16.【Sideリック王太子】罪状を告げられ泣き叫ぶマーク男爵
【Sideリック・デルクンド王太子】
「さて、何か申し開きがあるか? マーク男爵?」
俺の言葉に、部下たちに地面に転がされ、拘束された愚兄マークは、目を血走らせながら叫ぶように言った。
「どうしてお前がここにいるんだ! 僕の作戦は完璧だったはずだぞ!!」
「完璧と言うのは、隣国ヘイムドにそそのかされ、未来の王太子妃やこの仮にも王太子である俺を暗殺しようとした作戦、ということか?」
「何が王太子妃だ! 王太子だ! お前らは俺を嵌めて、王太子の身分を剥奪した犯罪者どもじゃないか! そして、高貴な僕を辺境に送るなどという不敬罪を犯した! 二人とも僕に殺されるのが当然だ!!」
聞くだけで頭が痛くなるような理屈だ。
俺ははっきりとその意見の破綻を指摘してゆく。
「簒奪ではない。王の勅命に基づいた正式な地位の移譲だ。しかも、シャルニカ嬢にいたっては、お前の一方的な【浮気】と【婚約破棄】による被害者であり、王太子の婚約者という正当な身分にお戻り頂いただけのことだ」
「お前とシャルニカが共謀して、父上をそそのかして、僕を一代男爵へ封爵しただけじゃないか! そんなことは到底許されない!!」
「共謀などではない。面倒なので細かい説明は省くが、お前の【婚約破棄】事件によって内乱一歩手前だったのだ。それをシャルニカ嬢が実父を説得されて王室と和解の機会をもってくれたのだ。父上、母上、側近たちがどれほど感謝したことか、お前に分かるか? まぁ分からんだろうな。そうした経緯があって、王室と北部貴族代表ハストロイ侯爵家と南部貴族代表エーメイリオス侯爵家で話し合いが持たれた結果、お前の廃嫡と王太子の身分の剥奪が決定された。要するに不当などと騒いでいるのはお前だけで、他の王室関係者、貴族らは納得している。つまり、お前の王太子身分の剥奪は、皆が合意した上で出された勅命だったということだ。理解できたか?」
「うううううう、嘘だ! そ、そうだ。僕を男爵なんかにしたのも、僕の浮気に嫉妬したシャルニカの嫌がらせだろうが。この高貴な僕を貶めて快楽に耽るための!」
何を言っているんだコイツは?
本気でこいつの考えていることが理解できずに頭を抱えそうになる。
「彼女はそんなことを考える人ではない。お前ではないのだからな。その証拠が、そもそも、お前を男爵にすることを許可したことだ。そんなことも分からないほどお前は愚鈍なのか?」
「な、なんだと!」
「やはり分かっていないのだな。王室では、お前を極刑にする案は非常に有力だったのだ。あのシャルニカ嬢に対する一方的な【婚約破棄】に対する、南部貴族の怒りは大きかった。そのケジメをつけるために最も有力な手段が主犯であるお前の処刑だったのだ」
「ば、馬鹿な! ありえない!!」
「ありえないのは卒業式の晴れの舞台で、堂々と衆人環視の下、婚約者に対して、婚約破棄などをする馬鹿なお前だ! 恥を知れ! この王室の恥さらしが!!」
「なっ!? 貴様、言うに事欠いてえっ……!」
俺の言葉に正論を見たのだろう。それを認められず愚兄は暴力で対抗しようとした。だが、
「おとなしくしろ!!」
「ぎゃあ!!」
暴れようとしたところを、衛兵にあっさりと押さえ込まれた。顔面を地面に押し付けられる屈辱的な姿勢に、みるみる怒りで顔が真っ赤になるが、当然の報いでしかない。
「話を続けるぞ。とはいえ、やはり王子を軽々に処刑することは国内に不和の芽や疑心暗鬼を呼ぶ。そのこともシャルニカ嬢はよく理解され、王室に寛大な処置をと一任されたのだ。そして一代男爵とすることを決めたのは王室だ。いわば、シャルニカ嬢はお前の命の恩人と言っても過言ではなく、辺境送りになったことを恨んでいるのならば、筋違いもいい所だ。このくらい理解できずよく王太子なぞをしていたものだな」
俺は心底呆れながら言う。
「う、うるさい! そ、そもそも王太子である僕に尽くすのは貴族どもの当然の義務だ!」
「シャルニカ嬢がお前の処置を王室に一任されたのは、お前の王太子の身分剥奪の決定後だ。つまり、お前に尽くす義務などない段階で、ただその優しさからお前を許したのだ。そして」
