26.【Sideシャルニカ】怨霊となった二人をざまぁ!する(前編)
【Sideシャルニカ】
私は一日の公務を終え、ベッドに体を預けて眠ろうとしているところだった。眠る際は色々と物思いにふける。今日はリック様のことを考えていた。
将来戴冠される王太子のリック様はとても素晴らしい方で、王太子妃として至らないところばかりの私にとても優しくして下さる。
幼い頃から武人として育ったため、一見すると怖い印象を持つ方も多いようだが、私に対して何か怖いことをしてきたことはない。
ま、まぁ、ちょっと夜の方は怖いと言えば怖いのだけど。
普段はとても優しい。優しすぎるくらいで怖くなる。私などに頼んでもいないのにとても高価そうな宝石やドレスなどを贈ってくれるし、花束も毎日届く。
ただ、他の男性の方と政治的な話であっても、何か話していると少し不機嫌そうになる。その理由は分かっていない。
あと、剣の腕も王国どころか大陸で一番とも言われており、圧倒的な強さを誇る。
先ほど一見すると怖い印象と言ったが、お顔の方は精悍で目つきはやや鋭いかもしれないが、とても整ったお顔立ちであり、何より幼い頃から鍛えておられるので、細くて長身なのに、とても引き締まった体をされていて、触れるたびにドキリとするほどだ。
なので、さぞやモテると思うので、他の女性で良いと思う方はいないのか、興味本位で聞いたりしたことがある。王が側妃を持つことは珍しいことではないからだ。
でも、彼はその話を言下に『君以外には全く興味が無い』と切り捨てた上で、『もしかして他の女の所に行って欲しいのか? 俺を嫌っているのか?』となぜか不安な様子で聞いてくるのだった。彼の誤解を解くのにとても時間がかかったので、それ以来他の女性にまつわる話を振ることは避けている。
お仕事も超一流と言って良く、一日では到底終わりそうもない量の仕事を超人的なスピードで終わらせて、私と必ずお茶の時間を持ってくださるのも凄いといつも尊敬するところだ。
『いやぁ、愛されて羨ましいわ』
女神ヘカテ様だ。
今回のマーク第一王子の婚約破棄から始まる国家転覆未遂事件の解決までずっとご神託をくださった。
ただ、最近はマーク元殿下とミルキア元子爵令嬢が処刑されたことで、危機は去ったとご判断されたのか、余りお声を聞かせてくれなくなっていたのだが。
「お久しぶりです。女神様。おかげさまで内乱も回避されて、幸せに暮らせております」
誰もいないので声を上げてお礼を申し上げる。
『あー、そっかそっか。そっちだともう結構時間が経ってんのよね。こっちだとイベントシーンが一枚絵で流れちゃうから、日数経過がよくわかんないのよね。ああ、うん、挨拶が遅れてごめんなさい、お久しぶりね、シャルニカ。私にとっては数分ぶりなんだけどね』
イベントシーン?
日数経過?
よく分からないが、いつもの天界用語だろう。
「今日はどうされたのですか?」
私が聞くと、女神様はため息をつきながら申された。
『最後のアドバイス。あー、ご神託ってことになるかしら。それをしようと思ってね』
「さ、最後ですか?」
『そう。なんかねゲーム……あー、いえ、ちゃんとした世界よね、もう。そっちの世界では誰ルートで行っても、一番恨みを募らせた相手がエンディング直前でシャルニカの魂を夢の中に怨霊になってまで狙って来るっていう回避不能なイベントがあんのよ。しかも、イベント的には寝た後に、朝ちゃんと起きるか、そのまま目覚めないかだけで、私も介入できないっぽいのよね』
エンディング?
ご神託の言葉には天界用語が多くて、よく理解できないものも多い。
ただ、解釈するに、
「今夜、怨霊が夢の中で私を襲ってくると? そして、もしそれに負ければ死んでしまう、ということですね?」
そして女神様すら介入できない。
『そう。だから気を付けて。まぁ、この勝利時の必要フラグは、そのルートの相手との親密度らしいから大丈夫だとは思うんだけどね』
フラグ? 親密度?
女神様がお伝えしてくださる神託を全て理解できない自分がもどかしい。
でも、
「大丈夫です!!」
『シャルニカ?』
「今まで、ありがとうございました、女神様。女神様がついていると思えたから、私は頑張ってこれたんです! 最後の最後まで、情けない姿を見せたりなんかしません!!」
『わ、私は別に何もしてないわよ。ただ、攻略情報を伝えていただけだし。それに私自身は自分のことすら出来ていないし……』
「こ、こんなことを言うのはおこがましいにもほどがありますが、お許し下さい、女神様! 女神様なら大丈夫です!! どんな状況なのかも知らずにすみません!! でも、女神様が私を助けて下さったのは、色々な運命を見れる力があるからではなく、単に私を助けたいと思って下さった優しさです!! 私が助けられたのは、女神様の運命を見る力ではなくて、その温かい心なんです!! だから、そんな優しい女神様が不幸になるわけありません!! きっと、別の女神様が女神様を見てくださっています!!」
そう一息に言い切った。
言ってから、神様相手になんてことを言っているのだろうと思って後悔したが後の祭りだ。
でも、
『ぷっ。何それ。攻略情報じゃなくて、私がいたから助かったみたいな物言い』
「こ、攻略情報というのが何か分からないのですが、その通りです!!」
『そう……』
女神様は少し沈黙された後、
『ありがとうね、シャルニカ。なら、私たちは友達ね。お互いの困難を励まし合って、前に進んできたんだから』
「と、友達。は、はい。女神様にそう言ってもらえるなら!」
『そう。じゃあ、シャルニカ。頑張って。これが最後の【断罪】よ。そうしたらハッピーエンドね。私も……』
女神様が決意するような、今までにない強い声音で言った。
『私も友達を見習って、前に進むようにするわ』
入眠する。いつもなら夢の中とは自分では気づかない。
でも今日は明らかに意識があった。
肌寒い風が吹き荒れ、その風はまるで亡霊の怨嗟のように不気味な音を奏でている。
そして、その音が一つのしっかりとした言葉として、私の耳に徐々に届き始めたのである。
ああ、これが……。女神様のおっしゃっていた通りだ。
私の目の前にはいつの間にか、断頭台で命を絶たれたはずの、マーク元殿下とミルキア元子爵令嬢が、神話にある血まみれの動く死体、いわゆるゾンビという怪物の姿で、恨みのこもった視線を私へと注いでいたのである。
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