44.【Sideユフィー】リリアン暗殺計画を実行する
【Sideユフィー】
ふふふ。
あはははは。
あーはっはっはっは!
私は内心での高笑いを止めることが出来ない。
もうすぐだ。
もうすぐ、私の手の中に、女王の地位が転がり込んでくるんですから!
リリアンが王太子妃になると聞いた時は「お前みたいなブスがでしゃばんじゃねーよ!」と思わず叫んだものだが、今となってはいい思い出だ。
私はサバサバしてるから、そんな積年の恨みなどとっくに忘れてしまったのだ。逆に、権力に固執して、ジェラルド王太子殿下に媚びてばかりの姉さんの、そのネチネチさ加減に呆れていたものだが、こうして私の方が女王になってしまったのだ。
笑わずにはいられない。
たかだか王太子妃のためにあんなに必死になって!
私なんて女王になるのよ!
「ふふふふふ!」
「どうしたんだい、ユフィー? 嬉しそうな顔をして」
「ふふん。秘密、よ。いい女は全部教えてあげないものよ」
「ははは、確かに。そのミステリアスさが更に君を魅力的に見せるよ。そんな君を手に入れられて私は世界一の幸せ者だ」
「ははは。気が早いわね。あの程度じゃ私は満足しきってないわよ」
「おっと。これは願望が口をついてしまったようだね。君に捨てられない様に注意しないと。そのためにも、今日のこの計画は必ず成功させて、君に女王の地位をプレゼントするよ」
「ええ、楽しみにしてるわ」
「二人とも本当に仲がいいのだな」
「ええ、さすが私たちの娘だわ。教皇夫人に相応しい威厳を感じますもの」
計画の遂行を前に私たちは軽口を叩く。
「でも、誘拐を直接私たちが行うとは思わなかったわねえ」
「計画には他人を挟まない方がいいからね。話が漏れることもない。この4人は裏切ることは絶対にないだろう? ただ、もしもユフィーが嫌だと言うなら残ってくれても構わないけど……」
「はぁ?」
私は声を上げてから、
「そんな訳ないでしょう?」
そう言って唇を三日月のように歪めて笑う。
「あのブスがどれだけ私に恥をかかせたと思ってんだよ。社交界では私が恥をかくようにカラーの花を縫って提出しやがるし、ジェラルド殿下へのお詫びも邪魔しやがった。あの子は正真正銘の悪魔よ‼」
だからこそ。
私は更に笑みを深める。
「悪魔のような姉のリリアンに、本当に悪魔が憑りつく様子が見れるなんて最高よ。あのネチネチ女がもがき苦しんでますますあの不細工な顔が歪むと思うと、今からでもお腹がよじれそうだわ‼」
「さすが公爵家を王家に導く自慢の娘だ。リリアンの罪を妹としてしっかりと処断しようとする女王としての貫録がある。ひいては、我ら公爵家が王室に相応しいことを示唆するものに他ならん!」
「ええ、その通りだわ。我が公爵家の品位をたもつためにも宝石やドレス、化粧品を取り揃えるにはますます財政を豊かにしなくてはいけないのですもの。民のためにも私たちが王族となって正しい権威を示し、貴人へ報いることのできる最大の税を納められるように施策をしないといけませんわ」
両親も私の主張の正しさに同意する。
「そう言うわけよ、アンリ。私はサバサバしてるから、もう気にしてないけど、リリアンが犯した罪は消えないわ。法にのっとって裁けないなら、私刑をもって厳罰に処すべきよねえ! それに、彼女がこのまま王太子妃となり、ゆくゆくは王妃にでもなれば、それこそ自己顕示欲の塊だから、政治を歪め民を不幸にしてしまうわ! あいつが王妃になるのだけは避けないといけないのよ。そうしないとあいつが社交界をも歪めてしまう。正しい社交界の花である私を追放したのはそのために違いないんだから。私こそが社交界の花だったのに! そして、そうなったらその影響力で、私たち公爵家を弾圧するに違いない。たかだか話題を独り占めしたいっていうだけで、それだけのことをする女なのよ、あれは! だから悪魔に憑りつかせて、本来の下劣さを世間に見せつけないといけないわ‼ ええ、それが人を欺き、貶めようとしたあいつの末路に相応しいんだから‼」
私がそう言うと、アンリは理解しているとばかりに頷く。
「聞けば聞くほど酷いお姉さんだね。気の休まる時間もなかっただろう。でもそれも終わりさ。ユフィーには既に話してあるが、ご両親もいらっしゃるから、計画の詳細を改めて説明させてもらうよ。と言っても、それほど難しいものじゃない」
私としてはまだ言い足りなかったが、ネチネチ女のリリアンとは違う。
すぐに頭を切り替えて彼の話を聞くことに集中する。失敗するわけにはいかないから二度目の説明も今までにないほどの集中力で聞く。そうすればするほど、早く確実にリリアンに天罰を下すことが出来るのだから!
