我に返った俺
甘い
足が大分動くようになると俺はきちんと
大人に戻った。
ああ。大人だ。
あんな 甘い 甘い 言ってた赤ちゃんみたいなヤツとは違う
そう、ちゃんと理性的な大人だぞ?
いや、自分でそう言うヤツは危ないって?
俺もそう思う。
だが 俺はあの匂いに 抗わなくてはならない
あれは 危険だ
あれを嗅ぐと 頭がポワッとして
あの 甘い 甘い を
啜りたくて仕方がなくなるのだ
でもな
ここは
きっと精霊か 魔女か
人ならざるものが 住む家
然らば 仕方がなかろうよ ちょっとくらい
俺が おかしくても
ああ 今日もいい匂いがしてきた
早く はやく おくれ
「駄目よ」
最近喋るようになった この 甘い なにか
声は 何とも言えない 声
高くもなく 低くもない
男のような 女のような しかし
言葉は女か? うーむ しかし 時代は
男女どちらも うーむ
森にも関係あるだろうか
分からん。
しかし 今日も邪魔だなぁ!おい
気を遣えよ影 俺の気持ちは 分かってるだろう?
しかしきっと この 甘い 甘い の
要望なのだろうよ
その時まで 待つしかないか
しかし俺は タダでは起きない
しっかり 舐め取って最後ちょっと 吸う
するとキュッとして 最後また 甘い
甘いって さいこう
………………………………
「そろそろいいかしら」
なにが?
初めて部屋の中に忙しない空気
俺はただ 背中の治療で 横向き
丁度見えない 壁側
わざとだ
まだ 駄目らしい
最近 吸わせてくれるから そろそろいいかと
まだ 駄目か
しかし脚が動くから 寝返りしようとして
昨日えらい目にあった もうやらない
大人しくする
だってきっともうすぐ 起きれる筈だ
そうして俺は あの 甘い 甘い を
たっぷり 啜るのさ フフ
その前に覚悟を決めろ
なんだか口は 禍の元と 頭の中に響く
ふむ? とりあえず 何を見ても
驚かない様 鍛えよう 想像するんだ
何にしよう?
ジャバウォックとか?いや、それはない
だって服着てたし
あれは?
狼が服着てるやつ それはなんとか頭巾
でもそれは嫌だな しかしモフモフはしていなかった
ヌルヌルもしてない ガサガサも トゲトゲも
柔らかいんだが。
難しいな。
柔らかいって だけで 頭がフワフワして
いい想像しか出来ん。
なんだか俺が馬鹿になったみたいじゃないか
いや なったのかも
だって甘い 甘いって 正義
ほら もう馬鹿
いや違う 確か
確か俺は死にに来た筈で
甘い甘い 言いに来た訳じゃなくて
おかしいな 死にたくない
この 甘い 甘さ 甘い 味を 味わえなくなるなんて
「仕方のない人」
おや?
やはり まさか
いやいや 期待するな? とりあえず
お腹空いた 甘いの まだ?
…………………………
さて。
俺は起きられる様になっていた。
しかし歩いたりするのはまだ 練習が必要だ。
どの位寝たきりだったのか
分からない
しかし起き上がって座り 自分で食事が食べられる様になったのは大きい
そしてどうやらここは 森の小屋だ。
俺の世話をしているのは、影。
あの甘いのは まだ姿を見せない。
何処へ行っているのか どうやら俺が
寝ている時に帰ってくるのと
甘いのを くれる時だけ 帰るらしい
それって
いやいや、期待するな。
何せ俺は居候のタダ飯食い 甘いのも喰う
元気になったら ポイかも知れん
まだ甘いのは来ない時間
甘いのは 一日一回 二回にしてくれないかな
駄目かな
姿を見ることが出来たら 頼んでみよう
……………………………
「影。ちょっと手を貸せ。」
「人使いが荒い」
「お前は人じゃなかろうが。」
影は姿は見えぬが実体はあるようで俺の介護役は
影だ。意味がわからん。
しかしきっと ここは 不思議な森。
それもあってここに決めたからな。引越し。
そう、俺の持っていた童話に出てくる森の名前と一緒だったからだ。
まぁ、後は家賃がタダだったからだけど。
この、森の家は小さい。
木でできたこぢんまりとした小屋で、俺の寝ているのが寝室だろう。
もう一つの部屋は影に止められるのでまだ入っていない。
多分、台所とかだと思うんだがどうなんだろうな?
何せ、魔女の家だからな。
そう、俺は気が付いていた。
きっとここは 魔女の家だ。
多分、俺が今迄魔女だと信じているものの
住んでいる家に 似ているってだけだけど。
しかも 絵本の。
いやだって、実際見た事も無いんだからしょうがないだろう。
そう、正に魔女が住んでそうなこの、家。
もし 魔女じゃなくて それっぽいものだとしても
多分それはもう 魔女でいいだろう。
きっとみんな そう呼ぶ。
この家は そんな物が沢山、溢れていたんだ。