50.【Side悪魔ユフィー】世界は私のためにある
【Side悪魔ユフィー】
「許さねえ! 私より目立ちやがってえ。お前みたいな年増のブスが聖女なんて痛いだけなんだよ! さっさと目の前から消えやがれ!」
どす黒い感情を爆発させながら、私は手に持った剣で、リリアンへと襲い掛かる。
忌々しい白い光に肌が焼けるようだが、奴を殺して私が世界の中心になれるのならどうとでもないことだ‼
「おらぁ‼ ギギギギギギイイイイイイ‼」
私の剣がリリアンを貫いた!
と思った瞬間。
「おっと、そうはさせないよ。僕のフィアンセに触れていいのは、僕だけと法律で決まってるんでね」
「き、決まってませんし!」
「おのれえええええええええええええ‼」
ジェラルド第一王子が私の攻撃を寸前で防いだのだ。
だが、なぜだ?
私の闇の力は圧倒的なはず。人間如き脆弱な存在が防げる代物ではないはずなのに!
しかし、その疑問はすぐに氷塊した。
「聖女から送られてくる光の力が傷を癒してくれたのと同時に、僕に力を与えてくれているんだ。これでもう、悪魔のお前ごときに負けはしないよ。リリアンに恰好悪い所を見せたのは一生の不覚……さ!」
「ぐげあ⁉」
王子の蹴りが私にヒットして、大きくのけぞらされた。
「ゆ、許せないいいい! 下等生物どもがあああああああああ!」
私は蹴られて更に激高するのと同時に、
「もはや手段を選ばん!」
そう言いながら、クルリと横を向いた。
そこにいたのは当然ながら、
「ユ、ユフィー! お父様とお母様をどうするつもり⁉」
そう、私の両親だ。どうするつもりだって? 決まっている‼
この騒動で猿轡がちょうど外れた両親が叫んだ。
「は、はははは! もはや死刑囚になった身だ! よし、ユフィー、私たちも加勢するぞ! 王族どもを皆殺しにしよう!」
「ええ、そうね! そして、私たちでこの世界を牛耳りましょう。全ての富も美も名声も私のものよぉ!」
さすがお父様とお母様だ。なら。
「ありがとう、お父様、お母様。じゃあ、邪魔だからその魂を頂くわね」
「「は?」」
唖然とする二人に私は当然とばかりに言った。
「だって、生きていたら死んでしまうでしょう? 私の代わりに戦うのなら、最初から死んでいた方が役に立つわ。そこのアンリみたいにね」
「ひ、ひい⁉」「や、やめ!」
何かを言いかけた両親だったが、彼らから既に私が世界に咲き誇るための手伝いをしたいという意思は確認できている。もう話すことはない
「さ・よ・う・な・ら」
「「んぎいいいいあああああああああああああああああああ⁉」」
私は彼らの魂を頂く。
そして、間髪置かず呪文を使用した。
すると、倒れた両親、そして裏切り者のアンリがむくりと起き上がったのである。
死者であるこいつらは、忌まわしいグールとして蘇ったのだ。だが、喜ぶべきだ。何せ私を輝かせる手伝いが出来るんだから‼
「これは……驚いたね……」
「ユ、ユフィー! やめなさい! そんな冒涜的なことをしては、本当に魂が浄化できなほど穢れてしまう‼」
「ぎひはははははは! そうだ! その顔が見たかった! 恐怖でおののく、その表情がなあ!」
そう哄笑を上げる私の両脇から、かつて人間だった3匹のグールが彼らに躍りかかって行った。
「消え去れ聖女! 消え去れ王族ども! 私を讃えない存在は! 邪魔者は、この場で死に尽くすがいいわ‼」
そして、
「この世界は私より劣る者のみが残ることになるのよ! あーはっはっはっはっは‼」
私の哄笑が再び部屋の瘴気を濃くし始めるのだった。
「行けえ! 私の華やかな未来のために、そこの邪魔者どもを一掃するのよ!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオン‼」
ギイイイイイイイン!
