夏休みの思い出。〜葵くんと緑ちゃんの夏休みの間の話〜
目に留めていただき有り難うございます。
これは夢を舞台にした葵くんと緑ちゃんの夏休みの間のお話です。
どうぞ読んでみてくださいね♪
私はうつむいて歩く。
周りにいる女の子がニヤニヤしながらこそこそと私の悪口を言っている。
私の隣にはもう誰もいない。
ひとりぼっちだ。
世界に見放されたような気がして走り出す。
こういうのを孤立無援と言うんだよね。
私はそのまま道路へ、飛び出してしまった。
キキッキー。
車のブレーキの音がする。
誰かが、悲鳴を上げたような気がする。
まさか。
と、私は笑う。
私に関わろうとする人なんてもう誰もいないもん。
この時は本気でそう思っていた。
気づいたら病院に居た。
鏡の中で銀色の髪をボブカットにし、黒いリボンがあるカチューシャを付けている女の子が傷だらけの顔でこちらを向いている。
私だ。
と、気づく。
でも、私は誰?
名前は?どんな生活をしていた?学校名は?親友の名前は?住んでいた家はどこ?
そんな疑問が私の頭の中を駆け回る。
お母さんの顔すら覚えてない。
私は目を閉じた。
夢の中。
知らない男の子が前に立っている。
「僕は葵。君の名前は?」
ニコニコと笑う彼の笑顔にはなんだか寂しさが混じっていた。
「私は、」
そこで言葉が詰まる。
「自分の名前が分からないんだ。」
少し恥ずかしくなって強気な感じで言う。
「そうなんだ。じゃあ名前をつけちゃえばいいじゃん。」
明るく彼が言う。
そんなに明るく言っちゃっていいの?
そんな疑問を持つほどだった。
そして私は目を覚ました。
「緑っ。」
若いおばさんとおじさんが駆け寄って来た。
「お母さんとお父さん緑のことすっごく心配したのよ。」
きっとこの人がお母さんとお父さんなんだ。
そして、私が緑…。
そう悟った瞬間、私は何かを思い出した。
忘れてはいけないような、忘れたいような、寂しい感情になる。
私は思わずとっさに手を伸ばす。
私は手を空中をかいて、胸の前で手を握る。
開いた手には、何もない。
当たり前だ。
「…。」
そして、私はまた目をつぶるー。
「緑。私の名前は緑だよ!」
にっこりと私は笑顔で言う。
「そっか。緑ちゃんって言うんだ。可愛い名前だね。」
ニコニコと葵くんもしてくれる。
「願い事は何?」
いきなり葵くんが聞いた。
いつの間にか真剣な顔になっている。
「私の願い事は…。」
私はうつむいて、キッと前を見る。
「私、いじめられていたんだ。もういじめられないように強くなりたい。」
言ってからはっとした。
私、いじめられていたんだ。
「僕もね、昔いじめられていたんだ。でも、もう大丈夫になった。
分かった。強くなれる方法を教えてあげるよ。」
その日から葵くんは夢の中で強くなれる方法を教えてくれた。
夢から覚めてもはっきりと覚えているのが不思議だ。
そして、葵くんと一緒にいると私は色々な事を思い出せた。
葵くんのことを知るのも楽しかった。
ある日。
「嘘はね、最大の武器なんだよ。」
葵くんのその言葉に私は衝撃を受ける。
葵くんが、そんなことを言うなんて思っていなかったー。
「素の自分を出していると、いじめられた時の衝撃が大きい。」
だけど、キャラを演じていればその嘘が鎧となってくれるんだ。
葵くんはそう言って続ける。
どこかで聞いたことあるようなセリフ。
だけど、葵くんが言うと本当のことのように思えてきた。
でも、葵くんはどうしてそんなことを言うのだろう、葵くんのいつも伏せがちな寂しげな目と、何か関係があるの?
