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7話

 結局、ライラの行方は掴めなかった。

 大聖堂付近に住んでいる人々にも聞き込みをしてみたが、全員首を横に振るだけだった。


 当然、結婚式は取り止めとなった。

 その晩、ソルベリア公爵家には多くの貴族から書状が届いた。そのいずれもが、ライラの安否を案じるものだった。


「僕のことはどうでもいいのかよ!」


 トーマスは、手紙の束を床に投げ捨てた。

 それを慌てて拾い上げる執事。


「おやめください、公爵様!」

「だって、そいつらライラのことばかり心配して、僕のことは一言も書いてないだろ!」


 無理もないと、執事は心の中で呟いた。

 式場で国王陛下の不興を買ったのだ。そんな人物と親しい仲だとは、誰も思われたくないだろう。


 それでも、手紙をわざわざ送ったのは、トーマスの妻がライラだからだ。

 彼女の実家は、レオーヌ侯爵家。

 国境の防衛を任されており、強大な常に高い戦力を保持している。

 その一人娘が、突如行方をくらましたのだ。様々な可能性が考えられる。


 しかもライラは物腰柔らかで、聡明な女性だ。

 色白で整った顔立ちをしているが、自らの美貌をひけらかすこともなく、女性でありながら学問などにも精通している。

 それを疎ましく思う者もいたが、好感を抱く者の方が圧倒的に多い。

 この国では、男女問わず勉学に励むことが推奨されているからだ。


「もういい、僕は寝室に戻るよ! その手紙、捨てておいて!」

「……かしこまりました」


 こんなことならライラではなく、トーマスを誘拐して欲しかった。

 執務室を後にする主の背中を見て、執事はがっくりと肩を落とす。

 机に視線を向ければ、大量の書類が積み上がっている。父親が急逝してからというもの、トーマスはまったく仕事に取りかかろうとしない。

「公爵になったら忙しくなるんだから、今のうちに遊ばせてよ!」と言い張っていたのだ。

 そうは言っても、緊急性の高い内容ばかりだ。今までは執事と彼女・・がこなしていたが、それにも限界がある。


 明日からは取りかかってくれるのだろうか。




「あっ、トーマス様! もう、来るのがおそーい!」


 寝室のベッドでは、下着姿のレベッカがうつ伏せになって細い両脚を上下に揺らしていた。


「あはは、ごめんよ。手紙を読まなくちゃいけなくてさー!」


 トーマスはその隣に寝転がると、レベッカの体に抱き着いた。


「ライラはどうなったの? 死んじゃった?」

「うーん、分からないや。身代金も要求されていないし……」

「えっ、お金払えって言われたら、払うつもり?」


 レベッカはぷくっと頬を膨らませた。


「そりゃあね。あんな口うるさい子でも、僕のお嫁さんなんだから」


 今頃は、あまりの恐ろしさで泣きじゃくっているかもしれない。

 そんな時に自分が助けてあげたら、恩を感じて二度と小言を言わなくなるのでは。

 そしてライラは、トーマスが理想とする妻となるのだ。


「明日からは、ライラ探しか! 忙しくなるなー!」

「え~? 公爵のお仕事は、しなくてもいいの?」

「そんなの執事に任せておけばいいんだよ。あの爺さん、何でもやってくれるし」


 二人は笑い合いながら、濃厚な口づけを交わした。


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