5.2回目のざまぁの準備は万端
【Side鈴木まほよ】
さて、卒業式ではうまく婚約破棄の隙をつき、あの浮気王子を軽く断罪することに成功した。
単なる浮気を真実の愛などと宣い、あろうことか、婚約者を卒業式という衆人環視のもとで貶めようとする非道を行う以上、相応の報いを受けるのは当然だ、というのが私の考えである。
実際、あの場では王子の印象は最悪にすることが出来たが、一方でこれまで若い時分を全て妃教育に捧げ、友達ともろくに遊ぶこともできなかったシャルニカの貴重な時間は取り戻せないし、口さがない貴族の間では【傷物】という陰口だってやはりあるのだ。
攻略本によれば、事実は王子ルートでは、婚前交渉がない状態で結婚をするはずなので、それはただの噂話なのだが、ゴシップとして人の口に戸は立てられない。
更に、エーメイリオス侯爵家からしても被害は甚大だ。これまで妃教育にかけて来た費用や回収見込みが全て破綻したわけで、その影響はめまいがするほど大きい。
そういったもろもろの被害は、全て第一王子の浮気によるものなのだ。そのことを彼は自覚しているのだろうか?
と、ここまで状況を整理してシャルニカに伝えた。すると、
『多分、反省しているとは思うのですが……。それでしたら許して上げてもいいと思うのです』
「さすがヒロイン。優しいのね」
『ヒロイン?』
「何でもないわ。忘れて。でも、それだったらもうすぐ王子たちが乗り込んで来ると思うわよ」
『えっ!? ど、どうしてでしょうか? もう婚約破棄をして、赤の他人同士になったはずじゃあ?』
ただ、私はゲーム画面を通じて、第一王子の言動などを見ているのだ。
「婚約破棄の撤回を申し出ると思うわよ? そうすれば、全て元さやだわ」
『で、でもミルキア様やメロイ様のことはどうするおつもりなのですか……?』
「第一側妃、第二側妃っていうことにするんじゃないかしら」
『ええええええええええええええ!?』
そう。これは少し予測が入っているのだけど、この世界はゲームなので、ある程度、元々のルートに沿おうとする強制力が働くと思うのだ。
だとすると、元々の第一王子ルートでは、ミルキアの存在というのは出て来ず、メロイ侯爵令嬢とのライバル関係となり、その恋愛レースに勝ち抜いて、第一王子と結婚というルートになる。あんな男がどこの誰に需要があるのかと思うが、いちおう俺様系男子ということで人気はあったらしい。
ただ、ここで重要なのは、ゲーム内においてはその後のメロイ侯爵令嬢の処遇は描かれていないし、当然ミルキア子爵令嬢のことも描かれていない。だが、設定資料集によれば、少なくともメロイ侯爵令嬢は側妃になったことが明記されている。これは案外知らないプレイヤーが多い。また、やはり恋多き男子としての性格は直らなかった、とも明記されている。とすれば、これはミルキアが第二側妃になったことを示唆するとも読み取るほうが自然である。あるいはもっと沢山の女子とも関係を持つに至ったかもしれない。
「そ、そんなのダメですよ! ちゃんと好きな人がいるのなら、最後まで責任を持たないと! えっと、でもどうなんだろう。エーメイリオス侯爵家からしたら、元鞘の方がいいのかな?」
この子はやっぱり王妃の器なのだなと思う。
浮気王子のダメぶりを見てもなお、自身の犠牲をいとわず、自領のことを気にかけている。
やや気弱だが、心根が優しい。
ああ、本当だったら素晴らしい王妃になっただろう。
それを第一王子が卒業式での浮気を堂々と宣言しての婚約破棄などという、バカげた所業で台無しにしてしまったわけだけど。
そんな悩む彼女に対して、私は攻略本を踏まえてアドバイスする。
「なら、お父様に、こう言っておきなさい。あなたのお父様ならご理解くださるでしょう」
「え!? で、でも、それだと殿下の王太子として身分が……」
「自業自得でしょう? 浮気を貫くならしょうがないんじゃない?」
「そ、それはそうかもしれませんね。殿下にとっても愛を貫くことに変わりはないし、エーメイリオス侯爵家にとっても利のある話です……。ありがとうございます女神様。早速お父様に話してみます!」
弱気だけど思い切りがいいのがこの子の素晴らしいところだ。
さて、そんなやりとりをした数日後、思っていた通り、第一王子マーク殿下とミルキア子爵令嬢が、のんきにも一緒に連れだってやってきたのだった。
「開門せよ! デルクンドが王太子、第一王子マーク・デルクンドが来訪してきてやったぞ!」
そんな横柄な態度で。
王太子、ねえ。
いつまでその傲慢な姿勢を貫けるのかしら?
私は冷笑を浮かべながら、ゲーム画面を眺めるのであった。
視野の狭い浮気王子のお馬鹿な顔を、静止画上で眺めながら。
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