42.【Sideユフィー】リリアンを犠牲にして王家をのっとれる話に興奮する公爵家一同
【Sideユフィー】
「教皇猊下、この度はわざわざご足労頂きましてありがとうございます」
「いえいえ、愛するユフィーの家に出向くのは当然のことですよ。私こそこのような世界で一番素晴らしい女性をご紹介してもらえて、感謝の言葉を直接ご両親である閣下にお伝えしたかったのです」
「ははは! そうですか!」
「私の娘のユフィーを気に入ってもらえて親としても鼻が高いですわ」
アンリと両親が気分よく笑い合う。
「それにしてもさすがユフィーだな。我が娘ながら、すぐに猊下のハートを射抜いてしまうとは」
「まぁ、私って女って面倒くさいってタイプだから。逆に男性の方が話が合うのよね。それですぐに意気投合したってわけ。周りの女どもが男に媚びを売りまくって似合わない恰好でしなを作って女子力をアピールしてるのとは正反対よねえ」
私も気分よく笑いながら言う。
「いやぁ、本当にユフィーさんのようなハッキリとものをいうサバサバとした女性なら、公私ともに頼りになると確信しました。閣下。いえ、お義父様、お義母様、ぜひユフィーさんとの婚姻を認めて頂けないでしょうか」
「ほう! さすが教皇猊下だ! もちろんです。ぜひ、我が公爵家とノクティス教団が力を合わせて、この国を良き方向に導いて行きましょう」
「さすがお父様だわ! 実はそのことでお話があるって、アンリが。ね?」
「ほう? それは興味深い」
お父様は人払いをして、アンリの言葉を待つ。
「私としてはユフィーこそが女王の座に相応しいのではないかと思っているのです。今の王室は腐りきっていて、もはやその膿を出し切るには、今のカスケス王家に代わる別の王家が必要だと確信している。今の王家は自分たちに甘言をもたらす売国奴のような輩しか重用せず、尊き血筋である者たちすらも蔑ろにする始末。これでは国の秩序を保ち、安寧をもたらされることはないでしょう」
「なんというご慧眼! おっしゃる通りです!」
さすがお父様はすぐに同意される。
「我が父も同じ間違いを犯しておりました。尊き血筋たる私に剣を持って王室を守れなどと説いていたのです。しかし、剣を持つなどと言う野蛮なことをするのは民の仕事であり、王室をただすのが我ら尊き血筋たる公爵家や猊下のような存在であることは明白です」
「まさに忠臣としての矜持ですね。例え目上の存在であっても誤ったことをすれば国のためには断固たる対応を行う覚悟がおありだ。さすが私が見込んだユフィーのお義父様です。感服しました。ただ、ユフィーから聞いたところ、現王太子殿下たるジェラルド様は、リリアン様に夢中とのこと」
「どんな形で媚びを売ったのかしら。まあ、想像にかたくないわねえ」
「ああ、あれは伯爵家のような下賤な血が混じった不純物だ。あのような奴を選ぶのは王家が道を間違えている証拠だな」
「それだけじゃないわ。甘言を弄する者しか王家に入れないっていう明確な意思を感じるのよねえ。私みたいなサバサバしたハッキリ物事を言っちゃえる女は王家には必要ないってことだわ! 王家も落ちぶれたものね! よりにもよってあんなブスを選ぶなんて‼」
「それだけではないでしょう。王家は腐っても王家。狡猾な謀略を同時に巡らせているのではないかと私は思います」
アンリの言葉に、お義母様がハッとして叫ぶように言った。
「公爵家に干渉するつもりなのね⁉ ほら、リリアンは一度あなたに税金を重くすることについて訳の分からないことを言ってきたことがあるでしょう⁉ 民の負担が重くて可哀そうだとか。全く、税を上げなければ宝石も贅を凝らした家具もそろえられないというのに! 言っていることの意味が分かっているのかしら⁉ そう怒鳴りつけて折檻して1週間は水だけにしてやったものよ」
「ちぃ! そういうことか。王家は公爵家の力を削ぐためにリリアンを利用しようという訳か。国への上納金は上げつつ、リリアンの言質をいいように利用し公爵家の税は上げない様にさせ、公爵家の力を弱めて王家の支配を強めるつもりに違いない!」
「確かにあのネチネチ女ならやりかねないわね! 王妃の権力をかさに着てんじゃねえよ! だから女って嫌なんだよ!」
「全くだ。もし、そんなことになったら、贅を極めた生活を送るという尊き血筋を持つ我々の義務も果たせなくなるではないか!」
私たちは一斉にリリアンや王家が考えているシナリオを理解してゾッとする。ああ、なんて醜い下賤な連中なんだろう。私のようにみんなサバサバした性格になれば良いのに!
