対面-2
ド田舎にある小さなボロアパートが沢木蓮一の帰る場所だった。
町は寂れ、人々の目に活気はない。
自転車で十五分ほど行ったところにコンビニらしきものがあるにはあるが、お世辞にも品揃えが良いとは言えない。
つまり、典型的な過疎地だった。
しかし利点もあった。
静かだし、何より煩わしい人間関係が無い。
特に利便性を求めるわけでもない蓮一にとって、ここは理想的な場所だった。
怖いくらいグラグラにになった階段を歩く。
時刻は午後二時。真っ暗で、手すりなど付いていない階段は足元に注意をしなければ落ちてしまいそうだった。
眠たい目をこすりながら、一番奥にある自分の部屋を目指す。
早く布団に包まりたい…。
その一心で彼は、自室の扉を開いた。
*************
ドンドンと、凄い勢いでドアが叩かれていた。
「んだよ……うるせぇな…」
ぼんやりした頭で身体を起こし窓を見ると、太陽はもう随分高く昇っていた。
どうやら昼まで眠っていたらしい……のは別にいいが、さっきから近所迷惑とか全く気にしていなさそうな勢いで自室のドアが叩かれているのは由々しき事態だった。
一瞬自分に来客かとも思ったが、まさかそんなわけは無い。
じゃあ借金取り、家賃の催促、あるいは……
「…殺し屋か?」
借金も家賃滞納もしていない自分にとって、その物騒極まりない可能性が一番高かった。
小さく舌打ちをし、音をたてないように起き上がる。
近くにあった包丁を持ち、ゆっくりとドアに近づく。
つまりは殺られる前に殺れ作戦だ。
今もなお、ドアを叩く勢いに疲れは見えない。
凄い体力だな……と感想を持ちながら。
一気にドアを「え?」開けて、
「……はい?」
そこにいたのは少女だった。
それも、自分と同じくらいの歳の。
真っ直ぐに伸びた黒い髪は肩の所で切りそろえられており、同じく黒い目をぱちくりさせている。
顔立ちは中々に美人だった。
流行とかあまり気にしていなさそうな普通の服を着用し、腕に菓子折りを抱えている。
「あの……手」
「へぁ?」
あまりの予想外さに間の抜けた声を出してしまった。
手……自分の手には包丁が握られており、それを少女の喉のギリギリの所に突きつけていた。
「あ……悪い」
「いえ……」
少女は一瞬怪訝な顔をしたが直ぐに笑顔に戻り、口を開いた。
「隣に越してきた綾部という者ですぅ。以後お見知りおきを」
そう言って菓子折りを渡してきた。水羊羹……食べたことない。
しかし、こんなド田舎にわざわざ引越しか。珍しい。
「あぁ……俺は沢木蓮一だ。よろしく」
社交辞令として手を差し出したが、少女……綾部からの反応はない。
ちらりと顔を見ると、とびっきりの笑顔でこう言い放った。
「いえ、必要以上に馴れ合うつもりはありませんからぁ」
「はぁ?」
「あ、お気に触りましたぁ?」
ごめんなさぁいと、全く悪びれた様子のない綾部に軽く殺意が湧いた。
なんなんだこの女。礼儀知らずにしても度が過ぎている、どういう教育受けてきたんだ。
不穏な空気を感じ取ったのか綾部はさっと踵を返し、隣の部屋に入ってしまった。
やり場の無いイライラをどう解消したものかと菓子折りを眺めながら考えていると、ふとある事に気付いた。
あの女、包丁突きつけられたっていうのに全く動じなかったな……。
これが沢木蓮一と綾部英羅の出会いだった。