俺は思わず、愚兄の顔を蹴り上げてしまった。
「ぎゃっ!?」
俺は怒っていたのだ。
あれほど寛容で素晴らしい、可愛らしい女性に対して、これほど理不尽な行為をしようとした目の前の男に。こんな男はもはや兄でもなんでもない。
「そんなお前を救ったシャルニカ嬢を、こともあろうかお前は残酷極まる方法で殺害しようとした。しかも、隣国ヘイムドのデモン侯爵にそそのかされて。それが内乱を誘発することになることを顧みることもなく、ただ己の恨みと権力欲を満たすためだけに、シャルニカ嬢を殺害しようとしたのだ! この屑が!」
「ぎゃっ!? ひっ!? や、やべで!!」
さっきまでの威勢はどこに行ったのか。
何度も蹴りつけると、自画自賛していた甘めの顔とやらはボコボコになり、涎と涙で顔面をぐしゃぐしゃにしだした。
だが、実際のところ、俺は手加減をしていた。
腐っても兄という意識が捨てられなかったのだと思う。
本気で蹴りつけていれば、軟弱な愚兄の命などすぐに消えてしまっていたことだろう。
「はぁ。シャルニカ嬢のことを思うとつい冷静さを欠いてしまった。俺としたことが……」
俺は頭を振って、冷静さを取り戻すよう努めた。そして改めて目の前の男に罪状を言い渡す。
「ふう、だがマーク男爵。言い逃れするどころか馬鹿なおかげでシャルニカ嬢暗殺、王太子暗殺計画を認めたな。そしてそれが己の筋違いの恨みから来るものであるという情状酌量の余地の一切ない動機であることも判明した。更に、ヘイムド王国とのつながりも否定しなかった。これは別動隊が確認しているが、補強材料として十分に証拠になる。そして、こうして現行犯として取り押さえることも出来た」
そこまで言うと、今まで俺に恨みや怒りの視線だけを向けていた愚兄の瞳が怯むのを見た。
どうやら、やっと俺が何を言いたいのか、察したらしい。
「マーク男爵! 貴様を大逆罪を犯した大犯罪者として極刑とする! 同時に共謀したミルキア男爵夫人も同罪である!」
なお、アッパハト子爵家は既にミルキア男爵夫人と義絶しているため咎めはない。だが、大逆罪を犯した令嬢を輩出した子爵家がどうなってしまうのかは想像に難くない。
「そ、そんな!? 僕が大逆罪の犯罪者!? 嫌だ! 嫌だ!! た、助けてくれ!! リック!! 僕を見逃してくれればお前に仕えてやってもいい!! あ、そ、そうだ。これはミ、ミルキアが首謀者なんだ。だから彼女の命が欲しいならくれてやるから、どうか僕だけは助けてくれ!!」
なんという身勝手な言動であろう。
愛した女性の命すら自分が助かるために差し出そうとするとは。
人間とはここまで醜くなれるものかと、逆に憐れみを覚える。
「俺も兄を殺したくはない。だが、法にのっとり極刑とするより他ない。悪く思うな」
「ま、待ってくれ! ひい! 助けてくれえ!!」
すがりついてこようとする兄からスッと体を離す。
と、その時である!
ガシャン!!
ヒュン!! ヒュン!! ヒュン!!
窓ガラスを破って何本ものナイフが飛び込んできたのだ。
「ふん!!」
俺はとっさに剣でそれらを払い落とす。
「い、いでえ! くそお! うおああああああああ!! 死んでたまるものかあああああああ!!」
「む!?」
俺や精鋭の部下たちが自分たちに投擲されたナイフを防いでいる間に、地面に拘束していた兄が地面を転がるようにして走り出したのである。
そして、そのまま窓にその身を投げ出すようにして脱出したのだ!
「追え! 追え! そう遠くにはいけないはずだ!! ただし、ナイフには気をつけよ! 致死性の毒が塗られている!!」
「はっ!」
部下たちが追いかける。
恐らくだが、ヘイムド王国の刺客の一部がどこからか投擲したものだろう。
と、床を見れば月光が照らす青白い床の上に、今のナイフによる負傷と思われる血が数滴、飛び散っていたのである。
「まさか」
俺はその血が誰の物かうすうす悟ったのであった。
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「シャルニカやリック達はこの後一体どうなるのっ……!?」
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