「ジェラルド王太子殿下が宿泊しているため、お二人は普段同室にいるね」
「これみよがしに自分は王太子妃になりますっていう嫌がらせってわけよね。ああ、ねちっこいこと!」
アンリが苦笑しながら話を続ける。
「ははは、サバサバ女の君とは真反対だね。ただ、今日だけはそのことが良い具合に働く」
「どういう風に?」
一度は聞いている説明だが、改めて聞いて確実を期す。
「今回、誰も接触しない間に、リリアンは悪魔に憑りつかれることになる。接触していたのは陛下だけだからね。このことは後日、リリアンが悪魔憑きになった原因がジェラルド王太子殿下にあったと断定するとても有力な材料になる。更に言うなら、悪魔憑きを断定するのは教団だ。だからこそ、多少強引な状況証拠でも構わないというわけさ」
「なるほどねえ。でも、殿下がそのことを否定したらどうするのかしら?」
「さすがユフィー、皆の理解が深まる良い質問だね」
彼は驚いた後微笑む。
「まぁねえ。私って少し頭の回転が早いから、他のみんなが気づかない些細な点にも気づいちゃうのよねえ。ま、そのせいで、物事をズバズバ言っちゃうようなところがあるから、女友達が出来ないって感じなのよねえ」
「その代わり人の上に立つ時には必須の才能だね、今みたいに。さて、それで質問に答えると、その時は既に殿下はお隠れになった後ということだね。ついでに王たちにもお隠れになってもらおう」
「完璧ね! 死人に口なし! 最後は悪魔のリリアンを浄化して終わりって訳ね! 出来るだけ屈辱を味合わせ尽くして浄化するのがいいわねえ! 悪魔から民草を守るためには徹底しないといけないもの!」
「さすがユフィーだね。姉を殺すのはつらいだろうに、正義の名のもとにはその悲しみすら克服することが出来る。そして、それを黙って娘に託すことのできるご両親もさすがと言わざるを得ないな。さて」
彼は咳ばらいをしてから言う。
「ただ、【悪魔降ろし】には多少時間がいる」
「そこで私の出番というわけね!」
私は得意になって語る。
「リリアンの湯浴みの時間は決まっているわ! もちろん私たち家族の中で一番最後よ! 普段は使わせてないけど、殿下の手前使わせてやってるんだから私にお礼の一つも言いに来いってのよね。まぁいいわ。で、もちろん、私たちみたいに侍女たちの世話も無い! あの殿下もさすがにそこまでは気が回っていないから、誰に見とがめられる心配もないってわけ。そこで、私が待ち伏せして更衣室で薬をかがせて気を失わせるのよ。この作戦のキーは間違いなく私よねえ。それに、多少の長風呂でも殿下はおかしいとは思わないわ。だって、あいつったら、普段使えない大浴場を使えて嬉しいのか、実際長風呂なのよね! あはははは! 馬鹿なやつ‼」
私の解説に満足そうにアンリが頷いて言う。
「悪魔に憑りつかせた後は普段通りに行動するように命令する。王太子殿下がお城に帰る際に同行するように言うように命令すれば、まんまと城中へ迎え入れられるだろう。そうなれば簡単だ。油断しきった堕落した王族たちには地獄に落ちてもらう。そして」
「その代わりに私は女王になるのね‼」
思わず喜々として叫んだ。
「その通りだともユフィー。いや」
アンリは一度私の名を呼んだあと、少し言いなおすのだった。
「ユフィー女王陛下」
その言葉に私は唇を歪めて笑うのとともに、リリアン姉さんへの悪魔降ろしの儀式の成功を必ず成し遂げて、世界で一番賞賛を浴びるのだと決意を新たにしたのだった。
「それでは殿下。お湯を頂いて参りますので」
「ああ、ゆっくりしておいで。リリアンがますます奇麗になるね」
「殿下ったら。お風呂に入るくらいで変わりませんってば!」
リリアンが照れた顔をしながら、殿下の寝泊りしている部屋から出て来た。
「ブスの癖に調子乗ってんじゃねーよ」
私は彼女が部屋から出るのを確認して思わず毒づく。
だが、すぐに気持ちを切り替えることが出来た。
サバサバしているからこれくらい余裕だ。
