依頼-3
とりあえず眠かったのでもう一眠りすると、次に起きた時は午後の3時を少しまわったところだった。
1つ大きな欠伸をし、立ち上がる。黒い携帯電話がチカチカ光っていた。メールが来ている。
携帯を開くと上司からのメールだった。
「午後4時にいつものファミレスでよろしく!」
4時ならまぁ間に合うか、と蓮一は支度を始めた。
部屋着のジャージから仕事用のジャージに着替えた。
蓮一はいつもジャージを好んで着ている。動きやすいし寝巻にも出来るし最高の服だ、と学校の友人に珍しく熱く語ってしまったが、だからといって毎日はないだろう、と理解してはもらえなかった。別にいいが。
顔を荒い、髪をきゅっと1つに結ぶ。結ばなければならない程髪は長くはないのだが、これも蓮一の持論で、少しきつく結ぶと頭が冴えるというものだった。
そうこうしている内に丁度良い時間になってきた。
サンダルを履いた蓮一は窓枠に足をかけると……―――
思いっきり蹴り、外に飛び出た。
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上司との待ち合わせ場所は、街にあるファミレス『キングリボン』だった。
豪勢な名前とは逆に、そんなにはやっていないようだが。
街といっても都会と言うにはくたびれていて、田舎ともいえない微妙な場所だ。
まぁ、駅もあり自分が住んでいるところよりはよっぽど便利だろう。
店内に入ると、学校帰りの学生が見受けられ、それなりに繁盛しているようだった。
「あ、蓮一君!ここだよ!」
元気いっぱいに腕をブンブンと振る女子高生、佐伯香枝(さえきかえで)が蓮一の上司その人だった。
急に大声を出したこともあって、近くに座っていた人が一斉にこちらを見る。
視線を感じた香枝は真っ赤になって首をすくめた。
「はぅぅ……」
「何やってんすか佐伯先輩」
呆れながら向かい合うように席に着く。どうも佐伯香枝という人間は天然だった。
「恥ずかしかったぁ。あ、ええと蓮一隊員、遠路はるばるありがとうであります!」
「10分もかかってないっすよ」
「あ、そうだった…えっとじゃあ早速今回の依頼を伝えます。第6032世界での討伐依頼だよ」
「6032ていうと朝が来ない所ですよね」
「そうそう。よく知ってるね、前に行ったことあったっけ?」
「一回だけ」
朝が来ないその世界は人々もどこか陰鬱としており、蓮一があまり好きではない場所の一つだった。
「6032で今ね、謎の宗教が流行ってるらしいの。その宗教の影響で暴動が起きたり、変死事件なんかが多発してるんだって」
「じゃあ俺はその宗教団体をぶっ潰せばいいんですね。分かりました」
「うん。あとその宗教団体はえっと…サーカスに扮してるらしいって情報があるから、あたってみるといいかも。それと、くれぐれも関係ない人を殺しちゃだめだよ?もし殺しちゃったら、私が、蓮一君を」
そこで香枝は言いにくそうに口をつぐんだ。別に言われなくても分かっているし、そんなヘマをするつもりも毛頭ない。
「じゃあ俺行きます」
「うん。気をつけてね、いってらっしゃい!」
席を立ち店を出た。
これから本部の次元転送システムに向かわなければならない。
一度準備をしに家に帰ろうかと振り向いた時、目の前に英羅がいた。
訝しげにこちらを見つめている。蓮一としては睨まれる理由が検討もつかないので、若干困った。
まぁあいさつしておくかくらいの気持ちでいたが、それを遮るように英羅が口を開いた。
「これから何処に向かうんですかぁ?」
「は?何処って家だけど」
「ふぅん」
それだけ聞くと興味を無くしたのか、さっさと歩いて人混みの中に消えていってしまった。
全く持って不可解な女だ、と蓮一は眉をひそめた。
「……と、さっさと行かねぇと」
めんどうだな、と心の中でぼやきつつ、足に力を入れる。
次の瞬間には蓮一の姿はそこにはなかった。