ヒロインが登場するのは大体二話から
異世界転生系に関する知識
中山→ゲーム、本、アニメ等でそこそこ
課長→若者と話す為に人気の作品はチェックする
ドラクエ、FFの方が好きおじさん
ユミ→なんか流行ってますよね!(知らない)
転生側と現地人の温度差が天と地です。
「須田課長の案、全っ然ダメでしたね」
「門前払いって比喩じゃないの初めて見ちゃいましたぁ~ウケる~クスクス」
「………………」
森の奥で泉を見つけた人外三名は休憩がてらに
約一名を針の筵にしてチクチク遊んでいた。
「まぁ、あの村長の危機管理能力が予想より高かったのはひとつ学べましたね」
「そ、それなんだよ……!統率者としては素晴らしいもんだよ実際!でも序盤の難易度としては高過ぎやしないか?!RPGなら最初の村ってもっと緩いもんでしょ??」
「ユミ ゲームしないから分からないんですけどぉ、あんなでっかい鳥が飛びまわる山の近くなら守りも堅いの当たり前じゃないですかぁ?」
「むーん…………それでも行けると思ったんだけどなぁ」
須田課長と呼ばれたおっさん声の茶色いゼリーは
流れる身体を左右にくねらせ作戦が失敗したことに頭を悩ませていた。
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数時間前
二人分の死体を食い終わった中山は、それでもまだ食べ足り無い自分に驚きながらも
次の行動に迷いはなかった。
応援を呼ばれる前にいっそ人間の本拠地へ乗り込もうと提案した中山の言にユミも課長も反対してたが、構わず一人で山を降りて行った中山を渋々追いかけ、その道中に逃げた一人に追い付いたのだった。
慌てていたせいで足を怪我したのか、進みの遅い人間の足に人外の体力と歩幅は大きく勝っていたのだ。
『く、くるなぁ!くるな魔物!!』
「やだ~泣き顔汚すぎぃ~クスクス」
「とっくに戻ったもんかと……まだこんなところに居たのか」
「…………」
中山が先ほど覚えた人間の味を再び味わおうと無言で手を伸ばすと、茶色い流動体がそれを防いだ。
「課長、どいて下さい」
「君はさっき二人も食べたじゃないか、彼は私が貰うよ」
「は……?」
隠すことの無い怒気を仮にも元上司にぶつけてくる元部下が怖くて少し尻込むが、意地で持ちこたえ須田は言葉を返した。
「いや、あのね、我々この世界のこと何にも知らないじゃないですか……?だから情報収集しときたいなぁ~っておじさん思って……ね?ホント別に横取りとかじゃなくてさ!中山くんも気になることあるでしょ色々と!」
元上司のなんとも情けない声から出る冷静な意見に食欲に支配されかけた頭が少しクリアになる。
(言われてみればそうだ、情報を引き出してから食えばいいのに何故か考えるより先に手が出てしまう。)
わかりましたと素直に言うのは癪だったので、伸ばした手を引っ込めて無言で一歩後ろに下がる。
譲る意図が伝わったのか、茶色いうんこは
腰が抜けて腕の力だけでジリジリと距離を取る弱弱しい青年との距離を瞬く間に詰めた。
「さて青年、まずはお名前から聞こうかな」
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結果的に言うと尊い犠牲の元に情報は得られた。
最初のうちは言葉でやり取りしようと辛抱強く会話を試みたが、何を聞いてもまともにやり取りが続かず『村は売らねぇぞ魔物が!』『く、くるなぁ!消えろ化け物!』『やめてくれ助……』最後のセリフを全て聞く前に課長が吠えた。
「うるせぇ小僧!スライムなめとんのか!」
プルプルと波打つ液体に青年の全身が飲まれて静かになった。
中山はすかさず、その辺で拾った木の棒を課長に向けてフルスイングする。素手でパンチするには茶色い見た目が甚だ不快であるからだ。
「何勝手に食ってんだハゲこら!!」
「いや、これは違うんですよ中山くん……ちょっと我々との力関係を身をもって理解して貰おうかなって……!?」
飛び散る自分の破片をウゴウゴと呼び集めながら課長は言い募るが、静かに見てたユミが指を差して告げた。
「課長ぉ茶色いから見づらいけど、もう中で骨になっちゃってません?」
「え、マジ?!押さえただけで死んじゃったの!やだー弱っ」
(( 押さえた?補食にしか見えなかったけど ))
「あ!
