再訪
「で、何を忘れてたのか思い出した?」
「ダメだったわ。卒アルのページ眺めてたら、『そうよこの人も一緒に行ったはずなのにどうしたのかしら』なんて思い出すんじゃないか、と期待してたんだけど。
でも、やっぱり何か大切なことを忘れてる気がするのよね」
「じゃぁ、アラザールへもう一度行ってみる、ってのはどう?」
「そんなことできるの? 向こうから召喚されたんでしょ? もう私達はいらなくなったから、こっちの世界に返されたんじゃないの?」
「ふふん。癒やしの聖女様、青魔導士殿ことオレさまの得意が時空魔法だったのを忘れてもらっちゃあ困る。
重力から時間まで、アインシュタイン先生が大好きな物理現象を何でも捻じ曲げられる力だぜ。跳躍して異世界にもどることだってできんじゃね?」
未夜は目をまるくしてオレを見る。
オレは目を軽く閉じ、アラザール騎士団宿舎の裏庭をイメージする。あそこは騎士団長にたっぷりしごかれたあとサボりに行ったら、いつも、人の気配がなかった覚えがある。
ずっと精神を集中していると、裏庭の井戸や、転がった空き樽や、咲いてた雑草の花の細部までもが、イメージの中に鮮明に蘇ってきた。
うん、出来そうだ。アラザールであったことを覚えてるのと同じくらい、あっちで出来たことのやり方も覚えてる。
「未夜ちゃん、オレの手を握って」
未夜がオレの手を握る感触を確かめて、騎士団宿舎の裏庭にオレたちふたりが立っている光景を強くイメージする。
オレたちはもう一度白い光に包まれて、目を開いたら、騎士団宿舎の裏庭に立っていた。あたりに人影はなかった。
§ § §
「おや、癒やしの聖女様と青魔導士殿ではありませんか」
裏庭から建物の周りを回って表に出ようとしたら、やってきた騎士団長と鉢合わせした。
「いやあ、皆さんがこの裏庭でサボるのを見て、わしの部下も真似を始めましてなぁ。訓練の合間にここでサボっているやつらを捕まえに来たんですわ。
お二人は、もしや、また召喚されましたか?」
「団長さん、お久しぶりです。裏には誰もいませんでしたよ。
あと、今回は自分たちで来たんで、召喚されたわけじゃありません。
皆さんお変わりないですか」
オレだって必要なときには大人の挨拶くらいできる。
「皆さんのご協力で魔物討伐して以来、平和になって助かっておりますよ。
本日はカーマイン公女殿下は特にご公務がないはずですから、会っていかれたらいかがです?」
騎士団長に勧められるままに、オレと未夜は公女殿下に拝謁することになった。