23.【Sideリック王太子】溺愛②
【Sideリック王太子(溺愛ルート)】
さて、とある日のこと。俺が王城の庭を仕事の息抜きがてら散歩しているときのことだ。
同じく散歩しているシャルニカを見つけた。城の庭園は相当広く、彼女はかなり離れた場所にいる。
だが、なぜか彼女だけはどこにいても居場所が分かるような気がするから不思議だ。
彼女は奇麗な金髪を風になびかせてゆっくりとした足取りで歩いている。
俺の愛しい人は、いつもながら俺を幸せな気分にさせてくれる。
こうした経験は他に出会った女性からは一切感じたことはなかった。それは生涯変わることはないだろう。
そう言えば、先月などはメロイ侯爵令嬢と廊下ですれ違ったことがあり、『愛妾』はどうかなどと誘いを受けた。
社交界では麗しい女性とのことだが、俺は眼中に全くないのでにべもなく断った。
そのことは、後日シャルニカにも報告してある。
ただ、その時のシャルニカの反応は意外なものであった。
「側妃としてお迎え頂いても私は良いのですよ?」
と言ったのだった。
俺は驚くと同時に酷く落ち込んだ。絶望したと言って良い。
メロイ侯爵令嬢に興味がないことはもちろんである。しかし、それよりも、何よりも、俺がメロイ侯爵令嬢と付き合っても平気なのだとすれば、それはすなわち、シャルニカが俺を男として見ていないという証拠である。
まさか他に好きな男がっ……!?!?!?!?!
ちなみに、その日の剣の稽古は荒れに荒れてしまって、部下たちが怯え切ってしまった。
反省した。
どうしても、彼女のことになると、平常心を保つのが難しくなる。
ただ、幸いなことにそれは誤解だとすぐに判明した。
彼女の発言は王室のことを考えた政治的な意図だったからだ。(当たり前だ)
「政治的なバランスを考えますと、北部貴族から側妃を迎えておくことは理にかなっていますので」
なるほど。そういうことかと納得する。あくまで政治的な配慮で行った発言であり、俺への好意がないわけではないのだ。そう思うと嘘のように胸に去来していた絶望感が去って行った。
「俺が愛するのは君だけだシャルニカ。他の女性には微塵も興味はない」
「そ、そ、そ、そうですか。あ、あの、あ、ありがとう……ございます」
彼女は顔を真っ赤にする。
何度も告げている事実なのに、今だに照れるところがとても可愛らしい女性だと思わずにはいられなかった。
と、そんな思い出に耽っているうちに、彼女との距離が近くなってきた。
だが、そこで俺はショッキングな光景を見ることになる。
なんと彼女の隣に美しい銀髪の青年がいたからだ。いかにも精悍な面構えであり、身体は浅黒くよく鍛えられているのが分かる。
そんな男とシャルニカはとても親しそうな雰囲気で談笑しながら、日向をゆったりと歩いているのだ。
なんということだ。彼女の魅力に気づいた別の男が近づいたのだろう。見たことのない男だが、誰であれ、そこは俺の場所だ。彼女の髪の毛一本であろうと触れさせたくない、というのが俺の偽らざる気持ちなのだ。
だから俺はただちに彼女とその男の元へと駆けつけたのであった。
いざとなれば決闘をしてでも、二度と近づかないと誓約を交わさせようと考える。
「あっ、リック殿下。偶然ですね。とても気持ちの良い日ですね」
彼女は上機嫌なようだ。
くっ。俺と言う者がいながら、他の男といることに何の後ろめたさもないとは。やはり猪武者である俺は嫌われてしまったのか!?
