「ただいま」と「おかえり」
俺は走っていた。
いつのまにか 物凄く速く。
もしかしたら 窓のせいかもしれん。
俺 インドア派 だし
そもそも普段 走んねーし
でも
だって
何故だか
胸騒ぎ
彼女が寂しがっていないか
俺がいない事に気が付いて
探していないか
なにやら
モヤモヤ
胸騒ぎ
しかしの しかし
これは
きっと
多分
俺が
寂しいのだろう
生まれた 処を離れ
母と別れ
やっと見つけた
「俺の居場所」へ
行くのだとしても
やはり 別れは 少し
こんな俺でさえも
感傷的にさせるものなのだ。
だから
俺は
ひたすら
その 想いを 振り切るように
ただ真っ直ぐ
走っていたんだ。
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いつの間にやら 辺りは暗く
あの 冬のやつも
あの 春のやつも
もう
いない
黒い影の木
紅い空
影絵の様に 浮かぶ その姿
並ぶ 木 木 木 木
少し 陰の空気
夕暮れなのか
ここは 何処
辺りの木々は みな影の様に黒く
影の様に 俺を見ている
その 影の木々に見守られ
いつの間にか 歩いて進む俺
急に目の前が 拓け
辿り 着いた
月の庭
そう 何故だかここは
俺にとって
月の庭になっていた。
そう思って見上げると
やはり 上には満月
月の満ち欠け
天体すらも
操るか
それとも
時間を
操るか
なんにせよ既にここは
窓 の 空間なのだろう
気配がある
あの
俺の
甘い気配
窓からも する
あの甘い
うん。
俺の還るべき 場所は何処だ?
窓よ
道を 示せ
俺の還る べき 場所は
何処だ?
その時現れた
俺の 案内人
黒く やはり 永い
影
揺らめく それ に
俺は少し 安堵し
一緒に 揺ら 揺ら
歩いて行った。
………………………………………
遠く
近くに
見えてくる
家
あんなかたち だったか
あんないろ だったか
いやいや しかし
その 家の前に 佇むのは
紛れもなく
俺の きみ
今日は オトナの 黒髪で
何故 俺を待つ
黒髪で
少しずつ
少しずつ
はっきり 見える きみの
艶やかな髪 いつもの頭巾
ずるっとしたシャツは
やはり変わらず ズルズルで
ダラリと長いスカートも
やはり変わらず ダラリと長い
細い手首
小さな足
後れ毛
瞬き
青く深い夜の瞳
その いろ が
はっきりと見える頃
俺は 「ただいま」と言い
君は 「おかえり」と
そう言って
また
僕たちは笑い合ったんだ。