「皆さん、お気持ちは分かりますが、ここで慌てるのは王家の思うつぼですよ」
ああ、そうだった。
既に対策は考えてあるのだ。私はその秘策を興奮しながら話す。
「私たちには秘策があるのよ、お父様、お母様!」
「「秘策?」」
首を傾げる二人を前に、私は言った。
「リリアンを犠牲にするだけで、私は女王になれるのよ! アンリがそれに協力してくれるの!」
「「本当か、ユフィー⁉」」
その声は驚きとともに、喜色に満ちていたことは言うまでもない。
「私の施策に口を出す下賤な血筋の娘を生贄にすることで、我が公爵家がますます栄えるなどと、リリアンにとっても本望に違いない!」
お父様が興奮した様子で叫ぶように言う。
「ええ、その通りね! アレの命で私たちの生活がより一層煌びやかになるのなら安いものよ!」
お母様も嬉しそうに笑う。
「さすがお父様にお母様ね。すぐに同意してもらえると信じていたわ。そもそも王太子妃になりたいなんて思っていたけど、それでは今の王室の腐敗をただすことはもはや不可能だと思うの。むしろ、リリアンが王太子妃に、ゆくゆくは王妃になれば、公爵家に生意気にも干渉してくることは明らかだわ。民が私を輝かせるために一生懸命働いてお金を納めるという至極当然のことすら理解できない馬鹿なんだもの。王妃になれば酷くなりこそすれ、改善されることはないわ。あのネチネチ女のことだから、お得意の媚びでジェラルド殿下に言い寄って、この家で自分の主張が認められなかった復讐することすら考えるはずだわ。王室も腐敗しているからきっとリリアンと共謀して、公爵家から上納金を絞り尽くそうとするはずよ! 私のためにせっかく働いてくれた民のお金をこれ以上王室のために使うなんて無駄の極みだわ。私以外が輝くためにお金が使われるなんて耐えられわけねーだろうが‼ はぁはぁ、リリアンはこの国の安寧のためにも始末するべきね!」
おっと、つい興奮してしまった。
アンリはいつもの優しい微笑みを控え、沈痛な面持ちになって言う。
「皆さんのおっしゃることはごもっともです。私が懸念していたことを同じく憂いていたことを嬉しく思います。王室の腐敗を正しく理解し、それを正そうとする皆さんこそが本当の貴族というもの。私はあくまで教皇に過ぎないとはいえ、貴族の在り方を学ばせてもらった気持ちです」
「それでアンリ。生贄というけれども、具体的にはどういう作戦になるのかしら? 肝心な部分はご両親にも同意頂けた時に、と言って、焦らされたまままよ?」
「すみませんでした。悪辣なリリアンのことです。どこで聞かれているか分かりません。ユフィー様をさらい、拷問にかけて、私たちの正義の作戦を吐かせるようなことになれば、愛しいユフィーの身が危険に晒されることを恐れたのです」
「確かに、あのネチネチ女がやりそうなことだわ! 陰謀なんて本当に恐ろしい! 拷問なんて最低よ! サバサバしている私には思いつかないわ」
「まったくだ。あれは本当に下賤な血筋を色濃く引きついだのだろうな。やることが陰湿で貴族の風上にも置けん」
「自分のためなら家族であっても犠牲にするのね。ああ、なんて悍ましい」
お父様、お母様も義憤に震える。
全て了解しているとばかりに、アンリが笑顔になって言う。
「そうした危険を取り除くのもまた選ばれたあなた方のような貴族の試練なのでしょう。具体的な作戦ですが、あなたたち公爵家を信頼し、また血縁関係となることを踏まえまして、我がノクティス教団の秘密の一部を打ち明けます。我が教団は、夜の静寂と月を信奉する宗教です。ただ、実際は一部の秘術が歴代の教皇にのみ伝わっているのです」
「ブスは全員死ぬような秘法かしら! そうすればリリアンも死ぬからちょうどいいわ」
あははははは! と私は爆笑する。
アンリは微笑みながら続けた。
「とても勘が鋭いね、ユフィーは。やっぱりサバサバしていると普通の人とは違う視点を持つことが出来るんだろうね」
「まあね。ま、私ってちょっと変わってるから。人の気づかないちょっとしたことにも目が行き届いちゃうタイプなのよねえ」
「さすがユフィーだ。なら、そんな君や、そんな君を育てたご両親なら受け入れてくれることだろう」
彼はそう言って、やはり笑顔のまま続けた。
「ノクティス教団にはね、闇の秘術である、悪魔を憑依させる術が伝わっているのさ」
「「「あ、悪魔ぁ⁉」」」
「そう」
彼はニヤリと唇を歪めて言った。
「未来の王太子妃であるリリアンを攫い、悪魔を憑依させ、我が教団と公爵家で討伐する。それが今回、私が教皇として考えている【闇を祓う聖戦】作戦だよ」
その言葉を聞いて、お父様もお母様も。そして当然私も口をそろえて言った。
「素晴らしい! 王太子妃候補のリリアンに悪魔が憑いたとなれば、王室は不浄な存在として、その権威は地に堕ちるというものだ!」
「王室全体に悪魔が憑いていると噂を社交界で流してあげましょう!」
「誰も王室を擁護出来ない状態になったところで、私の出番ね! 不浄で腐敗した王室を公爵家の私が中心となって駆除すれば、誰もが私を認めるわ。そして悪魔を祓った【聖女】として、新しい王室を興して、女王として君臨するの! 誰もかれもが私を敬い、目を離すことは出来ないわ‼」
「ははは。私たちが協力すればこの国をよくすることなんて造作もないよ。きっとうまく行くことだろう。あなたたちの栄華と発展は約束されたものだ。実行計画もまとめてあるから、もう少し詳しい話をさせてもらうよ」
アンリの話に私たちは興奮しながら耳を傾けたのだった。
ああ、私が女王となる日は、もうすぐそこまで来ているのね。
王太子妃ごときになりたいがために、悪魔に憑りつかれて、駆除されることになったリリアン姉さんについては、悪いけれどそれぐらいの役どころがお似合いとして言いようがないわねえ。
あは。あはは。あははははははははは‼
私の内心で大いに哄笑したのだった。
【小説・コミック情報】
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