でもなんか……結果的に大丈夫だったかも?色々分かっちゃった!」
先ほどより、目に見えて体積が増えた茶色いゼリーが明るく報告してくる。若干ではないウザさを感じるが、中山もユミもひとまず課長の話を聞くことにした。
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村民からは針の山と呼ばれる、日本の富士山を尖らせて赤くしたような高山は、街の人間達の地図にはニドル山と表記されている。
かつて世界を滅ぼすと言われた災厄の龍を、勇者が山の頂きに突き刺して倒したという神話が残っており、その龍の血の穢れが未だ流れずにいるため山々が赤いのだと数百年昔から言われていた。
真実はさておき、真偽の判断がつかない光景や現象に知恵あるものが相応しい名前を付け
厳かなものにある種の神聖さを見いだし信仰を捧げるのは世界を跨いでも共通する、一つの答えなのかもしれない。
ある一部の人間族におけるニドル山は勇者信仰の聖地であり、時々生まれるという龍の穢れ…即ち強力な魔物を祓うための
赤き試練の頂き
とも呼ばれていた。
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紡ぐ街 ストリン
高台からニドル山を一望できるこの街は、王都からの交通の利便が拡大すると同時に、大陸でも上から数えた方が早い規模の大きな街へと発展した経歴をもつ。
人が集まる街には多様な人材が揃うものだが、特にこの街には勇者を熱心に信仰するブレベス教会の総本山がある。
雲が流れ、針のように鋭く赤い山嶺が開け放った窓から見えている。手を合わせて深く一礼をしてから、ブレベス教会でもっとも位の高いその人物へと
靴の先を揃えてから、また一礼をした。
「マスト様、自警団より報告が上がっています」
「モア大司教…何か問題がありましたか」
大司教と呼ばれた赤毛で初老の男が声を掛けると、白に近い柔らかな金髪を丁寧に結い上げた老齢の女性が応答する。
目元に深く刻まれたシワが彼女の優しい表情を際立たせて、笑顔の多い穏やかそうな人と印象づけていた。
「ヤーン村からの伝令です、ニドル山の中腹で魔物が出たと。ゴブリン、淫魔、スライムが徒党を組んでおり襲われた村人が三名死亡したそうです」
報告を聞いた女性の顔がやや険しくなり、眉間にシワを作る。
「騎士団へは」
「報告済みです、すぐに討伐隊を編成し明日にでも出立予定です」
「村人三名は何故ニドル山へ?」
「シクイドリが何故か飛び回り大移動を始めたそうで、偵察の為に出たそうです。」
「おそらく、魔物の影響でしょう…シクイドリ程の獣が棲みかを脅かされる程の驚異をもつ魔物…
討伐は大いなる試練となりましょう」
「……っ!で、では…!」
つい先ほどまで纏っていた穏やかな空気をどこかへ消し去り、女性は老巧の力強い眼差しを宿し興奮気味なモアへと告げた。
「此度の討伐…
わたくしも参戦致します」
ブレベス教の教典にはとある一文がある。
大地を染める悪しき龍の血を清めること
すなわち、勇者の試練である
御祓を得て白い大地を取り戻すことが
教会の、いや……人類の悲願であるとされる。
故に 動く。
ブレベス教会、最上位の教皇にして
大陸最強の女傑と目されるその人
すでに幾度の試練を乗り越えてきた
白の聖女[マスト・S・トローガー]は
悲願の成就を果たすために今
再び試練に挑むことを決意したのであった
二話 終
ニドル山は、飛行船を手にしてから行けるタイプの大陸にある秘境の山嶺です。
青森くらいの大きさの大陸内に国が2つ、街がいくつか、村がほどほどにあります。戦争はしてません。
宗教は主に女神と勇者が二極で、女神教会の方が数が多い。異教、邪教もところによって有ります。
騎士団は魔物や獣狩りのため街に駐屯地を作り2年くらいの任期で各地を回っています。