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【書籍化】旦那も家族も捨てることにしました  作者: 火野村志紀


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11話

 どの夫人も王妃の服装を疑問に思うことなく、席から立ち上がりカーテシーを行う。

 ロザンナもはっと我に返り、慌てて立ち上がる。


「お、王妃様。本日はお招きいただき、感謝いたしますわ」

「ええ。レオーヌ侯爵夫人も、お元気そうで何よりです」


 王妃は目を細めて柔らかく微笑むと、席にゆっくりと腰を下ろした。それに続くように、出席者たちも着席する。

 と、そこへ数人のメイドがやって来て、白いクロスのかかったテーブルにティーカップや皿を並べていく。

 マフィン。ダックワーズ。フロランタン。オランジェット。

 皿には様々な菓子が盛りつけられていた。その中には、ロザンナが用意してきた菓子も含まれている。


「あら……どれも美味しそうですわね」

「お花の砂糖菓子を持ってきてくださったのは、どなたかしら? とてもお洒落ね」

「皆さんとのおしゃべりではなく、お菓子に夢中になってしまいそうです」


 流石、どの菓子もレベルが高い。

 夫人たちが盛り上がるなか、カップに紅茶が注がれていく。


「では、冷めないうちにいただきましょう」


 王妃の言葉で、茶会が始まった。

 まずは皆、温かな紅茶に口をつける。


「まあ……美味しい」

「程よい渋みとフルーティーな香り……とても素晴らしい茶葉をお使いのようですね」

「ありがとう。皆さんに喜んでいただきたくて、何日も悩んだ甲斐があったわ」


 夫人たちと王妃の会話を聞きながら、ロザンナは内心腹立っていた。

 王妃が自分の姿を全く褒めようとしない。その他大勢(夫人たち)に褒められても、彼女に認めてもらわなければ意味がないのに。

 その夫人たちも茶会が始まってからは、誰もロザンナに話しかけようとしない。


(何よ、これは!)


 ロザンナの計画では、今頃はちやほやされているはずだった。しかしこれでは、まるでのけ者にでもされているようだ。


 その苛立ちは、所作に現れていた。

 音を立てながら紅茶を飲み、大口を開けて菓子を頬張る。それを繰り返していたロザンナの動きがピタリと止まる。


「このクッキー……どなたが持ってきたのかしら?」


 そう言いながら、途中まで食べたクッキーを指差すと、王妃と夫人が一斉にロザンナへ視線を向けた。


「どれも歪な形ばかり……適当に形を作ったとしか思えません。肝心の味も砂糖が少なすぎて、甘みが全然感じられません。こんなものを焼くパティシエの顔を拝見してみたいわ」


 鬱憤を込めて、早口で捲し立てる。

 スッキリしたところで紅茶を飲んでいると、一人の夫人が口を開いた。


「そのようなことを仰るものではありませんよ」


 ルディック伯爵夫人だった。固い表情でロザンナを睨んでいる。


「わたくしもそのクッキーを先ほどいただきましたが、素朴な味でとても美味しかったと思います」

「申し訳ないけれど、私にはまったく理解することができませんわ。王妃様もそうですわよね?」


 同意を求めるように、王妃へ視線を向ける。

 すると王妃は、少し困ったような表情で、クッキーをじっと見つめていた。


「どうなさいました? 常識知らずのご夫人に気遣いなんて不要ですわよ」

「ええと……ごめんなさいね、レオーヌ侯爵夫人」


 そしてぎこちなく微笑みながら、ロザンナに謝罪する。


「これは、リーネが焼いたクッキーなの」


 リーネ。御年七歳になる、ロシャーニア王国第一王女だ。


 



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