ツインレイの花嫁番外編「幽霊からのショートメッセージ」
このお話は、まだスグルくんと付き合い始めて3か月が経過したくらいのこと。
私こと佐伯友里は、エナジードリンクの飲みすぎにより体調を崩してから連日お世話されている。
スグルくんが言うには、ちゃんとドリンクの影響が取れるまでこの家に居てくれるそうだ。
特にご褒美が欲しいとか、見返りは求めていないらしい。
「友里はすぐに無理をするだろう?ちゃんと大丈夫になるまで、見ていないと危なっかしいよ」
「お、おっしゃる通りです……」
すごく甲斐甲斐しいので、まるで私の母親のような感じがする。
エナジードリンクの影響もなくなり、だいぶ落ち着いた頃だったか。
いつものようにSNSで、他のフォロワーの投稿を見ていると気になるものが回ってきた。
近い内にあるホラー番組を見ると、幽霊からのメールが届くらしい。というものだ。
番組表を確認すると、本当にその番組は放映されるらしい。
こういうのは漫画のネタになるから気になる。
「……ねぇねぇ、スグルくん。明日は予定ある?」
「ううん、特にないよ。何か面白いものを見つけたの?」
「うん!ホラー番組を見ると、幽霊からメールが来るらしいんだ!」
「最近の幽霊はハイテクに適応できているんだね」
現在、私のいる位置は洗濯物を正座して畳んでいるスグルくんに膝枕をしてもらっている状況だ。
つまり寝転がってスマートフォンを見ています。
さり気なく「長時間その体制で見ないでね。目を悪くするよ」と注意は受けている。
私に膝枕しながらで邪魔にならないのか、とも聞いたけど特にそうもないとは言われた。
最初の頃は家事に慣れないところがあったのに、今ではすっかり家政夫さんみたいになっている。
「言われてみると、確かに……?あ、でね。今日の夜にあるみたいだから、一緒に寝て欲しいの」
「え?ホラーはダメなの?」
「怖いもの見たさってこと!たぶん、ひとりでいると寝れなくなっちゃうから……ダメかな?」
「ダメではないけど……友里、俺は男だってわかっているのかな……」
「スグルくんなら大丈夫だって信じているから!あ、もうすぐ始まっちゃう!」
「……性欲がないと思われているのかな、俺って……」
洗濯物を畳み終え、籠に入れた後。
目の前でテレビを見ていた私を、後ろから引っ張ってあぐらをかいたスグルくんのお膝に乗せられる。
離れて見ようねってことだと思うけど、本当に過保護だ。
そんなことをしている間にも、ホラー番組が始まった。
さすがは色々ないわくつきの番組だ。本当に怖い。何度も悲鳴を上げては、スグルくんに抱き着いた。
なんとか頑張って見終えることができたけど、やっぱりひとりでいるのは無理だ。
「……友里、顔が真っ青だよ?」
「うううぅ……スグルくん、一緒にお風呂入ってぇ……」
「……そう言うと思った……その前にお手洗いに行っておいで。トイレもひとりで行くのは怖いでしょう?」
「うん。つ、ついてきて……」
苦笑しながらも、お願いを聞いてくれるスグルくんは頼もしい。
トイレが終わった後、事前にお風呂に湯を張っていてくれていたので初めてお風呂に一緒に入った。
メガネをしていないスグルくんが、いかに顔立ちがいいのかがわかる。
二人で入るのは狭いけど、身体を洗って後ろから抱きしめられる形で入ると落ち着く。
お尻に何か当たっているような気がするけど、だんだん眠くなってきた。
私が眠ってしまいそうだとわかったのか、スグルくんは抱き上げて身体を拭いて下着や洋服を着せてくれる。
眠い目を擦りながら、自分の着替えをするスグルくん。
身体はとてもガッチリしていて、なんだか軍人さんような感じがする。
視線を気にしながらも、時折こちらを見て優しく笑う。本当に私はなんでこんなイケメンマッチョに好かれたんだろう。
これだけハイスペックなら、他にも相手がいたとは思うのに。
「どうしたの、友里。急にご機嫌斜めになっちゃったね」
「……スグルくんがハイスペックイケメンマッチョだからです……」
「ふふふ、貶されている気がするけど……俺はどうあっても、友里だけのものだよ」
「うー……このイケメンめ……」
「はいはい、イケメンでごめんね。そろそろお布団に入ろうか」
恨み言を流されてしまい、そのまま抱っこされてお布団に下される。
ふと、スマートフォンが通知を知らせる明かりを付けている。
なんだろう、と思ってみてみると珍しくショートメッセージが来ているようだった。
「え……?ショートメッセージが来るの、珍しい……なんだろう?」
中身を確認すると、謎の棒線と点が書かれている。
意味がわからなくて困っていると、後ろからスグルから覗き込まれた。
「ん……?あぁ、これはたぶんモールス信号だと思うよ。検索すると、変換できるサイトがあるから調べてごらんよ」
「へぇ、わかった。ええっと……あ、すぐ見つかった。ここに入れて……たすけて?」
変換サイトにさっきのモールス信号文を入れると、たすけて、と表示された。
誰に助けを求めているんだろう。宛名を見ても、何も書かれていないから誰なのかもわからない。
不思議そうにしていると、次から次へとショートメッセージが届いてくる。
ぽんぽんと流れ作業のように入れていくと、だんだんと怖くなってきた。
すき
あいしている
おいで
「ひっ……!なに、やだよぉスグルくん怖いぃいい!」
「興味本位で怖いことを試すからだよ。ほら、おいで。眠って忘れようね」
至って平然としているスグルくんに抱きしめられて、少し安心する。
腕枕をしてもらい、かつ低めの優しい声で子守歌が聞こえてくる。
さっきまでの恐怖心がだんだんと揺らいでいくと、私はスグルくんの腕の中で眠り落ちた。
眠ってすぐの頃だったと思う。
スマートフォンから着信音が流れているのは気づいていたけど、目が開かない。
それを、誰かが止めてくれる。
「……人のものを奪おうとするなんて、いい度胸だな」
聞いたことのない怒気全開の低い声。一瞬、誰なのかわからなかったけど、たぶんスグルくんの声だ。
スマートフォンが何度も鳴る。
切って、鳴ってを何度か繰り返した直後、スマートフォンの方がピタリと音を止めた。
「……除霊は専門外なんだけど……こういう時は神力持ちは便利だな。はぁ……早く友里と結婚したい……」
神力持ちがなんなのかはわからないけど、私と結婚したいと聞いてちょっとだけドキドキする。
時々それらしきアプローチは受けているけど、まだ同人活動を堪能したい。
結婚のことはさておき、やっぱりスグルくんが居てくれてよかった。
困り果てているスグルくんの胸に頬ずりをして、今度は深い眠りへと落ちていくのでした。
(終)