20話
「まったく! ライラを保護したなら、さっさと僕に報告してもらわなくちゃ困るよ!」
「公爵様の仰る通りでございます。身元確認に時間がかかっていたそうですが、仕事が遅すぎる」
「王宮の方々って、あまり有能ではないのね」
離宮に到着するなり、出迎えたメイドたちに文句を言うトーマス。それに便乗する形で、レオーヌ侯爵夫妻も唇を尖らせる。
尊大な態度を取る彼らに、メイドたちの顔に一瞬苛立ちが浮かぶ。
だが、それをすぐに引っ込めて、「この度は、大変申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げた。
「そうそう。相手を怒らせたら、ちゃんと謝らないとね。それでライラは、どこにいるんだい?」
「……ご案内いたします」
年配のメイドが、三人をライラの部屋まで案内する。
と、レオーヌ侯爵が口を開く。
「ここは王女殿下がお住まいの離宮なのだろう? ぜひ、ご挨拶させていただきたいのだが……」
「リーネ殿下は、ただいま外出されておいでです。夜までお戻りにはなりません」
「ふーむ、それは残念だな」
「何かご用件がございましたか?」
「何。将来、孫の伴侶になってくださるかもしれんからな。今のうちに、親交を深めておきたいのだよ」
侯爵が顎を擦りながら述べると、トーマスは後頭部に手を当てつつ照れ臭そうに笑った。
「侯爵は気が早いなぁ~」
「いえいえ。ライラが戻ってきたら、公爵様には早速頑張っていただかなければなりません」
「でも、ライラにそんな無理をさせちゃっていいのかな」
「ご心配する必要はございませんわ! あの子は私たちに散々迷惑をかけたのですから、どうぞ存分に使ってあげてください!」
廊下に響き渡る三人の話し声に、先頭を歩いていたメイドは唇を噛み締める。
そして、
「ソルベリア公爵夫人は、こちらにいらっしゃいます」
「ああ……迎えに来たよ、ライラ!」
興奮を隠しきれない様子で、ドアを開けて部屋に飛び込むトーマス。
「ん? 何だよ、この部屋。随分と貧乏臭いなぁ……」
呆れたように呟きながら室内を見回すと、ベッドで誰かが眠っていることに気づく。
その傍らでは、杖を持った青年がトーマスたちを睨みつけていた。
「こ……これはメルヴィン殿下。どうしてこちらにいらっしゃるんですか?」
トーマスは、ぎこちなく笑いながら尋ねた。
「彼女を保護した時に、俺もその場に居合わせていた。なので貴殿たちの面会にも立ち会うようにと、父から命じられただけだ」
「そ、そうですか。てっきりライラの美しさに見惚れているとばかり……」
「……早く顔を確認してみろ」
冷ややかな声で告げると、メルヴィンはベッドから離れた。
入れ替わる形で、トーマスが恐る恐る近づいていく。
「ライラ……会いたかった……」
甘い囁き声とともに、妻の頬に触れようとする。
だが、その手の動きがピタリと止まった。
「……どうした?」
壁に凭れていたメルヴィンが問いかける。
「い、いえ。その……これ、本当に僕の妻なのですか? 随分と痩せているし、顔色も悪くて……何だか気持ち悪いですよ」
「定期的に栄養剤を投与しているとはいえ、それは仕方のないことでございます」
戸惑いを隠せない様子のトーマスにそう告げたのは、リーネの執事だ。トーマスたちに遅れて、部屋に入ってきたのである。
「えぇ……」
「ま、まあ、ライラが目覚めれば問題ありませんよ」
レオーヌ侯爵が愛想笑いを浮かべて、渋い表情のトーマスに声をかける。
「ねぇ、うちの娘はいつになったら目を覚ますのかしら?」
「それにつきましては、我々にも分かりかねます」
「……何ですって?」
執事の返答に、ロザンナは低い声を漏らした。




