11.【Side第二王子リック・デルクンド③】愚兄から王太子の身分を剥奪し辺境へ追放とする!
前回からの続きです。まだの方は前話からお読みください。
【Side第二王子リック・デルクンド③】
さて、シャルニカ嬢から愚兄並びにミルキア子爵令嬢へ、丁寧な説明がなされた。
まず、第一に、一方的な愚兄の【浮気】によって卒業式と言う貴族の子弟・子女が集まる公衆の面前で【婚約破棄】をシャルニカ嬢に対して行ったことにより、もはやマーク第一王子の婚約者に復帰したとしても、以前のように、北部貴族と南部貴族は納得しないこと。簡潔に言えば北部貴族の影響力が強まり過ぎて、南部貴族の離反が想定され、最悪内乱が起こること。
次に、その内乱に乗じて隣国が戦争を仕掛けてくる可能性が高いこと。
最後に、愚兄が何ら実績も根回しもない子爵令嬢と結婚するとなれば中小貴族たちの誰もが王室との婚姻を狙って暗躍しだすために国内貴族の統制が不可能になることを説明した。
非常に分かりやすい丁寧な内容で、シャルニカ嬢の聡明さが際立つ一方で、一から十まで説明されても自分たちのしでかしたことの重大さへの不理解と、自己弁護に終始する愚兄と浮気相手のミルキア子爵令嬢には呆れて物が言えない。
王家の恥であり、貴族の恥と言えよう。
ゆえに俺は、彼の処遇を決断し、申し渡した。これはもちろん、国王陛下より執行の代理権を委任していただいた上で行うものだ。
『損害賠償は要求された額を払うことを改めて申し渡す! 更に、恋愛がしたいというのなら、廃嫡したマーク廃太子と結婚するが良い。【辺境ラスピトス】に領地を用意するゆえ、そこで夫婦となり、仲良く暮らすといい』
ミルキア子爵令嬢は最後まで【自由恋愛をしたい】と言っていた。貴族の義務も果たさずに自由だけ欲するのならばよかろう。ただの辺境の一領主とその妻という関係のうえで自由にしてくれればよい。それが各貴族が納得する形の、王家として出来る最大限の譲歩だ。
しかし。
『い、嫌だ! どうして僕があんな辺境に行かないといけないんだ!! あそこは土地も痩せて、しかも極寒の土地じゃないか!! 嫌だ! 嫌だ! 頼む! 助けてくれ! 僕は王太子だ! 将来の国王になる男なんだ!』
『わ、私も王太子でないマーク様との結婚などしたくありません! お願いです! 子爵家へ返して下さい! 王妃になれないうえに、そんな貧乏な生活をこんな男とするなんて耐えられません!!』
『あ、あの自由な恋愛をされたいんじゃなかったんですか?』
『そんなの、王妃になって贅沢三昧出来るから近づいたに決まってるでしょうが!!』
『そ、そうなんですか。す、すみません』
あれほど、愚兄のことが好きだから【浮気】も【婚約破棄】も正当化されると主張していたはずの女が、いきなり王太子でないなら好きではないなどと言い出したのだから、困惑するのも仕方ないだろう。
俺ももうこれ以上、この愚かな男と女たちに関わるのにうんざりしたので、最後のとどめの言葉を告げる。
『これは国王陛下からの勅命を代理として申しつけるものである。なお、既に子爵家にも了解はとっている。取り潰しをまぬがれるなら、娘一人が嫁ぐくらい大したことないと言ったそうだ』
『い、いやあああああああああああ!! い、嫌よ! 嫌あああああああああああ!! くそ! こんな馬鹿王子のせいで私の人生台無しよおおおお!!』
『な、何だと貴様! 僕が誰か分かっているのか!!』
『ただの辺境の弱小貴族じゃない! どうして私がそんな身分の低い男に嫁がないといけないのよ! 嫌よ! 最低!』
『き、貴様ああああああ!!!』
醜い言い争いが続く。ある意味お似合いだが、これ以上見ていても全くの無意味だな。
俺は目の前の醜態を意識の外に追い出す。
だが、まぁ、ともかくこれで婚約破棄の一件はいちおうの決着だ。
元王太子マークは、その身分を正式に剥奪し、一代男爵を封爵し辺境の土地へと追放とする。この愚かなマーク男爵と、ミルキア子爵令嬢もとい、男爵夫人を、暴れたり逃げ出したりしないよう捕縛して、辺境ラスピトスへと移送する作業があるが【罪人の移送】だと思えば慣れたものだ。
あと、それと。
俺の心臓はまた早鐘を打った。
どうにもまっすぐにシャルニカ嬢のことを見れなかった。
だがその気持ちが何なのか、鈍感な俺もさすがに気づいていた。
今から思えば、初めて会った時から、とても気になる女性だったように思う。
立場が邪魔をして、深く考えないようにしていただけだったのだ。
今日の彼女の優しさや、領民たちに向ける視線の温かさ、若干口下手なので隠されているが視野のとても広い聡明さ。少しあがり症なのか、口ごもるところもあるが、そこもギャップがあってとても可愛いらしい……。くりくりと大きな愛嬌のある瞳は見ているだけで頬を緩ませるし、素朴で派手なドレスや装飾で自分を着飾ることもなく、ただ質の良いドレスを着こなす姿もとても素敵だ。
……やれやれ、これは駄目だな。
考え始めると彼女の事ばかりが頭を占めてしまうようだ。
愚兄には一つ感謝しないといけない。
奴は王太子として失格で、浮気や婚約破棄など最悪なことをしでかした。それは許しがたいことだ。
だが、そのおかげで俺はシャルニカ嬢の婚約者になれた。
こんな考えは不謹慎だと言うことは一番理解しているつもりだが、この一点に関してはこう言わざるを得ない。
『マーク男爵、こんな素敵な婚約者を譲ってくれてありがとう。その愚かさは弁護しようもないが』と。
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