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43.【Sideアンリ・マリウス教皇】野望

【Sideアンリ・マリウス教皇】


くくく。


くくくくく!


くあーはっはっはっは!


私は内心の哄笑を押し殺しながら、公爵家の面々が私の説明に納得する様子を眺めていた。


我がノクティス教団は、夜の静寂と月を信奉する宗教とされており、ミサ(祈り)と懺悔により、その衆生の魂の救済を行うことを目的としている。


だが、これは建前だ。


元々、ノクティス教団は悪魔崇拝の宗教であった。しかし、伝承によれば数百年も前、【聖女】を中心とする討伐隊からの迫害を受け、それから逃れる中で、表向きは夜と月を信奉する宗教としての体裁を整え、幅広い信者を獲得していったのである。


聖女というのは果てしなく眉唾で、恐らく口伝により歴史の伝承が行われるうちに、ノクティス教団が敗走した歴史を、あたかもそうした奇跡の存在のせいにしたのだろう。愚かなことだ。賢しき私は見たこともないそのような私より上位たる存在を信じないし、たとえ、もしそれが現れたとしても、我が一刀のもとにあの世に送ってやろうと内心で嗤う。


まぁ、そのようなわけで、実際の悪魔を召喚魔法は秘匿され、今は教皇のみに引き継がれる奇跡の術となったのだ。


ノクティス教団の本当の最終的な真の目的は、悪魔による力でこの世界を支配し混沌の帳を下ろすことであり、教団の信者のみが悪魔の力を得て、他の人間たちを家畜のように支配する世界である。とりわけこの教皇たる私が世界に君臨し、全てを思うが儘にするのが理想の社会であろう。


目の前の矮小な愚か者たちは、この国の支配できればそれで満足できる小物のようであるが、私はそのような小物で収まる器ではない。


世界。


世界だ。


この世界全体が私に(かしず)くことこそが正しいノクティス教団が理想とする社会であろう。


私はそう確信して、再び内心で唇を歪めて嗤う。


その美しき理想のために、私は周到な準備を重ねて来た。


目をつけたのはこのスフォルツェン公爵家である。やはり国を揺るがすには駒が必要だ。前代の当主は王家に忠実な賢人であり全く隙が無かった。しかし、現当主アーロン・スフォルツェン公爵とその夫人は私が駒とするのに垂涎の対象であるほどの小物であった。


先ほども話していて改めて確信したが、あろうことか王室をただすのが自分たちの役割だと宣っていた。己の器の大きさを把握してから、そうした大言壮語は吐くべきだと、鼻で嗤いながら真実を突き付けてやりたい気持ちで一杯で、我慢するのが大変だった。


ともかく、こうした己を過信した屑から生まれたのがリリアンとユフィーであった。とりわけ後妻のバーバラから生まれたユフィーは、社交界で姉のリリアンの悪い噂や見えない場所でのイジメ行為などを繰り返し、姉とジェラルド王太子殿下の婚約解消を画策していた。


これは利用できると天才である私は瞬時に見抜くと同時に、この駒どもを我が野望のために利用してやることを思いつき、裏から手を回し始めたのであった。


我が教団の信徒は相当数、王家の家臣へ紛れ込んでいる。そこで、ジェラルド王太子殿下へは、リリアンの悪い噂や、イジメが行われている事実を完全に隠蔽するようにしたのである。


一方で国王や王妃にはそういった情報はしっかりと届くようにした。


無論、国王らから殿下にリリアンの素行について話す機会もあっただろうが、殿下にはそんな噂は一向に届いていないのだから、一笑にふすだけで終わり、そもそも信じようとしないだろう。


そうこうしている間に、国王が婚約解消を決定する状況をひそかに進行させていたのである。


リリアン嬢には悪いが、私が世界を手に入れるための尊い犠牲と言ったところか。


小娘一人が不幸になる程度で、私が支配する理想社会が到来するのだから、むしろ喜んで受け入れるべきだということは言を()たない。


王室は近い将来、婚約破棄を決定する。その隙を伺い、我が教団の傀儡貴族をあてがう予定であった。王室を傀儡化する第一歩として!


