アラザール公国へのクラス転移
12月21日(土曜日)。
2学期の終業式を終えた翌朝。
朝の8時に鳴ったチャイムに応えてドアを開けると、クラスメイトの加蔦未夜が立っていた。
朝の冷たく透き通った空気に、吐く息が白い湯気になっている。
「おはよう、タッくん」
未夜は目鼻立ちがはっきりして、誰もが振り向くような美少女だ。
背がすらりと高くて、1年生ながら、バレー部でレギュラーとして活躍している。
いつもは後ろで纏めている黒髪を、今日は腰までストレートにおろしている。
未夜の私服姿なんて、見るのは久しぶりだ。そもそも、未夜と口きいたの何年ぶりだ?
オレ? オレは名鴨県立前照寺高校1年B組、支倉巽。
超弩級美少女の未夜と並べられたら霞む、単なるモブである。
「加蔦さん、久しぶり。まぁ中に入ってよ、寒いでしょ」
そう言って、未夜の後ろでドアを閉める。
「おじゃまします。あれ、誰もいないの?」
数年ぶりなのに、勝手知ったる、というていで2階のオレの部屋に向かう未夜に、
「あぁ、父母ともに休日出勤」
と答えながら、オレも後に続く。
オレと未夜とは幼稚園からの幼馴染だ。小学校では1年おきに2回のクラス替え、それに、中学校でも2回のクラス替えがあったが、なぜかずっと一緒で、おまけに高校でも一緒のクラスだ。
家が近いこともあって、小学生の間はしょっちゅう互いの家を行き来して遊んでいたが、中学生になった頃からは、バレー部レギュラーの未夜と帰宅部のオレとでは生活リズムも合わなくなったし、なんだかんだで関わることがなくなってしまってた。
「昨日はびっくりしたぜ」
「何に? クラス転移したこと? ひと月くらい異世界にいたはずなのに、帰ってきたら2時間も経ってなかったこと? それとも、帰ってきたみんながクラス転移のことを綺麗さっぱり忘れちゃてたこと?」
「あ、……やっぱりそうか。よかった。あれって、オレだけのイタい妄想じゃなかったんだ。
異世界にも勿論驚いたけど、それより驚いたのは、加蔦さんがまだオレのIDを持ってて、連絡してきたってことだよ」