30.自称サバサバ女のネチネチ妹を毎日断罪する!
『ねえ、いいでしょう姉さん。リリアン姉さん? 王子との婚約なんて、姉さんには不釣り合いだわ。私に譲ってよ』
姉を自分の部屋へと呼びだした女性。ユフィー・スフォルツェン公爵令嬢は、爪の手入れをメイドたちにさせながら、ゆったりとお気に入りのベッドに腰かけながら言った。
一方、呼び出された姉のリリアンは、その言葉に当惑を隠し切れない。
『で、でも。もう私と王子との婚約は両家で決まったものだし……』
『ふん。そんなのあなたが辞退すればいいだけの話でしょう? 何? そんなに王太子妃になって、贅沢三昧したいってわけ? リリアン姉さんたら、普段は奥ゆかしいフリをしてるのに、本当はとんだ強欲ものよねえ。知ってる? 姉さんについて悪い噂がいっぱい聞こえてきてるのよ? 私みたいな【サバサバ】してない姉さんにはお似合いの【ネチネチ】とした嫌な噂がね。だから、最近は愛想を尽かされかけているみたいじゃない?』
『……そ、それは。根も葉もない噂が社交界になぜか広がっていて! 男遊びにかまけているとか、王立学園でイジメをしているとか。それにユフィーにも手を上げることもあるなんて。そんなことしたことないのに……』
『ふふふ、火のないところに煙は立たないものよ。日頃の行いの報いじゃないかしら。とにかく、姉さんに比べて、王太子妃に相応しいのは明らかに【サバサバ女】の私なのは間違いないの。そう思わない? それに前から思ってたんだけど、姉さんはメイクも似合ってないし、男受け狙ったドレスを着ても滑稽なだけなのよね。気づいている?』
『お、男受けって……。そ、そんな恰好はしてな……』
『ま、そういう男受けを狙った服で釣れる男もいるかもしれないけどね。どこかの下位貴族の子爵あたりくわええ込んだら? なーんてね、冗談冗談、あっはははは‼』
『じょ、冗談……?』
本人はウケると思って発言しているようだが、明らかに冗談を通り越して下品ででしかない。
『まぁ、私はあんたと違って、そんな媚びたりしないけどね。むしろ、そんなことしなくても男友達多いから。女は面倒だからね。化粧とかも最低限にしてるし』
豪華なドレスと贅沢な化粧品に身を目いっぱい飾らせながらユフィーは飄々とそう言ったのである。
『ご、誤解があると思うんです。あの、私は……』
『うるさいわね。聞いてないのよあんたの言葉なんかね。ま、あなたが王子との婚姻を解消される日も近いでしょうけど。なぜなら決めたから。自分から婚約破棄しないなら。ふふふ。今までのように手加減はもう不要よねえ』
ユフィーは唇を歪めて嗤った。
「えっと。それは……どういう……?」
一方のリリアンは彼女の言葉の意味が分からずに首を傾げる。しかし、そんな彼女に侮蔑の表情を浮かべると、ユフィーは自分から招いたにも関わらず、さっさと出ていくよう追い払うような仕草をしたのだった。
まるで下女と主人の関係のようだが、これには理由がある。ユフィーは後妻のバーバラ夫人の娘であり、リリアンの実母であるナンシーは既に逝去している。アーロン・スフォルツェン公爵は後妻のバーバラとその娘の【自称サバサバ女】のユフィーに肩入れしており、リリアンに対する【イジメ】も見て見ぬふりをしているのであった。
そして、これこそがこの乙女ゲー『キラキラ☆☆恋スター ときめきは永遠』のプロローグの序盤らしい。私はクリックする手を止めて、大きく息を吸った。そして。
「あんたのどこが【サバサバ女】なのよ! 単に人の気持ちが分からない冷血女なだけじゃない。言葉でお姉さんを傷つけまくって! 自分アピールのためにリリアンを【貶めて】【イジメ】まくって! 【嫌がらせ】してんのも絶対あんたでしょーが! そんなあんたみたいな女を、【自称サバサバ女】って言うのよ! 【ネチネチ女】そのものじゃない‼ あーもう‼」
私はたまらず言った。
「なんで現実世界の【自サバ女】を忘れるためにしたゲームで、また【自サバ女】を見なきゃなんないのよー‼」
