再びの 家
「お腹空いてない?」
ああ、母親とはありがたいもの。
開口一番俺にそう言った母さんは、テキパキと辺りを片付けていた。
俺は
俺が出て行ったままのあの暖炉の居間
ソファーの上。
母さん曰く「重すぎてここが限界」だったのだと。
母さんは俺を心配して時折訪ねていたようだが、何度も不在をしている俺を本格的に心配していた様だ。
口には出さないが、あの手紙。
アレが届くと言う事はおりが溜まるほどは悩んでいたという事なのだろう。
そうして胸騒ぎがしてまた訪ねると、玄関前で俺が倒れていたらしい。
ま、寝てただけなんだけど。
そうしてキッチンから聞こえてくる音と
暖かく 橙の炎が燃える 暖炉
爆ぜる 火の粉は 何も言わず
俺はただじっと
その畝る炎を見つめていたのだ。
「なんだ。………扉を開けると、そこはロンドンだった。みたいなの、やりたかったのに。」
「元気そうね。」
少し皮肉混じりの声と、暖かいスープ。
倒れた俺を気遣ってか、控えめな食事。
しかし母さん、腹は減っているぞ。
だが、食事の支度をしてくれる人の有り難さを知っている俺は
黙って、その懐かしい味を味わっていた。
もう、もしかしたら、味わう事が無いかもしれない
その、味を。
………………………………………………
大きな黒い額縁 見知らぬ豪華な服を着た男の絵
紋様が煩い壁紙 天井から覗き込む天使達
天蓋から下がる房 重すぎるカーテン
カーブして反り返る椅子の脚
ピンと張った長椅子のサテン
広過ぎるベッドは 俺を心許なくさせたし
豪奢な館は 夜は怖い
古く 歴史ある館は 沢山のものが
暮らし 住みついて
それらが見える俺は
なにが
生きているもので
なにが
話しかけていいものなのか
きちんと分かるようになったのは
大分大きくなってからだった。
しかしその頃には既に
ひとも ひと以外のものも
俺にとっては
おかしなもの
だという事は 紛れもない 事実
だったんだ。
「普通じゃない」と言われる
俺に 向けられる目は
ひとも それも
そうたいして変わりなく
俺に対して 真っ直ぐな瞳を向けるのは
母さん以外には
きみ
いや、 きみたち か?
三人だけだ。
そう、一度帰った事でまた
実感したこの 現実
俺の 還るべき場所
「しばらく、ここにいようか?」
そう心配する母さんに
これを言うのは
嬉しいような
悲しいような
しかし
笑って
送り出してくれた
「あなたが自分の場所を見つけられたなら、それが一番いいの。お母さんは、それだけが心配だったから。」
やはり 母は偉大
俺のお悩みなんて お見通し
そして 何となく俺の様子で
も う
会えないかも知れない事は
分かるのだろう。
一度きつく 俺を抱きしめると
「愛してる」
と言った
そうか
これが 愛
気が付いたのは 今だけど
きっと
ずっと
今までも
これからも
これは
永遠に続く
よい
愛 だな
俺もそうして人を愛せるように
頑張るよ 母さん
そう 俺は決して
マザコンではない
母さんは すき だけどな
しかし俺は再び
家の鍵を閉める
あの「報告書」を持って。
目印がわりにな
母さんと手を振り合い
振り返らず歩く
俺だってさすがに
振り返れば
涙くらい出ちゃう
やってみせるよ
見てて
世界の
何処かで
だって俺達は
繋がってる
いつでも
何処でも
時間
空間
場所
時代
年月
瞬間 さえも
超えて ゆくから
また、寂しくなったら
おてがみ
出してね。