……だが。


ここで予定外のことが起こった。


なんと王室主催のパーティーで、ユフィーが王室ではタブーであるカラーの刺繍を持参し披露し、ジェラルド王太子殿下をはじめ王室全体を激怒させてしまったのだ!


な、なぜこんなことが起こったのだ!


おかしいではないか!


私は思わず激高して地団太を踏んだ。


なぜならば、本来なら、賢明と言って良いリリアン嬢が止めるか、あるいは両親に相談するなどした際に、カラーの花がタブーであることを事前に知る機会は幾らでもあるはずだ。だからカラーの花が持ち込まれることなど可能性としてありえない。それなのに、なぜかそこでストップがかからず、王室主催パーティーにカラーのレースは持ち込まれてしまったのである!


せっかく隠蔽してきたユフィーのイジメや悪い噂の流布が、王室どころか貴族にまで暴露され、私の完璧な婚約破棄の計画が台無しにされてしまったではないか!


せっかくうまく行っていたというのに!


馬鹿のせいで一からやり直しになってしまった!


くそったれがぁ!


私がそんな風に取り乱すのも無理からぬことであろう。


だが、さすが私だ。


こんな時でも悪魔は私に微笑んでくれた。


王太子妃の座に汲々とするユフィーは、あろうことか王太子に直接アプローチを仕掛け、こっぴどくフラれたのだ。権力を狙う小物ごときが大仰なことをするからしっぺ返しを食らうのだと嗤いをかみ殺すのに必死になってしまった。


しかし、このユフィーの醜態が、私にとっての僥倖であった。


何と公爵家から私に婚約依頼が舞い込んできたのだ。


魂胆は分かっている。


王太子妃になれないのならば、せめて教皇夫人になりたいということだろう。


全くくだらない権力欲だ。誰かの力を借りて支配者になりたいと思う浅ましさに失笑を禁じ得ない。


バーカ!誰がお前のようなブスを相手にするものか!


だが、公爵家を意のままに操れるとなれば話は別だ。


公爵家にうまく入り込み、リリアンを悪魔憑きにする。


私しか知らない秘法により、悪魔を召喚し、リリアンに憑りつかせるのだ!


そのリリアンを操り、まずはジェラルド王太子を殺害する!


そして、国王や王妃をも殺害するのだ!


そこを私のノクティス教団とスフォルツェン公爵の雇った傭兵たちで、リリアンを浄化する。


実際は私の秘法により、悪魔を一旦地獄へと還すわけだが、そこは風聞をうまく流布させればよい。


ともかく、この策略で王室を根こそぎにし、同時に王室には悪魔が憑いたという風聞を流して権威を失墜させる。


代わって、公爵家が王室を興して、傀儡としてユフィーを女王にすげるのだ。


あれは国ごときの支配で満足するだろうから、空虚な玉座に座らせておけばきっと満足する。


くくくくく!


だが、本物の英雄である私はそんな小さな器では収まらない!


世界だ!


世界を我が手中とする。


王室やリリアンの尊い犠牲ごときでそれが手に入る。いや、その第一歩を踏むことが出来るのだから、安い犠牲というものだろう。


私は完璧な成功の青写真を頭に描く。


我が野望の成就はすぐ手の届く場所にある。


そう思い内心大いに上機嫌に嗤いながら、表向きはそれを見せず、ユフィーやその両親たちへ、リリアンを誘拐・拘束し、悪魔を憑りつかせる算段を、馬鹿どもでも分かりやすいように丁寧に説明してやったのだった。


世界を手に入れるために多少の労力を惜しむことはない。


やはり私は世界を手に入れる大器であると、我がことながら確信をせざるを得ないのであった。

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お読みいただきありがとうございます。


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イラストの説明
― 新着の感想 ―
[良い点] 見事な長文説明、噛ませのお手本のようですね。そしてその秘術とやらのカウンターがあったとしたら…いったいどうなるんでしょうね?
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