そんな絶望感を抱きながら、何とか表面上は挨拶をする。ただ、いつもならば幸せを感じる挨拶も、今は隣の男が気になりすぎて、自分でも何を言っているのか理解できないほどだ。
「ああ、シャルニカ。良い天気だな。ところで隣の男性だが、決闘を申し込みたい。日時は5分後だ」
「で、殿下!?」
し、しまった。彼女の隣に俺以外の男性が立っているというだけで、内心で思っている決闘という単語を口に出してしまっていた。
だが、俺以外の男を排除するのに躊躇はいらない……。などと、考えていると、その男性は礼儀正しく最敬礼する。
「いつも姉がお世話になっております。リック・デルクンド王太子殿下。ベル・エーメイリオスと申します」
ん?
今、何と言った?
俺がぽかんとしていると、シャルニカが微笑みながら言った。
「もう、殿下ったら。ベルは弟ですよ。将来はエーメイリオス侯爵家を継ぐのでご挨拶に伺ったのです。マーク元殿下には、当然ご挨拶はしておりましたが、リック殿下は社交界に出ることが少なかったので、まだご挨拶出来ていなかったと思ったので城へ呼んだのです」
「そ、そうだったのか」
俺はホッとするのと同時に、自分のしでかしたことが恥ずかしくなってくる。弟と歩いているのを、他の男性が近づいたと思って、無意識のうちに排除すべく決闘まで申し込んでいたのだから。
きっと気分を害したことだろう。
「すまない。気が動転していた」
と素直に謝る。
だが、ベル侯爵令息は、どこか姉にも似た柔らかな笑みを浮かべて言った。
「いえ、姉の婚約者がリック王太子殿下で本当に良かったと、今まさに確信したところです。姉さんもこんなに愛されて幸せだね」
「や、やめてよ。外では恥ずかしいから。それに殿下にも失礼ですよ」
「そうかな? 殿下、姉はこんなことを言っていますが、殿下のことを本当に好きなんですよ? 例えば……」
「ふわー!? や、やめなさい!! それ以上言ったら打ちます!!」
どうやら仲がとても良い姉弟らしい。
少し羨ましいと思うのは、さすがに嫉妬が過ぎるだろうか?
しかし、仕方ない。
それくらい俺は彼女のことを愛しているのだから。
「そうだ。もし宜しければ、リック王太子殿下もご一緒しませんか? 姉がお弁当を作ってくれたようなので」
「ほう。それは手料理ということか。ぜひ同行させてもらうことにしよう」
「良かった。姉は殿下と外でランチしたいと思っていたみたいなんですが、恥ずかしくて言いだしかねていたんですよ。というわけで、少しお手伝いさせて頂きました。ご安心ください。僕は途中で退散するので、お邪魔虫にはなりませんから」
「ほわわー!? ち、ちょっと、ベル!! 本当に恥ずかしいからやめて~」
おお、そうだったのか。
ベル侯爵令息。いや、ベル君はかなり気の利く男のようだ。
ああ、そうだ。実は俺は彼女へ何かプレゼントしたいと思っていたのだが思い悩んでいたのだった。ただ、彼女には高価な宝石やドレスなどを贈っても、それほど喜ばないようで、どうしようかと思っていたのだ。
そのことを相談してみよう。
「ベル君と呼んでも? いや、実はな彼女へのプレゼントをどうしようか悩んでいるのだ。王国のどの仕事よりも難解でな」
シャルニカには聞こえないように相談をする。すると、
「ああ、それでしたら、今度こっそりお教えしますよ。ここでは聞こえてしまうかもしれませんからね」
「おお! そうか。ありがとう。王国諜報部に探らせようか真剣に検討していたのだ!!」
「そ、それは凄いですね。愛されてるな~、姉さん」
若干、苦笑いをされているような気もするが、気にもならない。
シャルニカに贈るプレゼントを相談できる有力な相手が出来たのだから。
俺は今度こそ高価な宝石やドレスに勝るプレゼントを贈ることが出来そうだと、上機嫌で彼女の作ったお弁当を食べて存分にランチの時間を楽しんだのであった。
お読みいただきありがとうございます。心からお礼申し上げます。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シャルニカとリックの恋はこの後一体どうなるのっ……!?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
作品作りの参考にしますので、何卒よろしくお願いいたします。