41.【Sideアーロン・スフォルツェン公爵】我が公爵家がこの国をノクティス教団と共に支配する!
ノベル第1巻がTOブックス様から、8/19に無事発売されます。
皆様の応援に心から感謝申し上げます。m(_ _"m)
【Sideアーロン・スフォルツェン公爵】
私の名はスフォルツェン公爵家の当主アーロンと言う。
言わずと知れた、このカスケス王国でも有数の力を持つ公爵家の一つである。
私の父はくだらないことをよく言う人物であった。
いわく、民のために我ら貴族がいるのであり、税は出来るだけ安くすること。そうすれば自ずと民は集まり商売に活気が出て、貴族のためにもなるということ。
いわく、文武両道に励み、平時には筆で、国難にあっては剣を持って国のためにその身を奉ずること。
いわく、貴族こそ清貧に務め、また王室に忠誠を誓わねばならないこと、などである。
私はその言葉に表面上は納得して、愛想笑いを浮かべて頷くようにしていた。そうしなければ、同じ話を父は何度もこんこんと繰り返すからだ。
まったくもって時間の無駄に他ならない!
私は父の言葉のすべてが誤った価値観であり、我が公爵家の暮らしが華やかにならない原因だと考えていた。
まずもって、民のために貴族がいるなどということが、最大の誤りであり、恐らく父は頭をどうにかしていたのだろう。貴族のために民がいるのであり、税を軽くするのではなく重くすべきだ。それによって民は貴族に多額の税を納めることが出来るし、良い暮らしをしたいと必死に働くようになるのである。貴族は民にとって神のような存在なのだから、試練を与えるのが貴族の役割なのだ。そこを父は大いに勘違いしていた。噴飯ものと言って差し支えない!
文武両道をもって国にその身を奉ずるというのも、冗談ではないかと、いつも笑いをかみ殺すのに必死だった。貴族の……しかも最上位たる公爵家の嫡男に生まれた自分が努力する必要は全くなく、周囲の物が自分に奉仕することこそが必要なことなのだ。剣を持って戦うということは、この尊き身に傷がつくかもしれないということだ。それはこの国、ひいては世界にとって最大の損失であり、剣を取る必要などない。もし自分に危険が迫れば、民が盾代わりとなれば良いし、それこそが下賤な血を持つ民が貴族に出来る最大の奉仕であり誉なのは間違いない。
そして、最後に清貧に努め、王室に忠誠を誓うこと。これも大いに間違っている。この私ほどの才覚を持ち、尊い血筋である男が貧しい暮らしをする理由などない。才能豊かで尊き自分が民が納めた税で富を築き、贅を極めた生活することで愚かな民へ報いることになる。そして、何より私が最も尊き血筋であり、才能豊かなる人物なのだから、もし王室がこの国を誤った方向に導こうとするならば、それをただしてやらねばならないのだ。
全て私の思い通りになるべきである。それが自明の理であることは言葉を待たないであろう。
その意味においてこれまでの人生で腹に据えかねることが2つあった。
人は前妻である伯爵家の娘だったナンシーと政略結婚させられたことだ。
前当主である父が公爵家の勢力が強くなりすぎるといらぬ誤解を王室に与えかねないという理由で、伯爵家から花嫁を迎えたのだ。だが、その女は地味で男を喜ばすことを知らぬ田舎者であり、かつ父と意気投合して民のために尽くすという忌々しい行動に出た。
ならば好きなだけ尽くすが良いと、私は公務を全て託してやることにした。そして、私の意に沿わないと言うならば仕方ないと、代わりに当時付き合いのあった侯爵家の娘と関係を持ったのである。
やがてナンシーも私がバーバラと付き合っていることの心労や公務による過労が重なり早逝することになった。高齢だった父は私を責めたが、浮気をさせたのは明らかにナンシーであり、民に尽くすという誤った教えを彼女に教えた父の自業自得としか言いようがなかった。やがて、父も病んであっさりとこの世を去った。
間違った行為をした者たちがいなくなったため、私は当主としてバーバラとさっさと再婚するとともに、愛娘であるユフィーを得たのだった。
だが、ナンシーはまたしても私を困らせることになった。リリアンという娘を産んでいたのだ。私の高邁な意思も全く理解せず、バーバラのすばらしさも理解できなかったうえに、バーバラと浮気をさせたのが自分の素行によるものであることも認められなかった前妻の娘など、愛せる訳がなかった。