こんな風に激高したのには訳がある。
先週、私こと鈴木まほよは別の乙女ゲー『ティンクル★ストロベリー 真実の愛の行方』をプレイした。その際に不思議なことが起こり、私の声が主人公のシャルニカに届くという現象が発生したのだ。なんやかんやでトラブルを起こし続ける浮気王子たちを撃退し、彼女との間に友情を確認した私は、友達のシャルニカとの【前に進む】という約束を守る形で、私を気遣って連絡をくれていた若社長の榊 佳正さんと食事の誘いを受けたのである。途中までは楽しい食事だったのだが、しかし。
「あーら、誰かと思ったら突然会社を辞めて迷惑をかけた鈴木さんじゃなの~」
「雲田かな江さん? どうしてここに?」
現れたのは同じ秘書課に所属していた雲田かな江さんだった。そして、この女こそまさに……。
「うーん、なんか社長が私が食事に誘ったのに大事な用があるって断るもんだから、何かと思ったのよねえ。そうしたら、まさかの鈴木さんじゃない? 抜け目ないわねえ。なあに、元カレのことはもういいのかしら? それくらい尻軽だと一杯男も寄って来るってわけ? モテる私には分からないけど。ちなみにその服、男受け狙ってんの? 似合ってないわよ」
これである! デリカシーの欠片もなく【下品】なのである。しかも、結婚を前提に付き合っていた彼と別れたことを引き合いに出しつつ、ファッションのことも含めて相手を下げて、自分がモテるアピールしているのだ。とことん【嫌味】な上に、人の気持ちへの配慮など全くなく、平気で【傷つける】人なのである。
にやけ面をする彼女にいちおう作り笑いを浮かべて反論する。
「ご迷惑をおかけしたのは事実だと思いますが、お仕事の方はしっかりと引継ぎをさせて頂いて辞めました。何か不備があったのでしたら具体的に言ってもらえますか? それに私のことを悪く言うのはいいですが、それは今ご同席されている榊社長にも失礼かと思います」
「居直りって訳? これだから理屈の通じない女は嫌ね。私みたいに【サバサバ】した女が今は受けるのに。だから10年も付き合った彼にフラれるのよ。あ、私男友達多いのよね。あなたみたいにわざわざ男に媚びてないんだけどさ。ちょっと紹介してあげようか?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべる雲田さん。事情を知った上で傷口を抉ろうとするあんたのどこが【サバサバ】なのか意味不明で、その上、議論を破棄したのはそっちで、それを世間様では居直りって言うんですが! しかも男友達が多い発言もただのモテるアピールであり私へのマウントでしかない! と、そう言ってやろうと思ったけれど、この人は話せば話すほど【相手を傷つける】タイプだ。そういう人の痛みに興味がないのである。
実際、新人に色々な【嫌がらせ】や【イジメ】などを散々【ネチネチ】としつこく仕掛けて辞めさせたり、休職に追い込んだりもしていた。他の女性と付き合っている男性でも、良いと思ったらこっそりと裏から手をまわして寝取ったりなど、【サバサバ女】とは真逆の、やりたい放題の【ネチネチ】【ジメジメ女】で男への執着心も凄いのである。先ほどの榊社長へアプローチしていたことからも明らかなように。ちなみに、もちろん、私もかなり【嫌がらせ】をされていた。まぁ、持ち前の馬力で撃退していたのだが……。
「雲田君。俺はね……」
「あー! もうこんな時間! 社長、ありがとうございました! 大変楽しいお食事でした! そろそろ私、帰らないと!」
社長が何かおっしゃろうとされたけど、その女はアンタッチャブルだ。もし、やるなら徹底的にやらないと勝てないのだから。
「また逃げるのかしら?」
「鈴木君。いや、気を使わなくてもいい。俺は……」
「そうそう、厄介な女からは逃げるに限るわよ! ああーでもよく考えたら一つだけ引継ぎ漏れてたわ~」
「は、はあ? ふん、意味が分からない女ね」
最後まで嫌味を言う雲田さんを尻目に、私はショルダーバッグをひっつかむと、そう言って店を出たのだった。
