一話で死人が出るタイプ
※間違って異世界恋愛ジャンルで投稿してすみません!修正しました。
日常によくいる、あんまり好きになれない微妙な悪役タイプ三人が主人公です。
自分は分かりやすいヒーローや、振り切った悪役が大好きですが、この小説には多分出てきません。初投稿、初連載ですのでお手柔らかにお願いします。
森がざわついている。
普段は繁殖期以外に鳴かないとされる怪鳥の、おぞましい鳴き声が先ほどまでのどかだった村まで響いて村民達はいささか動揺していた。
「なんでこんな時期に死喰いが鳴いてるんだ…?」
「縄張りに何かあったのかしら」
「誰かが森を荒らしている……とか?」
「直近で門を開いたのは2ヶ月前、今日も村からは誰も出てないぞ」
「そもそも村を通らずに山の中腹まで誰がどうやって行くんだぁ?!拓けた道はここからしか伸びてねぇんだぞ」
村の広場に異常を感じてそれとなく人が集まったが、現状なんの情報も無いため纏まりない会話が錯綜し、ざわつく広場に向けて一喝する若い気丈夫の姿があった。
「落ち着けお前ら!俺が様子をみてくるから無駄に騒ぐな!」
「マギネの言う通りだ。何も分からず憶測だけで話を進めても意味が無い」
「兄貴達の言う通りだ!ほら、散れ散れ!」
不遜な態度と口調の男に異を唱える者はおらず、喧騒が止んだ広場からは徐々に人が散らばり、残ったのは幾人かの村のまとめ役と、マギネと呼ばれた大柄な体躯に剣を引っ提げた厳めしい男とその連れ達だけになった。
「マギネ…偵察だけにしておけよ」
「ふん…現場の判断は俺が決めるさ」
「戦わないやつが兄貴に命令すんな!」
「ギーネはちょっと静かにしようか」
「モガッ」
村役の一人の忠告を意に介さずあっさり弾くが、弾かれた中年の男はというと、マギネの態度を特に不快とは思わなかった。
確固たる自信には、裏付けされた相応の実力が存在する。
村一番の戦士と言われる若い気丈夫の不遜は、むしろこの状況では頼もしく感じられるものだった為、男は少しだけ表情を緩めた。
「…………村長には俺が報告しよう……出立はいつになる?」
「まだ日が高いからな、今から出る」
「そうか…………気を付けて行け」
村長宅へと向かった村役の男の背を見ることもなく、戦士マギネは怪鳥の鳴き声が轟く方を遠くに見やり犬歯を覗かせて不敵に笑った。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか…
どっちでも歯ごたえがありゃいいがな」
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生まれてから38年間、私は誰かと付き合ったこともなければ親しい友人一人も作れない欠陥人間だった。
自分でも認めるが無愛想で、犯罪をしてないくらいが長所のホントにつまらない性格だ。
家族にすら愛されてないし、今さら誰かを愛す気なんてさらさらないってくらい捻れた人間だった。
そう、人間だった。過去形である。
視界に見える自分の腕のような物が丸太の様に太く緑色に見えるんだが、なんとコレ気のせいじゃない。
剣を振り回していきなり襲ってきた外国人達にパンチとラリアットをかましたら
頭と胴体が離ればなれになって吹き飛んだ。
緑の肌にまぶされた赤い血がクリスマスカラーを想起させる。この世界の今の季節が分からないが、多分外れもいいとこだろうとは思う。雪も見ないし、なんか暑いし。
「残業……一人ホールケーキ…………うぅ頭が……!」
「あぁ~中山さぁん、とうとう人殺しにぃ…
いつかやりそうとは思ってたけどぉ クスクス」
「中山くん、殺す前にもう少し情報を引き出してくれないと……とりあえず彼らの死体からめぼしいものは取れそうかね?」
妙に艶めいた女の声と、中年のおっさんの声が
師走の苦い思い出を遮るように投げ込まれるが、荒んだ心に返答の余裕はなく、なげやりをただ返した。
「ベタベタすんな離れろ!必要なもんなら自分で剥ぎ取ってくださいよこの…つるっパゲ!」
黒い翼に布面積が異様に少ない衣装を着た青白い肌の女が、緑の丸太に絡みつきながらクスクスと笑みを溢すのを中山は鬱陶しく払いのける。
つるっパゲと呼ばれたもう一方はプルプルと体を震わせて抗議をし始めた。
「ハゲじゃないもん!!ツルツルはしてるけどハゲじゃないもん!!」
「もう毛も手も無いですもんねぇ?あと、おじさんが幼女みたいな口調しても可愛いくないですよぉ?」