「ふふふふ。でも、そんなうざいお前の姿を見るのも今日が最後だしな」
私はドタドタと猛ダッシュして、先に大浴場へとたどり着く。リリアンは普段から女子力を周りにアピールするうざいぶりっ子なので、廊下を走ったりすることは出来ないが、私はというと男っぽいところがあるから、こうやっていざという時は思い切り走ったりだってするのだ。
「男受けばっかり狙ってるからてめえは死ぬんだよ、リリアン」
私は先に更衣室へ入ると、ニチャリと唇を歪めて彼女の到来を待つ。
「お、ここがいいわね。でも、こんな置物あったかしら?」
更衣室には大き目な椅子が設置されていた。ちょうど私の姿を隠してくれるほどの大きさだ。しかも、着替えた服を置く棚は反対側にあるから、リリアンを背後から襲うにはうってつけである。
「ははん! いかにも私に女王になって欲しいって感じねえ。天命に違いないわね」
私はますます唇を歪めて笑い、その後ろに身を隠す。
リリアンが着替え始めれば、あいつは隙だらけになる。その瞬間を狙うのだ。睡眠薬をしみこませたハンカチで眠らせる。恐らく何が起こっているかもわからない間にあいつは昏睡状態になるだろう。
そうしたら、アンリやお父様、お母様を呼んできて儀式を始めるのだ。
「くっくくく。社交界から追放されたことも、殿下からヂヂガガミズガエルなんて言われてこっぴどい言葉を吐かれたことも恨んでないけれど、これは相応の報いよ。私が女王になる未来が約束される代わりに、正当な天罰がお前に下されるのよ。くく、くくくく!」
そして、私には栄光と栄華に包まれた光輝に満ちた未来が開かれているのだ。絶えず賞賛と注目が浴びせられる生活は窮屈かもしれないが、他の女どもには耐えられない重責だ。私が勤めてあげるしかないだろう。
と、そんなことを考えているうちに、リリアンが入室してきた。
椅子から見える視野の関係と、あいつの地味な栗色の長い髪で表情こそ見えないが、作戦通り、着替えをするための棚へと近づいている。背がやや高いと思ったらハイヒールを履いているからだ。
どんだけ男に媚び売れば気が済むんだよ。ブスが何しても無駄だっつーの!
私は内心で罵詈雑言を浴びせながらも目的を見失うことはない。
私はサバサバしているから、リリアンのことなんて歯牙にもかけていないのだ。これからこの女が悪魔に憑りつかれて王族を殺し、私の栄光の生贄になる哀れな末路をたどると思うと笑いがこみあげてしまいそうでたまらない。
「死ねえ! 私が女王になって栄華を掴むための贄になれ、おら!」
「うっ⁉」
少し抵抗されたが、リリアンは拍子抜けするほどあっさりと崩れ落ちる。
「ううん……」
とはいえ、眠りが浅いのか、うめき声を上げている。
うつ伏せに倒れて苦悶の表情を見たかったが我慢する。
それよりも、今は達成感に心が満たされていた。
「はあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあ……。はは、ははは、あーはははははははははははははははははははははははは!」
私は哄笑を上げる。
「やったわ!あとはアンリに悪魔降ろしの儀式をさせるだけね! さっそく三人を呼びに行かなくては‼」
私はもう一度駆け出す。
「女王! 女王だ! 私が一番よ! みんなが私を賞賛する! ふふふ、ははははは」
万が一のために更衣室の外鍵を閉めてから、私はアンリたちを呼びに行った。
さあ、最後の仕上げだ。
そして、全て片付いたら今日は祝杯を挙げるのだ。
もちろん、めちゃくちゃきついお酒で泥酔して、アンリに抱かれるのがいいだろう。
一番の功績者である私に、あのイケメンのアンリも目一杯奉仕することだろう。そう思うと体もうずくのだった。
「さすがユフィーだ。作戦は完璧だったようだね!」
「これで公爵家は王家になることができるのですな!」
「贅沢し放題ですわ! ああ、以前欲しがっていたあの海外の宝石。ドレス。全て国庫を解放して買いそろえましょう。王家たるもの、品位維持費はしっかりと使わないと!」