「社長、お金支払済みだったなー。悪い事しちゃったな」
帰宅して呟く。あんな最悪な形で食事を終わらせてしまったので、罪悪感がわく。もう二度と誘って貰うこともないと思うので余計に。
「雲田さんのこと、どうしようか迷ってたけど、やっぱり今でもあんな感じか……しょうがない、やるか!」
私はするかしまいか、迷っていた【引継ぎ】を実行しようと決意する。ただ、その行為は憂鬱なので、ちょっと気晴らしでもしようと考えた。そう思って手に取ったのが、そう、乙女ゲー『キラキラ☆☆恋スター ときめきは永遠』だったのである。
「だってのに、どうしてまた雲田さんみたいな【自サバ女】が出てくるのよー‼」
私はそう言いながらゲーム画面を見る。攻略本によれば、このゲームの主人公のリリアンは様々な男性と恋愛するハートフルな恋愛を楽しめる内容と書いてあった。相手は隣国の皇帝や幼馴染の辺境伯、騎士団長などがいる。だが肝心の婚約者の王子もまた一からの恋愛の対象になっているのだ。これはどうやら、妹がこの後、色々と手練手管を駆使し罠を仕掛け、社交界に悪い噂を流したり、イジメられたと嘘を流したりすることで婚約破棄を成立させるよう暗躍する。そのために恋愛が0からスタートするということである。ただ、この婚約者の王子が噂に流されて婚約破棄を自らするのかと言えばそうではないようだ。プロフィールを読む限り、ずっとリリアンのことが好きなのは間違いないようである。つまりだ、妹の策略によって国王陛下と公爵が婚約破棄を決定してしまい、王子やリリアンとしては従わざるを得ない状況に追い込まれるということらしい。
「それって雲田さん……じゃない。この【自サバ女】のユフィーの嫌がらせが成功しちゃうってこと⁉ っていうことは、ユフィーの理不尽な【毒舌】を周囲の人達が認めるってことよね。自分が目立ちたいってだけでリリアンを【貶める】発言をしまくってる彼女に泣き寝入りしろってこと⁉」
その事実が、今日あった雲田さんとの理不尽な会話と完全にオーバーラップする。私は思わず叫んでしまった!
「どーしてこういう理不尽な裏表ばっかの【ネチネチ】した【下品】な【冷血女】が得するようになってんのよ! 我慢してる方が一方的に責められるだけってあんまりじゃない! 誰か一人くらい彼女の味方になってやれってのよー‼ 家族も全員敵みたいだし‼」
そして、机をドンと叩きながら言ったのだった。
「もしも私が味方して上げられたら、攻略本を駆使してリリアンを何とか助けて上げるのに! この邪悪な妹を何度だって、何回だって、【断罪して、ざまぁして、駆除】してやるってのにー‼」
そう言葉を発した、その時である。
『え? あ、頭の中にお声が……。あの、もしかしてそこにいらっしゃるのは、もしや運命の女神フォルトゥナ様でいらっしゃいますか? それとも、やっぱり私の気のせい?』
こ、これは、もしや……。確認するまでもなかった。
「ま、またなのー⁉」
私の驚愕の声が部屋の轟いたのであった。
またしても私の声が天の声として、ゲームの主人公へと届くようになったのである‼
【小説・コミック情報】
皆様の応援のおかげで、ノベル第1巻がTOブックス様から、8/19に無事発売されます。
支えてくれた皆さん本当にありがとうございます(*^-^*)
素敵なカバーイラストは岡谷先生に描いて頂きました。
たくさんの加筆・修正を行い、巻末には書下ろしエピソードも追加しました。
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今ならTOブックスオンラインストア限定で、特典の書き下ろしSSが付いてきますよ~!
https://tobooks.shop-pro.jp/?pid=175028087
※コミカライズも準備中です!
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