨
「えっ、綾川?」
未夜とオレは小学校からずっと同じクラスだったけれど、もう一人、高校入学までずっと同級生だった幼馴染。それが綾川優梨だった。
未夜が綺麗系の美少女なのに対し、綾川は可愛い系の美少女だ。
「タッくん、誰と話してるの?」
「未夜、綾川のこと見えてないの?」
未夜はきょとんとしている。
「ハッセー、記憶とあたしの認識を返してあげたのはあなたにだけよ。
あたしが目に入っていても、ハッセーがあたしのことを話題にしても、あたしの認識を阻害されているミーヤにはわからないの。」
オレは綾川がしたことを理解した。
綾川は精神干渉魔法が得意な紫魔導士だ。
オレも未夜も、公女の隣に座っている綾川の姿はずっと眼に入っていたはずだ。だけど、その存在を人物として、幼稚園以来の幼馴染として認識することができなかった。
アラザールに戻って来る前に、未夜に言われてふたりで始めから終わりまで見直した卒業アルバムにも綾川の写真は載っていたはずだけど、オレも未夜もその姿を認識することができなくなっていたのだ。
綾川は、オレからはその魔法を解いてくれたけれど、まだ認識阻害されている未夜には綾川の存在がわからない。
「でも、なんで……。
なんでクラスメイトの記憶を消したり、綾川自身の存在を消したりするんだよ。
だいたい、どうして一緒に帰らないでこっちにいるんだ? オレたちずっといつも3人一緒だったじゃないか」
「ハッセーがそれを言うの?」
綾川は傷ついたような表情で言う。
「え、何それ? オレ何か綾川に嫌われるようなことした?」
「あたしだって、本当はずっと3人がよかったんだ。だけど……。
ある朝、部屋に戻ってきたミーヤがさ、『アラザールに来てようやく、十年来の自分の気持ちに気づいて、ハッセーに思いを伝えてやっと結ばれることができた』って、それは嬉しそうにあたしに言ったの。
それ聞いて、ああ、3人って奇数なんだ、あたし余っちゃったんだ、って思ったんだ。あたしには居場所がなくなっちゃった。
あたしのながーい初恋は、告白もするまえに終わっちゃったんだ」