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8話

 ライラが消えてから二十日が経った。依然、何の手がかりも見つかっていない状況が続いている。

 公爵夫人の失踪事件は、新聞に大々的に取り上げられて、市井はその話題で持ちきりになっていた。


「ライラ嬢も可哀想に……」

「他国の野盗が連れ攫って、ソルベリア家に多額の身代金を要求してるって噂よ」

「いやいや、魔法使いに誘拐されたらしいぜ」

「ウェディングドレスを着たまま、いなくなったらしいからな。あんな格好で街にいたら、目立つに決まってる」

「なのに目撃証言がないなんて、妙な話だ」


 その一方では、トーマスを嘲笑う声が上がっていた。


「それにしても、ソルベリア新公爵は大丈夫なのか? 国王を怒らせたらしいじゃないか」


 大丈夫ではなかった。

 ライラを案じる手紙を出して以降、高位貴族はソルベリア公爵家と距離を置くようになっていた。

 いまだに交流を続けているのは、下心の隠しきれていない下位貴族ばかり。

 しかし、例外もあった。

 ライラの実家である、レオーヌ侯爵家だ。


「今も娘を探し続けてくださって申し訳ない」

「当然さ。だって、ライラは僕の妻だからね」

「ありがとうございます、公爵様。ああ、あの馬鹿娘の不注意でこんなことになったというのに……」


 ソルベリア公爵家を訪れた侯爵は、終始低姿勢だった。

 ライラが行方不明になった時は、どうなることかと肝を冷やしたが、トーマスは娘を見捨てることはなかった。つまり、公爵家とのパイプは健在ということだ。


「ところで、侯爵。例の話なんだけど……」

「ええ。団長たちにも既に話は通しております」


 侯爵はにこやかに頷いた。

 国境付近の領土を管轄するレオーヌ侯爵家は、国境防衛師団を所有している。

 屈強な兵士たちで組織されており、王城の防衛を担う近衛師団に匹敵する戦力を誇る。

 トーマスが侯爵に要求したのは、防衛師団の三分の一を、ソルベリア領に配属させるというものだった。


「ありがとう、侯爵。僕のところも、今は平和だけど何が起こるか分からないからね」


 トーマスは満足げに微笑んだ。

 このロシャーニア王国一と謳われる最強部隊。

 先代ソルベリア公爵が、自分の息子をレオーヌ侯爵家の令嬢と婚約させた理由の一つでもある。

 だが先代の目的は、あくまでも何かあった時に救援を要請するためだ。

 自分の領地に引き入れることなど、一切考えていなかった。


「隣のパランディア王国とは、良好な関係を築けていますからな。攻め入られることなど、有り得ませんよ」


 侯爵もそう判断して、トーマスの要求をすんなりと聞き入れた。

 師団長は難色を示していたが、無理矢理にでも納得させるつもりだった。

 何せ、この見返りにソルベリア公爵家からは、多額の助成金が支払われることとなる。その一部は、老朽化の進んだ屋敷の修繕費に当てる予定だ。


 そしてこの選択が、数年後に取り返しのつかない惨劇を引き起こすのだった。


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