「ふふん。まぁ私ってちょっと男っぽいところもあるから。普通の女どもがぶりっ子して出来な―い、なんてくだらねえこと言ってることも、余裕で出来ちゃうのよねえ」
「ははは。さすがユフィーだね。さて、僕もユフィーに捨てられない様に、自分の仕事をきっちりこなさなくては」
私たちはそんな作戦の成功を確信した会話をしながら、更衣室の鍵を開ける。
そこには先ほど倒れたままのリリアンがいた。
やはり眠りが少し浅いのか、少し移動して、更衣室の真ん中くらいに移動している。
また、やや浴場の湯気が中に入り込んできて、少し更衣室全体に靄がかったようになっていることくらいか。仕切りのドアが開いていたのだろう。
「ユフィー、何か気になることでも?」
「え? いいえ、全然よ」
私は先ほどことを起こした時と少し違う点に気付いていたが、些細なことだと報告しないことにした。そんなことより、
「さあ早く私を女王にしてちょうだい、アンリ」
「おっと、失敬。そうだったね」
そう。そんな些細なことより、私が女王になる儀式を一刻も早くすることの方が大事だ。
別に権力や地位に執着などないけれど、他の者が権力に固執し、ネチネチとした執念でその地位にしがみついている姿は滑稽すぎる。やはり、私みたいなハッキリとものが言えて、サバサバした性格の人間がそうした地位に就くべきなのだ。
「王太子妃になりたいばかりに死んじゃうなんて、本当に残念な結果よねえ。でも、私が王家に代わって女王になって、この世界の中心になって上げるから、草葉の陰で見守っていてね。あははははは!」
「では、始めるよ。ユフィー」
彼はリリアンの周囲に赤い液体で魔法陣のようなものを描くと、詠唱を開始した。
「堕ちたる魂よ、我が前に出よ。闇より来たりし者よ、聞こえるならば返答せよ。汝が力を与えんが為に、我が魂を差し出す覚悟はある。汝が顕現し、名を告げんが為に、我が前に立ち現れよ。この契約を交わし、我が望みを叶えんが為に、悪魔よ、我が呼び声に応えよ!」
詠唱によって、魔法陣が煌々と赤い光を放ち出す。
そして、鼻を突くような腐臭や、何かこの世の者ではないものが今しも目の前に現れようとする狂気のようなものが瀰漫する。一言でいえば瘴気だ。
「くっ!」
「うぐ、ぐええええ」
「う、ぎぎぎ。頭が……」
アンリや両親がその悪魔の存在を感じさせる瘴気にあてられ、苦痛や不快感に顔を歪める。
だが、こんなことぐらいで権力の座を諦められる訳がない!
「ちょっと、頑張ってアンリ! あんたの股間についてるものは何だってんだよ!」
「う、なんてげひ……ぐぐぐぐ!」
アンリが何かを言いかけた。
しかし、その時である。
「やれやれ。最後まで気づかないなんて。愚かにも程があるね、アンリ・マリウス教皇猊下」
「はへ? うげえええええええええええええ⁉」
「え?」
私は何が起こったのか分からなかった。
なぜなら、魔法陣に倒れていたはずのリリアンはいなくなっており、その代わり目の前に立っていたのは。
「ジ、ジェラルド王太子殿下⁉」
「な、何いいいいいいいいい⁉」
「ひ、ひいいいい⁉ ど、どうして⁉」
私は狼狽し、両親も悲鳴を上げる。
だが、私たちの悲鳴はそれだけでは終わらなかったのである。
「最初、話を聞いた時は信じられなかったけれど……。どうして」
彼女は沈痛な面持ちで、扉を開けて入って来た。
「どうしてこんな愚かなことをしたの、ユフィー、それにお父様、お母様……。いえ……」
彼女は首を振って言い直した。
「国家転覆罪をたくらむという大逆罪を犯した重罪人たち。ユフィー・スフォルツェン、アーロン・スフォルツェン、バーバラ・スフォルツェン!」
私を犯罪者扱いする姉の言葉に、私はギリギリと歯噛みして悔しがるのだった。
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