「口調は……君が元の中身を知ってるからだろ?見たまえこの丸いフォルムにつぶらな瞳…どっから見ても
転生したら愛されスライムボディだった!じゃないか!!」
「茶色いスライムは汚な過ぎて需要じゃないんですよ、課長」
「え、私茶色なの??うすい水色とかじゃなくて???」
「ぶっちゃけ、うんこです」
「えぇーーーッ!か、カラーチェンジの魔法は無いのか?!」
「課長うんこだったんですかぁ?やだぁ笑
あ、でも前より臭くないですよぉ~?クスクス」
「ぬぐぐ……………」
人の死体を横目に漫才をし始めた呑気さを咎めるものは今この周辺には居なかった。
これが彼らにとってのいつもの日常の延長であるなら死体を側に置いて緊迫しないなどあり得ない。
そもそも、鎧を着て剣を振り回すやつも、ちょっと殴っただけ(?)で軽く死ぬのも地球の日本での、それも近代社会においての日常である筈がない。
しかし彼らは各々、悠長な会話を繰り広げている。
一時的な混乱によるものか、状況の変化に対応出来ていないが故の思考放棄なのか
第三者はすでにこの場に居ず、それらの判断は各個人に委ねられていた。
「課長の言う通りにするのはシャクですが…物騒なやつがまだ居るかもしれないし、とりあえず、剣はもらっていくか…あと金目のモノ?」
「おまわりさぁ~ん、物騒なやつはここでぇ~す
オーク?ゴブリンが死体を漁ってまぁ~す」
「今アンタも死体にしてあげますね」
居もしない存在におどけて呼び掛ける女に対して、死体から使えそうなモノを剥ぎ取りながら相手も見ずに中山は言い放った
「せ、せめてこっち見て言って~?怒っちゃった?冗談ですよぉ~」
「ユミくん、君も見た目がサキュバスぽいしこっちにお巡りさんが居たら即逮捕だと思うがね」
「えぇ~こんなに可愛いのにぃ??」
「ゴブリン(?)を躊躇なく殺しにくるなら、魔物と人間は少なくともこの近辺じゃ共存してないってことだろ?逮捕どころかその場で討伐もあり得るよ」
「そ、そんなぁ一番可愛いくて人間にも近いのにぃ?!
中山さん…守ってくださいねぇ♥️」
「拷問されるまえにここで一思いに殺してあげます」
「そんな優しさ要らないぃ~~!」
「それより、ほどほどにしてここから離れよう。逃げてった奴に応援を呼ばれたら厄介だぞ」
現在地の詳細は不明だが、この拓けた道以外は草木が覆い繁る森のような場所で、つい先ほどエンカウントしたのは実は三人だった。
鎧を着ていた二人に比べて軽装の男が一人、来た道を引き返して逃げている。
課長の判断に特に異はなくユミは頷いたが、中山は少し考える素振りを見せた。
「何か考えがあるのかね?」
「腹減った」
「へ?」
「腹…減った…」
そういって唐突に死体にかじりつく中山を見てユミと課長は少し引いた……が
その光景に嫌悪などの悪感情が特に湧かないことにも同時に気がついた。
グチャグチャと生肉を咀嚼する中山も自分自身の変化を感じながら、しかし食事を止める気にもならずに黙々と食い続けている。
(なんで…なんでこんなに腹が減るんだ……これ食べきっても多分足りない。牛は赤くても食べられるを信用したことない私が生肉に抵抗なくなってる?え、ヤバ…)
(死体を食べたいとは思わないけどぉ、食べてるのを見てもなんか……あんがい普通ぅ?生きてた方が美味しそうだよねぇ)
(ふむ、今はお腹が空いてないからかもしれんが、この光景に抵抗が無くなっている私もきっと………)
ここが何処で何が起こっているかを誰もまだ正しく理解出来ていない。そんな状態だが三者とも曖昧な予感ではなく、現状についていくつかの確信を持っていた。
ふと、遠くの木々が大きく揺れる音が聞こえて三者とも目を見やる。
見上げてもなお高く聳え立つ赤い針のような山から、翼が6枚ある怪鳥の群れがバサバサとけたたましい音を立てて飛び出す。
向こうはこちらに気づいていないが、一体一体が都市バス並みに大きい群れが空を覆い尽くす光景は中々圧迫感がある。
ユミは恐怖で背中の黒い羽をフルフルと縮こませ、中山の背に隠れ、課長と呼ばれた茶色いゼリーは興味深そうに繁々と見つめ、緑肌の中山はあの肉も食い応えがありそうだと考えていた。
あんな生き物、地球では見たことが無いのに
思ったよりも動揺がないのは何故だろう
(((化け物がいる世界で、化け物になってしまったからか)))
この先の自分達に救いはあるのか?