聞きたいけど、聞けない。
喉に何かが詰まったように言葉が出てこない。
私がそう思っている間にも、葵くんは続ける。
「一応聞くけど、どうしていじめられたの?」
私の顔が苦しそうに歪んだのを見て葵くんが慌てて、
「ごめん、悪気はないよ。」
私の口からすらすらと言葉が出てきた。
みかちゃんって子がいたの。
その子はね、前はクラスの中で1番目立つグループにいたんだけど、リーダーの美咲ちゃんに一回逆らっただけで仲間外れにされちゃったんだ。
みかちゃんが一人ぼっちになってて、話しかけてみたら仲良くなれて。
いつの間にか私達は親友になっていた。
ある日私が風邪で1日休んで翌朝学校に行ったの。
「おはよう」ってみかちゃんに話しかけたら無視されて、みかちゃんは元の美咲ちゃんのグループに戻って行った。
それから私はクラスのみんなから先生にバレないところで無視され続け、死ねって言わ続けた。
「そんなことがあったんだ。」
葵くんはびっくりしたように少し目を見開く。
まつ毛が長くて、伏し目がちだった葵くんの目を初めて見る。
きれいな澄んだ青色で葵くんのきれいなサラサラの短い黄色色の髪ととても似合っていて、キラキラしていた。
入院していて遊べない分、葵くんと夢の中でいっぱい遊んだ。
夢の中では、現実ではできないことをいっぱいした。
例えば、ひまわり畑を駆け回ったり、プリクラを撮ったり、一回だけハンバーガーショップに行ってお店の椅子に座ってお喋りをしたりして、中学生の雰囲気を思う存分葵くんと楽しんだ。
「夏休みの間一緒に中学生の気分を楽しもう。夏休みが終わったら、多分もう二度と会えないから。」
あったときの最初の頃に行った葵くんの言葉。
ずっと覚えている。
8月31日。
「ねえ。どうして私のことを助けてくれるの?」
私は葵くんに聞く。
「君の金色の目は綺麗だ。」
前置きをしてから、葵くんは静かに語り出した。
葵くんは猫を飼っていた。
名前はミケ。
普通の名前だと思うかもしれないけど、葵くんには大切な愛情をたっぷりこめた名前だったんだ。
ある日、ミケが死んだ。
そして、散歩をしている時に、ミケに似ている綺麗な金色の目をしている私が道路に飛び込んで車に轢かれそうになっている私をたまたま見つけて、助けようと手を伸ばした。
「だけど、間に合わなかった。だから、せめて夢に出てきて緑ちゃんの、ことを励ましたかったんだ。」
そう葵くんは締めくくった。
「そっか。そうだったんだ。」
私は言う。
気づくと葵くんの口が私の耳元に近づいていた。
「ごめん。言っちゃいけないのはわかる。出来ないのもわかる。これは、緑ちゃんの夢の中だから。」
だけど、これだけは最後に言わせて。と葵くんが続ける。
葵くんが目を開いて、にっこりと笑う。
目が合う。
そしてー。
「君が好きです。」
葵くんが言う。
「私も。私も好きです。」
私のほおがじんわりと熱くなった。
白い光があたりを包み始める。
葵くんがもう一度笑う。
私も笑い返す。
「バイバイ。」
「うん。またね。」
私たちは白い光の中で笑い合った。
ガヤガヤと言う騒がしい音で目が覚めた。
起き上がって騒がしい方を見る。
隣に人が集まっているようだ。
白いシーツで仕切られた隣のベットからは時々お見舞いの人が来ていたり、話す声が聞こえたりしたから誰かがいるのは知ってたけど、誰がいるかは知らなかった。
シャ。
と言う音がして仕切りが開けられる。
そこのベットに横たわっていたのは葵くんだった。
一瞬だけ彼の目が開かれる。
それと同時に彼の唇がかすかに動いた。
「大丈夫だよ。緑ちゃん。君はいつか大人になれる。自分を信じて。」
彼の声が耳元で聞こえた。
そしてー。
また彼の目は閉じられる。
彼の目が開かれることはなかった。
中学3年生の春。
私は鏡の前でキュッと首元でリボンを巻いた。
「行ってきます。」
そう言って家を出る。
外では桜が満開だった。
学校まで歩いて、行く間に何本ものの桜の木を見た。
校門の前に立つ。
ふわり。
風で桜が舞う。
「ありがとう葵くん。私、自分を信じるよ。」
そうつぶやいて、私は学校に一歩踏み出した。
読んでいただき有り難うございました。
チミーは何作か作っていますので読んでみてください。
評価をしていただくと分からないのですが、コメントをしていただくと誰がお読みになったかが分かります。
フォローして欲しい方や、お返事などが欲しい方は短くてもいいのでコメントしてみてくださいね。
コメントと評価待っています♪