表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】旦那も家族も捨てることにしました  作者: 火野村志紀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/72

31話

「愛人ってどういうこと!?」

「わっ、ちょっと落ち着いてよ! ねっ?」


 困惑と怒りで詰め寄るレベッカを宥めるように、トーマスは顔の前に両手を出しながら言う。

 その様子を見て、愛人とやらが鼻で笑う。


「ちょっとトーマス様。こんなちんちくりんが、新しい奥さんになるの?」

「ち、ちんちくりん!?」


 レベッカの頭に一気に血が上る。


「そんなことを言うなら、あんたなんて年増じゃない!」


 女はどう見ても、二十代後半だった。豊満な胸部と大人特有の色香を持ち合わせているが、レベッカから見れば単なる行き遅れだ。

 だが、女は口元に貼り付けた笑みを崩そうとしない。


「ええ。それが何か?」

「何かって……おばさんよ? 今に誰も相手にしなくなるんだから!」

「それはどうかしら? 私みたいな女は、結構需要があるのよ。……特に若い坊やたちにはね」


 女はそう囁きながら、トーマスの鎖骨をつん、とつついた。


「えへへ。だってレベッカより上手・・だし、色々してくれるからね」

「……っ!!」


 鼻の下を伸ばす婚約者の言葉に、強烈な悔しさが込み上げる。レベッカは鋭い眼光で女を睨みつけた。

 そんななか、トーマスが思いもよらぬ発言をする。


「僕も公爵になって結構経ったし、レベッカが言ってたアレを皆に提案してみようと思うんだ」

「……アレって何?」

「ほら、愛人を公認で持てるようにするって話さ!」

「えっ……」


 確かに言った記憶がある。

 しかし、あの時と今では状況がまったく違う。

 トーマスの寵愛を独占したいレベッカにとっては、都合の悪いものでしかない。


「ま、待ってよトーマス様。私、そんなの……」

「公爵様、メルヴィン王太子殿下がお越しになりますので、そろそろご準備ください」


 タイミング悪く、執事がトーマスを呼びに来た。


「ちぇっ、もうそんな時間かぁ」

「それじゃあ、バイバイ。トーマス様」


 女はトーマスに深い口づけを送った。まるでレベッカに見せつけるように。

 そして素早く身支度を整えて、寝室から去っていった。


(私というものがありながら、浮気だなんて最低よ……!)


 レベッカもまた、怒りに震えながら部屋を出る。

 トーマスを叱責してやりたかったが、自分はまだ婚約者の身。あの馬鹿男の機嫌を損ねれば、婚約破棄を宣言されるかもしれない。

 深呼吸をしながら広間で待機していると、身なりを整えたトーマスがやって来た。わざとらしく、眉を下げながら。


「さっきはごめんよ、レベッカ。僕のこと怒ってる……?」

「ううん。だって、トーマス様が一番愛しているのは私でしょ?」

「もちろんさっ!」

「私もよ、トーマス様……」


 互いに視線を合わせて、触れるだけのキスを交わす。

 たとえ愛人がいたとしても、トーマスにとっての一番は自分。

 心の中で何度も、そう繰り返していると応接間の扉が開いた。


 まず入ってきたのは、鎧を身につけた近衛兵。

 そして、その後ろから杖をつきながら、濃紺の髪の青年が入室してくる。


(な、何よ、あのイケメン……!)


 切れ長の目に、まっすぐに通った鼻梁。

 レベッカが思わず見惚れているなか、トーマスはにこやかに青年へ手を差し出した。


「今日はわざわざお越しくださり、ありがとうございます。メルヴィン殿下」


 その名前を聞いて、レベッカはぎょっと目を大きくした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