2.一度目のざまぁ!
ゲーム画面の会話ウィンドウには、主人公シャルニカが先ほど内心で思ったセリフが、
『(頭の中に声が……。誰かそこにいらっしゃるんですか? それとも、とうとう私はショックで頭がおかしくなってしまったのかしら)』
と表示されている。まさか私の声が?
「いやいや! そんな訳ないわよね。疲れてるかしら私ってば。ゲーム内に私の声が聞こえる訳ないしね!」
そう笑おうとあえて声を出して言う。
だが、
(いえ、聞こえてます! もしや女神ヘカテ様でしょうか! ならばどうぞお助け下さい!)
どうやら夢ではないらしい。信じられない出来事だ。でも、疲れていたからかもしれない。私はこんなある意味心霊現象のような状況なのに冷静に言葉を発していた。
「大丈夫よ。安心して。婚約破棄されてもあなたは他の男性から愛されるし、あと気に入らないけど、そこの王子を奪還するルート……運命もあるから。だから……」
安心して、と慰めようとした。だが、
(そんなのは嫌です。私は何も悪いことはしていないのに。私は生まれてからこの方、王妃になるためにつらい妃教育をずっと耐えてきました。同年代の友達と気軽に遊ぶことも、外で遊ぶこともほとんどなく過ごしてきました。それが必要だったからです。それなのに、第一王子が真実の愛という名の、単なる身勝手な浮気をして、国のためではなくただ私利私欲で婚約破棄するなんて、理不尽にも程があります!)
シャルニカの言葉は、浮気されて婚約破棄された私の胸に思いっきり響いた。親友になれると思ったくらいに。
その通りなのだ。なぜ相手が権力者というだけで、単なる浮気男が正当化され、今までつらい妃教育などで若い時分の生活を子供らしく送れなかった主人公が甘んじで受けなければならないのか。
『(そんな身勝手が許されていいはずがない)』
「そんな身勝手が許されていいはずがない」
くしくも、私と彼女の声は一致した。
ならば、
「策を授けましょう、シャルニカ。私はこの世界の設定……ごほん。理を知っている(攻略本で)」
(さすが女神様です)
「うん。ではまず、こう言いなさい」
私は攻略本の内容を思い出しながら、伝えた。
「真実の愛の相手は、今でも仲の良いメロイ・ハストロイ侯爵令嬢ではないのですか? とね」
(え? まさか他の浮気相手が?)
攻略本のセリフの所に、シャルニカと付き合っている間も、たびたび会っていて、ぶっちゃけキス以上のこともしていたであろう匂わせ描写がある。また、王子ルートではこの女性がたびたび絡んできて三角関係のような形になる。なお、その際にこの真実の愛の相手と言っているミルキア子爵令嬢は出てこないが、恐らくシャルニカが王子の愛を取り戻して奪還した後に、それを婚約者のいない【空白期間】の好機と見て参戦するライバルとしてメロイ侯爵令嬢が登場するということだろう。今までは婚約状態のシャルニカがいたし、今後はミルキア子爵令嬢がいるから登場しないだけで、王子はずっと浮気しているのだ。そして、好感度が低いと、このメロイ侯爵令嬢を選ぶとも書かれている。それくらい重要キャラなのである。なお、設定資料集には恋多き王子とも書いてあるから浮気していることは間違いない。
では、その事実をこの段階で暴露したらどうなるだろう?
そう、今確かに婚約破棄を宣言されはした。だが、まだそれは既成事実になっているわけではない。それは婚約者がいない【空白期間】そのものだ。つまり、メロイ侯爵令嬢の【参戦条件】を満たしている。そして、この卒業式の会場に同学年であるメロイ侯爵令嬢もいるのである。
ならば、
「凄まじい修羅場になるわ。その上、身分がややこしいわ。シャルニカはメロイと同等の侯爵令嬢だった。でもミルキアは子爵令嬢なんだもの。メロイ侯爵令嬢が妥協する理由は全く無いわよね? でも、王子はこんな場所であろうことか婚約破棄を宣言してしまった。メロイ侯爵令嬢だっているのにね。焚きつければ、既成事実になる前に、参戦するに決まってる。マジで馬鹿ね。さあド修羅場が来るわよ。きっと、今後王子に心休まる暇はないでしょうね。真実の愛を誓った子爵令嬢ちゃんといつまで破局せず、仲良しでいられるかしら?」
(さすが女神様……。わ、分かりました。言います!)
彼女は決意した。
そして、少し震えながらも、はっきりした声で、
『えっ!? 真実の愛の相手は、今でも仲の良いメロイ・ハストロイ侯爵令嬢ではないのですか!!』
と告げたのであった。
ザワッ! と会場中がどよめいた。
よりにもよって、他の浮気相手がいたのだと。
『……え? マーク殿下? 愛しているのは私だけだと、昨晩もあんなに……』
ミルキア子爵令嬢がひきつった顔で浮気王子の顔を見た。
『は、ははは! その通りだよ。愛しているのは君だけさ。シ、シャルニカ侯爵令嬢! なんと無礼な! 自分が婚約破棄されるからと言いがかりはやめろ! 僕の真実の愛に嘘偽りなどっ……』
その時、
『マーク殿下。これはどういうことでしょうか?』
裏返ったマーク王子の声を、一瞬にして黙らせたのは、氷のような冷えた声であった。それは学生たちの間から現れる。
メロイ・ハストロイ侯爵令嬢。氷の美貌と称えられるその美しさは、さすが王子ルートのライバルキャラである。ゲームだけあり、髪の色も薄いブルーで真っ白な肌とまぁ神秘的だ。ちなみにシャルニカは金髪のロングで天真爛漫のイメージだ。
ちなみに、現王妃もハストロイ侯爵家の出身であり、マークとメロイはかなり遠縁の親族と言う関係になる。
ま、何にしても、私も、恐らくシャルニカも、そんな浮気男なんてくれてやる、って感じなんで、勝手にしてくれって思うけど。
『ち、違うんだ。こ、これは違ってっ……』
さて、ゲーム内では想定通り、ド修羅場が展開していた。
自業自得だ。
さて、このド修羅場で浮気王子がどんな弁明を聞かせてくれるのか、シャルニカと一緒に拝聴させてもらうとしよう。
次回はシャルニカ視点の断罪です。