41話
「……それで、トーマス様はお仕事をすることになったんでしょう? なのに、私とこんなことをしていてもいいの?」
「いいんだよ。仕事はぜーんぶレベッカに任せてあるから!」
ベッドの中で愛人と睦み合いながら、トーマスは二カッと笑った。
それを聞いて、愛人は意外そうに目を丸くする。
「あらあら、婚約者さんに丸投げしちゃっていいのかしら?」
「丸投げじゃないよ。今は休憩中さ。君が会いに来てくれたんだからね」
「そう……嬉しいわ、トーマス様」
愛人は妖艶な笑みを浮かべると、トーマスの首筋にリップ音を立てて口づけをした。
そして、のそのそとベッドから下りて着替え始める。
「え……もう帰っちゃうの? もっと楽しもうよ」
「ごめんなさいね。この後、他の方との約束があるの」
「そんなの放っておけばいいじゃないか。何か欲しいものがあれば、僕が買ってあげるよ」
他の男を優先するのが気に入らず、物で釣ろうとする。
そんな男へ振り向くと、愛人は目を細めた。
「お気持ちだけ受け取っておくわ。今後のためにも、お付き合いは大事にしなくちゃいけないの」
「ちょ……僕よりもそいつのほうがいいってわけ?」
「だって……いつまでも泥船にしがみつくつもりはないもの」
「ど、泥船?」
目をぱちくりさせるトーマスに、愛人は「それじゃあ、元気でね」と投げキッスをして寝室から去って行った。
「な……何だよ、あのババァ~! 胸が大きいからって生意気だぞっ!」
残されたトーマスは、ドアに向かって枕を投げつけた。
それだけでは苛立ちが収まり切らず、香水の匂いがたっぷり染みついたシーツを床に投げ捨てる。
「はぁ……僕は立派に仕事をしているのにね!」
執事に書類の見方を一から教えてもらいながら、遊びにも行かず執務室に籠もる日々。
すると領地経営は、案外簡単なことに気づいた。
「これからは僕とレベッカに任せておけばいいよ!」と告げると、執事もほっと溜め息をついていた。
あんな年寄りは、もう必要ない。
何故なら、執事とライラのやり方は大きく間違っていたからだ。
(これからは、僕がソルベリア領を管理していくんだ)
意気揚々と鼻歌を歌いながら、ラウンドテーブルに置かれた水差しを手に取る。グラスに注がず、直接口をつけて水を飲むと喉に潤いが戻った。
口元を腕で拭い、不敵な笑みを浮かべるトーマス。
性欲処理の道具がなくなったら、また用意をすればいいだけ。
二日後に、ちょうどいいイベントがある。
ロシャーニア王国建国記念の式典。
そのパーティーには、国内中の貴族が出席することになっているのだ。




