22.【Sideリック王太子】溺愛①
ざまぁ・断罪のお口直しに少しだけ【溺愛】回をお楽しみ下さい。
【Sideリック王太子(溺愛ルート)】
さて、兄マークとその妻ミルキアの件が片付いてからというもの、俺もシャルニカも忙殺されていた。
王位をじきに継ぐということもあって、俺は俺で激務であった。
今までのように出来るだけ目立たず、元王太子マークの戴冠を大人しく待ち、武芸に専念していればよい立場ではなくなった。
ただ、幸いながら文武両道を旨としていたことから、基本的な教養を修めていたおかげで、最初の頃は多少難しいと感じていた仕事も、今では瞬時に決裁出来るようになっていた。
部下たちからも陰で超人的なスピードだと言われているらしい。
「いや、違うな」
俺は若干、口元をおさえて表情を周囲に気取られないように注意しながら微笑む。
俺がこうして仕事を超人的なスピードで終わらせるようになった理由は一つしかない。
「さっさと仕事を終わらせればシャルニカに会える」
それだけが、俺が仕事のスピードが早くなった理由だ。
今日も一日かかるであろう大量の決裁資料を、猛烈な集中力でやり遂げた。
周囲の部下たちは驚愕して賞賛の声を上げているが、それさえもどうでも良かった。
俺の愛おしい彼女に会いに行かなくてはいけないからだ。
俺はそう思うと、時間が惜しいとばかりにすぐに席を立ったのであった。
「ん? あれは……」
俺がシャルニカの王城での私室に向かって歩いていると、メロイ・ハストロイ侯爵令嬢が、彼女の私室からちょうど出てくるところに出くわした。
あまり興味もないので、簡単な挨拶のみをして通り過ぎようとしたが、彼女に袖を掴まれた。
「離してもらえないか?」
「少しお話したいことがあるのですが?」
彼女は氷の美貌と称えられるその美しさや、髪の色も薄いブルーで真っ白な肌と神秘的な容姿をしているのが特徴的だ。
ただ、
「俺にはない。どこかへ行ってくれ」
俺には何の感慨もない。俺の目にはシャルニカ以外はどんな女性も特に魅力的には映らないのだ。
そんな俺の態度に気分を悪くした様子もなく、彼女はただ淡々とした様子で肩をすくめる。
「愛妾はご入用ではないですか? というご相談だったのですが、これはダメっぽいですね。あのマーク元殿下は簡単でしたのに」
シャルニカの素晴らしさを分からず、しかも彼女を卒業式と言う晴れの舞台で婚約破棄した男など、兄として些かも興味はない。
「何を彼女と話していたかは知らんが、変な真似はするなよ?」
「それはご心配なく。今回も良いお話合いでした。それにしてもシャルニカ様は本当に素晴らしい方ですね」
そう言って彼女は悠々と去って行く。
些か足取り軽く、といった様子だが、シャルニカと一体何を話したのだろうか?
そう思いつつ、扉をノックした。
「はい、どうぞ」
「俺だ。暇なら少し話でもと思ってな」
「ええ!? リック殿下です!? あの、お仕事の方は?」
「終わらせてきた」
「い、いちおう仕事量は将来の王太子妃として把握してるつもりなのですが、あの量をですか!? 1日で終わらすのも難しい量なのにリック殿下は凄いですね!」
「そうしないと、君に会えないだろう?」
そう率直に言うと、ドンガラガッシャンとけたたましい音が部屋の中から響いて来た。
「だ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です……。ただ、その。そういうのに、まだ、ちょっと慣れていないもので……」
「?」
まぁ、そうした軽いトラブルはあったが、無事に入室して世間話をすることにした。
テーブルには飲み終わったカップが置いてある。メロイ侯爵令嬢のものだろう。それを見た俺の視線に気づいて、シャルニカがメロイ令嬢が来ていたことを伝えてくれる。
正直、別に興味など一切ないが、自然と彼女の話になった。出来れば今度シャルニカにプレゼントを選びたいので、今欲しいものなんかをそれとなく聞きたかったのだが。
「メロイ侯爵令嬢はどういった用件だったのだ?」
「あー。えっと、実は私がお呼びしたのです」
「そうなのか? あのメロイ侯爵令嬢を? 危なくはないか?」
「えっと、とても分かりやすい方だと思いますよ。危険視する必要はないと思ってます」
そうなのか。
女狐の印象がぬぐえないのだがな。
「どういった話をしていたのだ?」
「あー、そうですね。うーん。結構政治的なことなんですが……」
彼女は言うか迷っている様子だった。
俺は正直その言葉にショックを受ける。
政治的なことならば俺に相談してくれて良いはずだ。それなのに、まずメロイ侯爵令嬢に相談したのだ。
「それは俺が頼りないということか……?」
つい落ち込んだ声を出してしまう。
社交界では鉄壁の武人と言われる俺が、シャルニカの一言でこれほど気落ちしていると知ったら、みんな驚くだろう。
「確かに俺は頼りない猪武者だ。剣の腕前しか誇るものがない。君の婚約者として力不足だったな。自分を見つめなおすために旅に出てくる」
とりあえず山籠もりでもしてこよう。
そこで己を見つめなおし、もっと頼れる男になって帰ってこよう。
それしかこの絶望に打ち克つことは出来ないだろう。
と、そこまで思いつめていると、シャルニカが慌てた様子で手を左右に振った。
「い、いえいえ! 違います! あー、そうですね。あの、め、女神様の預言があったんですよ!!」
「女神様? 女神ヘカテ様か?」
「そ、そうです。ちょっと夢の中の話みたいなものなので相談もできなくて……」
なるほど。そういうことか。俺は胸をなでおろす。信頼されていないわけではなかったようだ。
それに夢の中のご神託ともなれば相談しづらいのも理解できる。
いつの間にかさっきまであった胸中を占めていた絶望感はどこかへ行ってしまっていた。
「その内容というのは?」
「は、はい」
彼女は頷くと、夢の中のお告げの内容を話してくれた。それは、
「ヘイムド王国使節団のデモン・サルイン侯爵の潜伏場所についてです」
驚くべき情報なのであった。
だが、それでメロイ・ハストロイ侯爵令嬢を呼んだ意図が分かった。
ハストロイ侯爵家は北部貴族の代表であり、ヘイムド王国と長年にわたり直接敵対している貴族である。
ヘイムド王国が今回仕掛けて来た俺たちへの暗殺計画は、北部貴族の持つ資源を狙った内乱幇助に他ならず、その首謀者であるデモン侯爵への恨みは大きい。
その居場所を伝えることは、北部貴族へ恩を売ることにもなり、王国としての利益にもかなう。
「さすがシャルニカだな。君こそ王妃に相応しい」
「そ、そうでしょうか? 絶対メロイ様などの方が相応しいと思うのですが」
だが、俺は首を振り、彼女に顔を近づける。
もう何度もしているというのに、彼女は慣れないのか、ぎゅっと目をつぶってしまう。それがまた可愛らしい。大事な存在だ。だが、その可愛さの余り、いつも少々やりすぎてしまう。今日はちゃんと気を付けなくては。
「王太子の俺が好きなのは君だけだ。他には誰もいらない」
俺はそう言って彼女の恐々として引き結んだ可愛らしい唇に、軽いキスをしたのだった。
その後、俺の理性が勝てたかどうかと言えば、またも敗北を喫してしまったのだが。
お読みいただきありがとうございます。心からお礼申し上げます。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シャルニカとリックの恋はこの後一体どうなるのっ……!?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
作品作りの参考にしますので、何卒よろしくお願いいたします。
 