人外の体を手にした三者は、去来する未知の数々に少しだけ恐怖し、また同時に底知れぬ高揚を感じとっていたのであった。
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赤い山の遥か麓には、堅牢な鉄柵で覆われた1つの村がある。
出入り口には山側からの獣や魔物の侵入を止めるために誂えた、これまた大きく特殊な金属で出来た門があり、そこへ目掛けて勢いよく駆けてくる人物を捕らえた見張り台の中年の男は
それが見知った顔で、滅多に見ないほどの脂汗を浮かべて青ざめているのを見て慌てて声をかけやった。
「おーいギーネ!何があった!?マギネとニーラはどうしたんだ!!」
『兄貴とニーラは魔物に殺されちまったッ!!早く開けてくれおやッさん!!』
「ナニィ魔物だと?!よく無事だったな!!
分かった今開「待て!」
「そ、村長いらしてたんで?何故止めるんです」
「ギーネ、魔物の特徴は?何匹いたんだ」
『多分ゴブリンと淫魔、あと茶色いスライムが一匹ずつだ!ゴブリンが兄貴達を殴って殺しやがった!』
「魔物とはどこで会った?種族がバラバラだが何か喋っていたか?」
『魔物が喋ってもオレが分かるわけないだろ!とにかく早く中に入れてくれよーーっ!』
「村長もう開けますよ?!」
「……いや、ダメだ」
『「!!」』
「万が一、擬態する魔物だったら手に負えん。町から騎士を呼ぶまで門は決して開けてはならん」
『ふ、ふざけんな!!見殺すのかオレをーーーっ!!』
「一人を助けて百人を危機に晒すわけにはいかんでな、許せとは言わん。せめて町の応援がくるまで生き延びてくれることを祈ろう」
村長と呼ばれた白髪の老人は、有無を言わせぬ圧力をもって即座に判断を下した。考えもなく門を開けようとしていた見張り番の男はバツが悪そうに目をそらし、ギーネと呼ばれた門の外で立ち尽くしている青年に向けて何かを投げ渡しながら声をかけた。
「す、すまねぇギーネ……魔物避けの松明だ、せめて持ってけ……」
『……………』
自分の足元に落ちたそれを呆然と拾った青年は、門と見張り番の中年、村長達をオロオロと視線を変えて見つめていたが、本気で開けるつもりが無いとついぞ悟ると、色の抜けた表情で魔物避けと言われる松明を握り込めた。
『………か…』
ややあって、顔を伏せてしまった青年は絶望したのか
誰も聞き取れない程のか細い独り言を残して村を離れて行った。
「オニオン村長、ホントに良かったんですかこれで……?」
(村一番の戦士マギネと相棒のニーラ…
彼らが殺されたのが事実なら……)
「最善とも言い難いが……後手に回ることだけは絶対に避けねば…………危ういぞ」
怪鳥シクイドリ(死喰い鳥)の群れが飛んで行った報告をうけて念のため様子を見に来たが、村一番の戦士が殺されたこと、その弟のギーネだけが生きて戻ってきた情報が突如舞い込み内心はかなり動揺していた。
村長として必要な判断を下し、村民に手早く指示を出していくが村の中でも戸惑いが生じて各々の動きにもたつきがある。
ゴブリンはともかく、淫魔にスライム…?異種族で連れ立って行動する魔物は聞いたことがない。
警戒網を最大限に引き上げてとにかく守りを固める。
それが最善であると信じ、村を守るためにオニオンは声を張り上げていた。
「針の山に魔物が出たぞ!皆、油断するなよ!!」
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『まじかー……村長さんめっちゃ頭切れるじゃないか』
先ほどまで顔を伏せていた青年だったものは
村から離れたところで漸く顔をあげると、その表情をグチャグチャに歪ませて、明らかに人を外れた面相を顕にする。
人間には判別できないおぞましいその表情は
彼にとってはおそらく、笑顔であった。
一話終
中山→緑ハ◯ク 考えるより先に手が出る
ユミ→サキュバス 自分が一番大事
課長→元ズラのスライム うんこ色 冷静
村長→戦士を殺せる魔物がなんでギーネ無傷で見逃すねん怪し過ぎるやろ
ギーネ→なんで入れてくれないのぉ???
見張り番→すまん、すまんやで(いいヤツ)