その上、当のリリアンもナンシーや父の悪しき思想を受け継いでいた。民のために貴族がおり、税をどんどん重くする私に一度難癖をつけた来たのである。貴族が贅沢をすることこそが、彼らに報いることなのだから、見当違いな指摘であることは明白だった。その姿はナンシーや父を思い起こさせ、リリアンに貴族の資格がなく、伯爵家の下等貴族としての下賤な血を色濃く継いでいることを確信したのである。
だから、リリアンには離れの粗末な小屋に一人で住まわせた上で、食事も必要最低限しか与えないようにした。下女同然の扱いとし、この公爵家からもいつか追放しようと考えていたのである。嫁ぎ先はどこかの変態男爵辺りが妥当だろうと思っていたのだ。
しかし、ここで腹に据えかねることが起きた。
なんと、王太子であるジェラルド殿下がリリアンを見初めたのだ。それならばユフィーをと打診したが、ジェラルド殿下がなぜかリリアンを気に入り、首を縦に振ろうとはしなかった。さすがに政治的に正当な理由がないのに、婚約者を簡単に挿げ替えることは私とて出来なかった。
だが、それはやはり良くない結果をもたらした。おのれナンシーめ!
どこまで私の邪魔をするのか!
そう悪態をつかずにはいられない。
先日の王室主催パーティーの折、なんとユフィーがカラーの花をあしらったレースを披露したのだ。遠くのラウンジにいた私たちは駆けつけることが出来ず、社交界の華であった可愛いユフィーは社交界から追放されることになってしまった!
ユフィー曰く、レースの刺繍をしたのはリリアンであり、彼女の提案によって当日出品したらしい。そう、これはリリアンの陰謀に違いなかった!
リリアンが王太子妃に相応しくないことは明らかだった。ゆえに、私は何かきっかけさえあれば、リリアンと殿下の婚約を解消するつもりだった。そこに、リリアンがユフィーをいじめている噂や、他にも殿下がいるというのに様々な男と浮気をしているという不貞の噂も流れて来た。肉親をイジメたり、浮気をするなど人間の風上にも置けない!
私は義憤にかられ、近く婚約を解消することを決意していたのである。
だが、やられた!
先手を打たれたのだ!
狡猾なリリアンはその私の意思を見抜き、ユフィーを社交界から追放する陰謀を巡らせ、それをまんまと成功させたのである。裏でこれほどの緻密で悪辣な計画を立て実行に移すなど、なんて恐ろしい娘なのだろう。私の高貴な血からは思いもよらない発想だ。
だが、何はともあれ、こうして私はリリアンと殿下の婚約解消を実行する機会を失ってしまった。
あの忌々しい、私に指図しようとしたリリアンが王太子妃になり、王族の仲間入りすることに、義憤から腸が煮えくりかえる思いであるし、私からの意向を素直に聞き王室を動かし、最近やや税が重いと泣き言を言いだした民に変わって援助金を出させるということも出来ないのかと、公爵領を思っての行動も出来ないことが極めて残念だと思っていたのである。
そんな風に思っていたところに、彼はやって来た。
そう。
さすが私の愛娘だ。
可愛い娘であるユフィーの魅力によって、このカスケス王国の国教たるノクティス教の教皇、アンリ・マリウス教皇猊下が、我が公爵家の門をくぐったのである‼
【小説・コミック情報】
皆様の応援のおかげで、ノベル第1巻がTOブックス様から、8/19に無事発売されます。
支えてくれた皆さん本当にありがとうございます(*^-^*)
素敵なカバーイラストは岡谷先生に描いて頂きました。
たくさんの加筆・修正を行い、巻末には書下ろしエピソードも追加しました。
ぜひ【ご予約】くださいませ。
今ならTOブックスオンラインストア限定で、特典の書き下ろしSSが付いてきますよ~!
https://tobooks.shop-pro.jp/?pid=175028087
※コミカライズも準備中です!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
お読みいただきありがとうございます。
続きが気になるー! と思っていただけた方は、ブックマークや、↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等、応援よろしくお願いいたします。