命を奪う容赦のない攻撃が、王子たちに一斉に行われる。死者は生者よりも何倍もの膂力を持つ上に、私の闇の力を付与しているおかげで、化け物として圧倒的な力を見せる。
「いい気味ねえ! この女王ユフィー様に立ちふさがったのが運の尽きというわけよ! ぎひひひ! 何が聖女だ! 王族だ! お前らはもはやこの女王の敵! すなわち国賊なのよ! あーははははははは! やれ、グールども! 私の手足として働け! 働けえ!」
「くっ! なんて卑劣なんだ。死者への冒涜をこうもあっさりとしてしまうとは!」
「ぎひひひひ! そんな細かなことにこだわってるネチネチした性格はやめることねえ! 私みたいにサバサバした性格になることをおすすめするわぁ! さぁ、グールどもよ! そこの目障りな聖女や王族どもを、さっさと抹殺してちょうだい‼」
ガギイイイイイイイン‼
「むぅ! 死者を弄ぶことにここまで躊躇いがないとはね」
「しかも、私の光の力を圧倒するほどの瘴気です! 死者の冒涜という禁忌が暗黒の力を強めているっ……! ユフィー、本当にもうやめて! あなたを愛したお父様とお母様じゃないの!」
「はぁ~?」
私はせせら嗤いながら言う。
「だからこそ、今も私のために、コキ使ってやってるだろうが! てめえは愛されなかったから嫉妬してるんだろうけど、両親が私に尽くすのは当然でしょう。ま、もちろん、お前らだって死んだらグールにして、私の役に立ってもらうけどねえ。やっぱり私みたいな悪魔さえも虜にする、ちょっと個性的な女の方が女王は向いてるのよ。だから、お前らも殺したら手下にして、他の王族どもを皆殺しにするわ。そうしたら、そいつらも私の配下にしてあげるのよ。そうしてこの世界を支配する‼ 完璧な作戦ね! 神様だって賞賛してくれるはずだわぁ! な、それならお前らも文句ねーだろ? この女王ユフィーの元で、元王族のグールとして世界のために働けるんだからなあ!」
そうしている間にも、グールたちの猛攻は続く。
王子に衛兵たちは光の力で何とかもちこたえているようだが、私の闇の力の方が強い! 両親すらも。そして婚約者だったアンリの死すらも利用するサバサバした性格が、この素晴らしい結果を招いたのだ。
まさに私こそが女王の座に相応しいことを証明している。他の者が今まで私より上の立場にいて、ちやほやされ、誉めそやされ、命令をしていたことこそが世界の誤りだったのだ!
「この世界は私のためにあるのよ‼」
そう叫ぶ。
そして、その理は間もなく、グールによりリリアンや王子たちが殺されることで実現される……はずだった。
しかし。
「ぐ⁉ な、なんだ⁉ 力が……」
私は異変に気づく。力が弱まっているのだ。
それは闇の力を与えていたグールの力にも露骨に反映される。王子どもに押し戻され始めたのだ。
ぎい!
どうしたんだ。こんないいところで!
と、その時。私と同化し、取り込んだ悪魔から知識が流れ込んできた。
『夜が明ける……。闇の力は……暗黒の中で最も力を発揮する……』
「そういうことか! くそが!」
私は悪態をつく。
死刑は夜明け前の深夜にひっそりと行われた。
そこから数時間が既に経過している。体感的にももうすぐ夜明けなのだ。
「ちい! 命拾いしたわね! だが次は必ずグールにして手下として永遠に下僕として酷使してやるわ。首を洗って待っていろ! 私をコケにした報いは必ず受けさせてやるからなぁ‼」
私は瞬時に撤退を開始する。
葛藤がない訳ではないが、明日の深夜になれば、また力が復活し、再びこいつらを襲撃し、跪かせ、あげく下僕にすることを誓わせるチャンスが巡ってくるのだ。それを待つのも悪くない。
と、その時である。
「ユフィー! 正気を取り戻して! あなたが処刑になる際に大切にしていた懐中時計よ! それで人の時の愛を思い出して‼」
「あはぁ」
私は唇を裂けるようにして嗤いながら、こちらへ投げて寄越された懐中時計を受け取る。
「ぎひひひひひひ! 馬鹿めが! なーにが愛だ! お前のは男に媚びる愛だろうが! だが、お前が馬鹿なおかげで時間が正確に分かることだけは、礼を言っておくわ。間抜けな聖女、リリアン姉さん。あは、あははははは! 明日までの命、せいぜい震えて待っていることねえ。私はその姿を想像するだけで身もだえするわ。いひひひひひひひ!」
ゴォ!
「暗黒の瘴気⁉ 光の壁よ! 闇の力を防いで! 待って、ユフィー!」
「見えないが……。気配が遠のいて行く」
私はグールらとともに、煙のようになって城の地下処刑場から抜け出すと、近くの森の中にある沼の中へと身を潜めたのである。
太陽の光にこの身を浄化されぬように。
次の夜には、この世界のすべてが私のものとなり、全ての人類が跪き、崇拝し、富も名声も美も名誉も全てを手中にすることを確信しながら。
唇を歪めながら、時を待つこととしたのであった。あの馬鹿な姉が寄越した懐中時計が、奴ら自身の寿命を教えてくれるかと思うと滑稽で、その笑みはますます深くなった。
【小説・コミック情報】
皆様の応援のおかげで、ノベル第1巻がTOブックス様から、8/19に無事発売されます。
支えてくれた皆さん本当にありがとうございます(*^-^*)
素敵なカバーイラストは岡谷先生に描いて頂きました。
たくさんの加筆・修正を行い、巻末には書下ろしエピソードも追加しました。
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