4.【Side第一王子マーク】ミルキア子爵令嬢と破局寸前
【Side第一王子マーク】
あああ……。
ああああああ……。
あああああああああああああああああ……。
なぜだ。
どうしてだ。
「なんでこんなことになったああああああああ!?」
僕は絶叫する。
「どうして僕がミルキアと破局しなくちゃいけないんだ!!!」
僕はあのシャルニカという女が気に入らなかった。面白みのない地味な服装、派手なものより編み物や料理、家庭菜園など庶民のやるようなことが好きだった。実に退屈な女だ。それに何より僕がやることにいちいち口答えするのが気に食わなかった。黒いものでも僕が言えば白だ。途中からお前の意見など聞いていないと怒鳴って、やっとそうした口をきくのをやめさせたのだった。
だからこそ、ミルキアといると心地よかった。派手な衣装で僕にしなだれかかってくる彼女は可愛かった。しかも、将来の王たる僕にシャルニカのように生意気な口をきくこともない。
彼女こそ僕の王妃に相応しいと思うのは当然であり、家同士がいくら決めたことであろうと、将来の王たる僕が自分の妃を選ぶのは当然の権利であると思った。
だからこそ、あの王立学園の卒業式という沢山の貴族の子弟の集まる場こそ、その輝かしい一歩を発表する場として相応しいと思ったのだ。ミルキアも早く婚約破棄をして欲しいとおねだりをしていたので、この提案には大賛成だったのである。
無論、その場に他の恋人であるメロイ侯爵令嬢や、実は他にも付き合っている女たちがいるのだが、メロイは恐らく目立つことを嫌うのでその場では何も言わない。また他の女どもは僕のことを愛し、崇拝しているから、しゃしゃり出てくることはないはずであった。
シャルニカも気が弱いから、きっと何も言えず、終わる。
そう思って婚約破棄を宣言した際は、内心ほくそえんでいたくらいだった。
ところがだ!シャルニカはなぜか僕がメロイ侯爵令嬢と付き合っていることを知っていたのだ! そして、なんとあろうことか衆人環視の中で、
『えっ!? 真実の愛の相手は、今でも仲の良いメロイ・ハストロイ侯爵令嬢ではないのですか!!』
と驚いた顔で言ったのである。
なぜそれを知っている!? と思ったし、まさかあの場でそのことを言われると予想すらしていなかった。これは完全に誤算だった。くそ、シャルニカの奴め!なんで邪魔をしやがる!
だが、彼女のその一言のせいで、メロイ侯爵令嬢が動いた。彼女の性格ならば本来は静観しそうなものだが、名前が出されたことに加えて、【婚約破棄】したことにより僕の婚約状態に【空白】があることにつけこんできたのだ!
ここに至って、僕は最大の失敗を犯したと悟った。
メロイの生まれたるハストロイ侯爵家は王家と深い結びつきがある。領内に優良な鉱山資源を豊富に持ち、このデルクンド王国の鉄や銅などの資源はハストロイ侯爵領からのものに50%を依存しているのだ。歴史も古く、公爵家が現在存在しないデルクンド王国では最も有力なる貴族の一つである。
対して、ミルキアの生まれたるアッパハト子爵家は、最近商売で成り上がった貴族に過ぎず、王国に対する貢献も大したことはない。
ちなみに、シャルニカの生まれであるエーメイリオス侯爵家は海洋資源と貿易で栄えた家柄で、これまた歴史が古い。ただ僕はその海に近接する貴族にありがちな荒々しい気風が貴族の優雅さを損なうようで嫌いだった。それに海洋資源や貿易に秀でた貴族の家柄は他にもある。だから僕はエーメイリオス侯爵家を内心蔑んでいたし、その家の令嬢と婚約が決まった時も、心底嫌悪したものだ。
そんなわけで、メロイがしゃしゃり出てきて、しかも、ハストロイ侯爵家の名前を使ってだ!
こうなると僕としても、その言葉を無下にすることはできない。
そんなことをすれば、ハストロイ侯爵家から王家への上納金が減額されるかもしれないし、流通量を絞られれば、とんでもない物価の高騰を招く。そんなことをハストロイ侯爵家にさせた原因が僕などということになれば、王太子という身分も剥奪されかねない!!
な、ならばと僕は考えた。
この際だ、メロイ侯爵令嬢を第一側妃として迎えよう。そして、ミルキアを第二側妃として迎えるのだ。それで丸く収まる。
そんな計算を頭でしていた。なのに、
『それでは殿下、後日使者を送ります。もうあんな子爵令嬢のことなど忘れて下さい。あと、私はあのようなタイプの子は嫌いですので、側妃や妾としても認めませんので、肝に銘じておいてくださいませ』
宣告をするようにメロイはそう言い、僕の返事も待たずに歩き去ってしまったのである。く、くそ! 僕は王子なんだぞ!!
その上、ミルキアからは泣かれた上に、先ほど手紙が届いた。憂鬱な気持ちで開いて読んでみたら、金の無心であった。その筆跡からは鬼気迫るものがあり、侯爵家から損害賠償を求められた場合、子爵家がこのままではつぶれてしまう、どうにか王家の国庫からお金を融通してくれるよう国王に頼んで欲しい、という再三に渡る依頼だった。
くそ! そんなこと出来る訳ないだろうが!
僕は頭を抱えて悪態をつき、そして激しく懊悩した。
ミルキアとは破局も同然の状態に陥ってしまった。
そして、ハストロイ侯爵家はすぐに僕との婚約に動き出すに違いないから、もはや国王が動く事態に発展してしまうに違いない。
そして金の問題。国庫に手を付けることなど不可能だ。だとすればどうすればいい!?
本当なら、今頃新しい婚約者のミルキアと二人、祝杯を上げて華々しい未来について語りあかしていたはずなのに!
今はもはや疎遠どころか、顔を見れば金の無心の話になるのは目に見えていたため、会うことはおろか、手紙への返事すらしない状態になっていた。そして、あんなに情熱的だった愛情が急速に冷えていくのを感じた。
そんなことを考えて数日が過ぎた頃である。
恐れていた凶報が届いたのは。
「殿下! どうしてお返事をくださらないのですか! エーメイリオス侯爵家から正式に損害賠償請求がなされました!! このままでは子爵家がつぶれてしまいます!」
そう言って駆け込んできたのは、ここ数日でげっそりとやつれ、以前の華々しい印象のあった面影がすっかり消え失せた、ミルキアなのだった。
その醜い姿に僕の愛情は更に冷めるのを感じるとともに、なのに、金の話のせいで縁を切ることはできず、延々とミルキアが僕を追い回して来ることに、どうしてこんなことになったのだという、深い後悔と絶望を感じるのだった。
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