18.【Sideマーク男爵】僕がこうなったのはミルキアのせいだ
【Sideマーク男爵】
「誰が化け物だああああああああああああああ!!」
なぜか僕を見て怯えた声で暴言を吐いたミルキアに対し、僕は怒りの声を上げた。
どうにも声がうまく出ないし、体も重い。それに体中が熱くて熱くて気が狂いそうだった。
恐らく、エーメイリオス侯爵家の屋敷で、窓ガラスを粉砕しつつ投擲されたナイフが少しばかり僕にかすったのが原因だろう。
だが、致死性と言いつつ、軽傷だったために、僕はこうして生きている。
ははは、何て運が良いんだろう。これなら、まだまだ王太子へ返り咲くことが出来る。
だというのに、目の前の妻であり、僕を一番に支えてくれるべきミルキアは、僕を見て化け物だとさっきから何度も絶叫している。
「だ・ば・でええええええ!!」
僕はふつふつと抑えられない怒りが湧いてくるのを感じた。
「ぞもぞも、ぜんぶお前のぜいで、ごうなっだんだどおがあ!!」
「わ、私のせいって何よ!?」
ミルキアは言い返して来る。
全く以て忌々しかった。
「ぞもぞもお前が俺の婚約者なんがになろうとしなげりゃ、こんな目には合わなかったんだあ!!」
「は、はあ!? あんたから言い出したことでしょうが!?」
「うるざい!うるざい!うるざい!うるざい!!」
僕は更に咆哮する。
「お前が誘惑しでごなげれば!婚約をうけなげれば、こんな事にはならながっだんだ! ぞうずれば! 俺は今でも王太子のまま、色んな女と遊び歩いて、金も、権力も、全て手に入っていたばずなんだ! だどに、ぜんぶお前が台無しにじだ! 責任を取れ!!」
そう。
そうだ。
僕は何一つ悪くない。
悪いのは目の前の、今や醜く肥え太ったミルキアだ。
こいつが僕を誘惑したせいで、僕は【浮気をさせられた】。そして、子爵令嬢という下級貴族の分際で、僕の正妃になりたいなどと、分不相応の願いを申し出たのだ。
心優しい僕はつい、その愛を信じた。
だからこそ、彼女の愛に報いるために、本当は愛していたシャルニカ・エーメイリオス侯爵令嬢へ【婚約破棄を告げるはめ】になったのだ。全て目の前の魔女がそそのかしたのが原因で、責任は全てこのミルキアにある。
そして、その後、ミルキアは更に魔女の本性を明らかにした。
アッパハト子爵家に損害賠償請求が起こると、払えないから家がつぶれてしまうと僕に泣きついて来たのだ。
全くの自業自得であり、僕に縋るのは筋違いだ。
だが、やはり僕は優しすぎたから、一緒にエーメイリオス侯爵家へ行って謝罪をしたうえでやり直したい旨を伝えようとした。
シャルニカは僕をあの時点でも、そして今でも愛していたに違いないから、成功する確率は高かった。そうすれば、彼女は僕の婚約者に戻り、すべては元通りになるはずだったのだ。
しかし、ミルキアを同行させたのがいけなかった。
ミルキアの火に油を注ぐような言葉の数々によって、シャルニカは激怒し、リック第二王子まで巻き込んで僕を廃嫡して王太子の身分まで奪う暴挙に出たのだ。
ミルキアのせいで!!
そして僕らは辺境に送られた。僕はそこでも慎ましやかな領主生活を営むつもりだったが、慣れない環境に気持ちがすさんでいたのは否めない。高貴な僕も人間なのだから当然だろう。そんな僕を優しく支えるのが妻であるミルキアの責任だ。
なのに、彼女はその責任を破棄し、貴重な有り金を宝石や自分を飾り立てるドレス、豪華な食事に費やし始めたのである。
そんなミルキアの振る舞いに絶望した僕のところへ、ヘイムド王国デモン侯爵からの誘いがあったのだ。
僕は乗り気ではなかった。
だが、ミルキアのことを思い、その誘いに乗ったのだ。僕が王太子に返り咲くことによって、再びミルキアを幸せな王都の生活に戻すことが出来ると思って。
だが、暗殺計画は失敗し、僕は傷ついた。
全てミルキアの責任なのだ。
そんな僕をせめて労わるのが妻の責任だろう。
だというのに。彼女が僕を迎えた第一声は『化け物』だった!
「今までの事ば全てお前のぜいだのに! 許せない!!」
そう。
これは正当な報復だ。
責任を取れええええ!
「いやぁ!! 寄らないで化け物!! ただの逆恨みでしょうが!! 死ね!! どっか行け!! 誰かあ!! 助けて!!!」
逆恨みなものか!!
僕は何も悪くない。
悪いのはこの女だ!
責任を取って死ね!
そうだ。そうすれば僕が浮気をした事実も無くなるかもっ……!
全てやり直せるかもしれない!!
いい考えだと僕は喜んで、ミルキアを壁に追い詰めると、彼女の首を締めようと手を伸ばした。
「助けて! 助けて! くそ! 離れなさいよこの化け物ぉ! 全部あんたが無能なせいでしょうがぁ!! あたしの人生台無しにした無能王子がぁ!!」
「がああああああああああああああああ!!!!!」
最後まで僕を侮辱する女の言葉に堪忍袋の緒が切れた!
絶対に息の根を止めてやる。
僕はミルキアの首を締め上げる。
「いやあああああああああああああ。死にたくないいいいいいいいいいいいいいいいい!!! おえ! ぐえええええええええ」
くはははは! なんて無様なんだ!
悲鳴が実に耳に心地いい。
そして醜悪な豚女の顔が真っ赤になり僕を必死に引きはがそうとする様子は実に滑稽だった。
「うぎいいいいいい……。ああああ、じ、じ、じにだくない……ぢくじょお……ぢくじょお……わだじは…‥王妃に…‥」
かすれた声で、白目をむきつつうわ言を言う。
はははは! 因果応報だ! この屑女が!
だが、そんな陶酔感に酔っていた僕に対して、
「待って下さい!!」
聞き覚えのある別の女の声が耳朶を打ったのである。
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