原点‐零
其処は城だった。
純洋風のその建物は白く輝き、庭園には四季折々の花が咲き乱れている。
更に、黄昏時のこの時間がより一層美しさを引き立てていた。
そんな城の中、一人の少女が長い廊下を微笑を浮かべ歩いていた。
少女は洋館には不似合いなセーラー服を着用し、腰に刀を差している。
まだあどけなさの残るその顔には爛々と殺意が燃えている。
少女の目的はただ一つ。
この神条院家を滅ぼす事だけだった。
「喜劇のはじまりはじまり、ですぅ」
少女―――― 綾部英羅は、何の躊躇いも無く城に火を放った。
それからの光景はまるで地獄の様だった。
赤々と燃える炎から半狂乱になって逃げ惑う家人達を次々と斬っていく。
その表情には恐怖と、何より驚愕が深く滲んでいる。
斬ろうとする瞬間には皆、口を揃えて言った。
「何故、貴女様が!?」
少女はその質問には答えず、無表情に刀を振り下ろす。
一つ、また一つと鮮血の花が咲いていった。
城の住人をほぼ皆殺しにした事を確認すると、少女は満足気に微笑んだ。
そして、城の最上階へと足を運ぶ。
一番奥にある部屋のドアをノックすると、小さな悲鳴が返ってきた。
ゆっくりと、ドアを開く。
「失礼するですぅ」
「え、英羅………お前は、」
「えぇ?いつ発言を許すって言いましたっけぇ」
中に居たのは中年の男性だった。
油っぽい顔には冷や汗が流れ、体はガタガタ震えている。
少女は小さく舌打ちした。
こんな男のせいで、自分は全てを失った。
こんなにも弱く、惨めな奴にさえ自分は何も出来なかった。
そんな思いが吐き気を催したが抑え、努めて冷静に口を開いた。
「貴様の家も家族も、綾部が全部壊しましたぁ。ご感想は?」
「…………何が、気に入らなかったんだ………」
「はい?」
男は壊れた様に笑い声を上げ、少女に縋った。
「何が気に入らなかったんだ!?お前の望むものは全て、全て与えた!この家も、服も!玩具も!何が足りないんだ?さぁ言ってごらん、さぁ言って!」
男の饒舌は止まらない。
「俺は!お前の事を真に娘と思っていた!なのにお前は何故、こんな事をっ………」
男は涙を流し始めたが、そこに同情など沸く筈もなく、ただ少女は怒りに震えていた。
皆、口を揃えて「何故」と言う。
それが何よりも耐え難い屈辱だった。
自分にされた事は、たった数年で忘れてしまう程のちっぽけな物だったのか。
そんな訳がない。少なくとも、自分にとっては。
城に居た奴等全員がその程度の人間だったと思うと、寧ろ自分の行いが正しい事のように思えてきた。
だから、この人間にも刃を向ける。
当然の事だった。
「貴様のその安っぽい命一つで、許されるんですぅ。こっちは感謝して欲しいくらいですよぅ」
「ま、待ってくれ。い、いい命だけは!」
ヒュッと風を切る音がした。
綾部英羅はたった一人で神条院家を滅ぼした。