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9話

「今日は、どのドレスを着て行こうかしら」


 レオーヌ侯爵夫人ロザンナは、ドレス選びに没頭していた。

 本日出席する茶会は、王妃主催のものだ。そのため、いつも以上に気合を入れて身なりを整えていた。

 娘がいなくなって一月が経とうしていたが、そのことで気を揉んでいる場合ではない。


「決めたわ。これにしましょう」

「はい。奥様によくお似合いですよ」


 着付け担当のメイドも、笑顔で賛同する。

 ロザンナが選んだのは、胸元が大きくあいた鮮やかな赤いドレス。袖の部分はレースになっていて、艶やかさを醸し出している。


「だけど、王妃様よりも目立ってしまったらどうしようかしら?」


 口ではそう言いながらも、躊躇う様子はない。

 あわよくば、自分が茶会の主役になることすら目論んでいた。


「奥様、菓子のご用意もできております」


 付き添いのメイドが、布を被せたバスケットを持ってやって来た。

 今回の茶会では、招待客が各自菓子を持参することになっている。

 ロザンナが用意したのは、貴族御用達の人気菓子店の焼き菓子。他の出席者に、引けを取るわけにはいかなかった。


「さあ、行くわよ」

「かしこまりました、奥様」


 メイドにバスケットを持たせたまま、馬車に乗り込む。

 茶会は、レオーヌ領に隣するルディック領にある王妃の離宮で開かれる。

 王都までは馬車を使っても二日ほどかかるため、都合がよかった。


「……ルディック領もいいところじゃない」

「はい。ルディック伯爵は、生産業に関する施策に力を入れていて、経済も安定しているそうです」

「あら、そうなのね……」


 メイドの説明を聞きながら、ロザンナは窓の外を眺めていた。

 街行く人々は皆表情が明るく、活気に溢れている。

 それに比べて、レオーヌ領うちときたら。若者は少なく、街はどこか暗い雰囲気が漂っている。


 ロザンナは、口の中で奥歯を強く噛み締めた。

 かつてはレオーヌ領も、隣国パランディアの文化を多く取り入れた地として、賑わいを見せていた。

 それが十数年前から衰退し始めて、今や兵士が強いだけで華のない領地になってしまったのだ。


(忌々しいわ。国境を守る役目がないから、他のことに手を回す余裕があるだけじゃないの)


 レオーヌ家のほうが苦労している分、何か恩恵があってもいいはずなのに。

 ロザンナは窓の手すりに頬杖をつきながら、平民たちを睨みつけた。


 

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