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51.【王国史 第五章 悪魔の記録】より

【王国史 第五章 悪魔の記録】


次の日の深夜。


月が煌々と夜闇を照らしているというのに、なぜか靄がかかったような薄暗さに民たちは不気味さを感じていた。


生ぬるい風は、どこか腐臭を感じさせ、思わず開けていた窓を締め切ってしまう。


それでも、なぜか背中を走る悪寒や蟻走感は消えない。


むしろ、夜が深まるに連れて、何か人が見てはならない。触れてはならない禁忌が迫って来るような。そんな悍ましい気配を、民は感じざるを得なかったのである。


そして、『それ』は現れた。


王都の目抜き通りに現れたその存在は、暗闇の中で炯炯と紅の瞳を輝かせていた。それはまさに異形を示していた。


その正体はグール。


だが、悪魔ユフィーが処刑場にて復活させた三体のグールだけではない。


墓地より冒涜の限りを尽くし、グールとしてこの地に蘇られせた異形の者たち100体以上が群れを成し、うめき声を上げて行進していたのである。


そして無論、その先頭にいるのは、世界を冒す【悪魔ユフィー】である。


その姿は処刑場の時よりも、悪魔とより融合が進んだせいか大きくなり、体長は10メートルを超す巨体となっていた。


まさに、死を冒涜し、死者を使役し、悪魔の所業を犯す首領としての風格を見せ付けているのであった。


彼女に、死者を蘇らせ、行進させ、王都を荒らしつくすことへの忌避感は一切ない。


なぜなら、それが彼女にとっての正義だから。


この世界の中心として輝き、全ての生きとし生ける者たちの頂点として君臨し、崇拝されることが現実化しようとしている今、彼女の精神には陶酔感しかない。


いや、もう一つあるとすれば、それは。


「ぐふふふふふ。来たわね、リリアン」


悪魔ユフィーの襲撃を予想していたカスケス王国は、聖女リリアンを中心とした迎撃部隊を編成し、待機していたのだ。その数は500にも上る。


しかし、それを見ても悪魔ユフィーの余裕は消えなかった。


むしろ、

「あっはははははははぁ! 良質の餌を用意してくれてありがとう、リリア~ン。お前がそいつらを死地に送り出してくれるおかげで、私の栄光が近づくのよ。これほど痛快なことはないわぁ!」


「ユフィー。本気で言っているの⁉ どうしてなの? あなたには公爵令嬢として女主人になる道もあったし、それが嫌なら養子をとって、他国へ嫁ぐと言う手もあったはずよ。なのにどうしてこんな馬鹿な真似を……」


「はぁ~? そんな中途半端な身分なんていらないわ。他国に嫁ぐのもカスケス王国以上の国なんて無いじゃない。そ・れ・に。そもそもお前みたいなババァのドブスが王太子妃になるのに、私がそれに劣る身分になるなんて許せるわけないだろうが。この事態を引き落としたのはお前ってわけよ。お・わ・か・り? 間・抜・け・な・お・ね・い・さ・ま」


「ユフィー……」


リリアンは余りの理不尽な返事に言葉を失うが、代わって、ジェラルド王太子殿下が言葉を発する。


「間抜けなのはお前だ、悪魔ユフィー!」


「で、殿下……」


ジェラルド殿下はユフィーの言葉に対し反論する。


「お前が嘘を吹聴し、あろうことか僕のリリアンを家族ぐるみでいじめていた際、もしリリアンがそのことを一言でも僕に伝えていれば、お前の首はつながっていなかっただろう。だが、彼女はそうしなかった。王室主催パーティーでそれが分かったのは、お前がそうするよう厳命したからだった。つまり今、お前がそうして生きていられるのは、決して妹の悪事を漏らさなかった姉の愛以外の何者でもないんだぞ」


「愛ですって? ぎゃははははは! その結果が王都の危機なんだから嗤えるわ! 捧腹絶倒よお! 馬鹿がぁ!」


だが、ユフィーの余りの冷徹な暴言に対しても、殿下は屈しない。


「その態度こそが、お前が王太子妃になれなかった原因だと、まだ分からないのか?」


「はぁ~? 意味不明なんですけど?」


ユフィーの馬鹿にしたような言葉に、殿下は冷笑を浮かべて答える。


「自分の命を救ってくれた恩人にすらも感謝する心が持てないお前は、悪魔そのものではないか。そんな人間が国母になる資格があるはずもない」


殿下は抜刀し、悪魔ユフィーに剣先を向けながら断言した。


「そして、今や貴族の生活を支えてくれている民すらもグールにし自分の栄華のためだけに冒涜している。そんな人間が人の上に立ったとしても尊敬されることはなく、かけられる言葉は表面上は誉めそやすものであったとしても虚栄に過ぎない。お前は永遠に欲しいと思っている栄華とは無縁の孤独な存在にしかなりえない!」


その正論に対し、悪魔ユフィーは全く動じずに反論する!


「くだらない! 所詮は雑魚のたわごと! 強くて美しい者が世界を支配して、全ての富と栄誉、賞賛を独占するべきだ! そして、私にはその資格がある。そのためにお前らは邪魔だ! 私を認めない者は全員グールになってしまうがいい! 今宵がカスケス王国の最後だ! そして死者の国として、私が世界を支配した最初の日として記録されるがいい!」


あは。


あはは。


あーはっはっはっはっは!


悪魔ユフィーのガラスをひっかくような、耳障りな哄笑が王都に響くのとお同時に、


「行け、グールどもよ! 生者を踏みにじれ!」


「防御に徹しながら前進せよ! 我々には聖女の加護がある!」


悪魔の軍団の侵攻が開始されたのであった。

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