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【書籍化】旦那も家族も捨てることにしました  作者: 火野村志紀


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23/72

23話

 リーネの離宮を訪れた日の夜。レオーヌ侯爵邸の執務室には、夫妻が口論する声が響き渡っていた。


「あんなことを言ってどうするのよ! ライラを連れ帰ることができなくなっちゃったじゃない!」

「お前も赤の他人などと、吐き捨てていただろうが! 私だけのせいにするな!」

「先に言い出したのは、あなたじゃない! 私はそれに賛同しただけよ!」

「目で合図してきたのはお前だ!」


 ソルベリア公爵に話を合わせるために、咄嗟にあの少女がライラではないと否定した。

 しかし屋敷に戻って来てから我に返り、責任を押し付け合っているのである。

 二人が何よりも恐れているのは、実子を失うことではない。そんなものは、どこからか養子をもらってくれば済む。

 だがライラによって繋がれていた、ソルベリア公爵家とのパイプはどうにもならない。


「くそ……あの小僧も小僧だ! あれほどライラに執着しておきながら、女としての価値がなくなった途端、簡単に見捨てるとは……」

「仕方がないわよ。男ってそういう生き物なんだから……」

「私とアレを一緒にするなっ!」


 レオーヌ侯爵はそう叫び、深い溜め息をついた。

 何とかライラ以外で、トーマスに取り入る方法を考えなければ。

 近頃薄くなりつつある頭頂部を、乱暴に掻き毟っている時だった。

 ドアをノックする音が、執務室に響く。


「今は取り込み中だ! 後にしろ!」

「も、申し訳ございません、旦那様。ですが、ソルベリア公爵がお見えになっておりまして……」

「何……?」


 メイドの報告に、レオーヌ侯爵は言いようのない不安に駆られる。

 それは妻も同じだったらしく、青ざめた顔で狼狽えていた。


「こ、こんな夜遅くに来るなんて……うちとの付き合いは、もうやめるって言いに来たんじゃないの!?」

「くっ……」


 否定できなかった。

 沈痛の面持ちで、メイドに付き添われながら応接間へと向かう。

 すると夜間の来訪者は、のんきに焼き菓子を頬張っていた。


「やあ、こんばんは侯爵!」

「……ええ。このようなお時間に如何されましたか?」


 何とか笑顔を取り繕いながら尋ねると、トーマスはティーカップを手にしながら、にんまりと笑った。


「実はさぁ、君に一つお願いがあるんだよ」

「お願い……は、はい! 私にできることがございましたら、何でもいたします!」


 このチャンスを逃してはならないと、レオーヌ侯爵は大きく頷いた。


「本当? 助かるよ! こんなこと頼めるのはレオーヌ家くらいしかいないって、うちの執事から言われてたんだ。だけど君たちにとっても、悪くない話だと思うよ」

「…………?」


 眉を顰めるレオーヌ侯爵に、トーマスは得意げな表情で言葉を続ける。


「ライラがなかなか見つからなくて、辛いし悲しいでしょ? だからさぁ……新しい娘・・・・を作って、彼女のことはもう忘れちゃいなよ」



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