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エクリプスの迷宮(クソゲー)  作者: 日月月明日日月
第三章
72/250

第67話   ~夕陽草原の快進撃~



「よしっ、行くか」

「うんうんっ!」


 朝、宿を出る前にアキトとヒカリは顔を見合わせ、意気込みを確かめ合う。

 今日は頑張るぞー、という想いがよく表れている。

 フーヴァルやシータと一緒にパーティを組んで、第15界層を目指してみようというこの日、二人の気合の入りようったらない。


 話してみても好感を持てた先輩冒険者二人に、お世話になる形の迷宮攻略。

 向こうの方が立場が上とか、そんなことはないのだが、少なくとも二人はそんな意識である。

 足を引っ張らないようにしよう、力になれるよう頑張ろう、なんて昨日からず~っと考えてたような二人なのだ。

 昨日はフーヴァル達と別れた後、日課の周回を済ませたらさっさとグリモワール図書館に行って、二人で勉強会までしてたぐらい。

 根性出して、第14界層までに生息するホムンクルスを全部頭に叩き込み、知識不足で後れを取らないよう一夜漬けで頑張ってきたのである。

 まったく真面目な子達だこと。


「フーヴァルさん! シータさん!」

「おう! おはようさん!

 よく寝てきたみてぇだな、朝っぱらからいいツラ構えだ!」

「ごめんなさい、待たせちゃいましたか?」

「ん~ん、全然大丈夫。

 フーヴァルがさぁ、今日が楽しみだったってすっごい早起きしたのよ。

 ホント気にしないで、私達もなんだか楽しみだから」


 迷宮への入り口である祭壇で待ち合わせていたフーヴァルとシータに、アキト達も合流する。

 待たせてしまってはいるようだが、これはフーヴァル達もネガティブな待ち方はしていない。

 楽しみで早く来すぎた、という形で、アキト達とパーティを組むことへの期待感を表すシータの言葉は、二人にしてみればむず痒い。でも、嬉しい。


「よし、パーティ登録するか。

 アキトとヒカリは同じパーティなんだよな?」

「はい」

「それじゃあ代表して俺とお前がパーティ登録するぞ。

 これで二人と二人のパーティを繋いで、四人のパーティになる」


 フーヴァルとアキトがインデックスを開き、それ越しに掌を合わせるようにしてパーティ登録は完了だ。

 今のところ、アキトが出会った冒険者はみんな、インデックスがウインドウ状である。

 本人の希望次第で、インデックスはたとえば書物状にも巻物状にも出来るのだが、やはりウインドウスタイルが人気ということだろうか。


「よーし、行くか!

 今日は気合張って、第15界層を目指すぞ!」

「は……」

「おーっ!」

「がははは、威勢のいい返事だ。

 アキトもそう来いよ」


 はいっ、と返事しようとしたアキトだが、隣のヒカリがグーを突き上げて元気な一声。

 ヒカリはとっても楽しそうである。さっそくこの四人の輪の中にあって、ムードメーカーとして輝いている。


 死とて無縁ではない迷宮挑戦、決してピクニックではないのだけれど。

 それでもこのムードでの出発は、明るい行く末を四人に想像させてくれる。

 肩肘張るばかりでもいいことばかりじゃない。これでいいのだ。











「ほう、そいつがアキトの仲間か」

「アーノ、っていうんです。

 やんちゃなとこもあるけど、いつも元気で可愛い奴ですよ」

「お~、獣人の兄さんに綺麗なお姉ちゃんか。

 アキトから聞いてるぜ、よろしくな、お二人さん」


「わぁ~、可愛い!

 その子がヒカリの仲間の子?」

「はい、サナっていう子なんです。

 サナ、ご挨拶して?」

「よろしくです~♪」


 遺跡の界層、第11界層に渡ったら、まずはアーノとサナをフーヴァル達に紹介だ。

 アーノは相変わらずで初対面の相手に敬語を使ったりしないが、彼なりにとても好意的なご挨拶を見せている。伝わってもいるだろう。

 サナも初対面からフーヴァルとシータには好印象のようで、自分から二人の前に出ていって明るく笑う。


「サナ、あの……」

「やっ! こないでっ!」


 サナがいきなりフーヴァル達には仲良くしたげにご挨拶するので、アキトはなんだか急に寂しくなってサナに声をかけてみる。

 サナの反応は今までと一緒。アキトから逃げるようにして、ヒカリの陰に隠れる。

 可愛い顔だが明らかに敵意満々な目でぷっす~と睨みつけてくるサナの姿は、アキトの心にまあまあのダメージを与える。


「な、なんでなんだろ……?

 俺そんなにホムンクルスには嫌われるのかなぁ」

「俺ぁ今はもうそんなキラいでもねぇんだがなぁ」

「ありがとアーノ、救われる」


 気を遣ったことを言ってくれるぐらいには、アキトとアーノの関係は良好なものとなっているのだが、サナはどうしてもアキトを受け入れたがらない。

 俺何かしたかなぁ、と悩んだりもしたのだが、心当たりも全くないし。


「それじゃ、私も仲間を紹介しようかな。

 さぁ、おいで」


 シータも使役(ティム)の魔法を発現させ、仲間にしたホムンクルスを召喚する。

 ウリリンだ。これが、シータの仲間ホムンクルスらしい。


「"イヴェール"、アキトとヒカリよ。

 ご挨拶できるかな?」

「ぷきゅ」


 野生のホムンクルスとして出没するウリリンはあまり鳴かないが、仲間にしてみれば可愛い声を出すようだ。

 アキトとヒカリを見上げ、ぷきゅ、ぷきゅ、と鼻を鳴らすのがこの子なりのご挨拶と見える。


「可愛い~!

 シータさん、素敵なお友達ですね!」

「あの、シータさん……撫でてあげてみてもいいですか?」

「大丈夫だと思うわよ」


 ヒカリがはしゃぐ横、アキトは勇気を出してチャレンジの意を固める。

 どうもホムンクルスに嫌われる入りが多い自分、このウリリンのイヴェールはどうなんだろうと確かめたくなる。

 これで拒絶されたら……という怖さもある中で、かなり勇気を振り絞っている。


「ぷきゅ、ぷきゅ♪」

「だ、大丈夫ですよね……?」

「そんなにびくびくしなくてもいいのに。

 大丈夫よ、イヴェールも喜んでるわ」


「サナ……」

「や!」


 アキトに優しく撫でられたイヴェールは、嬉しそうに鼻を鳴らしている。

 でも、サナの方を見てみたら、アキトと目も合わせたくないという風に、ヒカリの背中に顔ごと隠れられてしまう。

 別段アキトが何でもかんでもホムンクルスに嫌われる特殊なタチだとか、そんなことはないらしい。これはこれでへこむやつだが。


 よくよく考えれば対アーノだって、後から話せば明確な理由があったわけで、無条件に嫌われていたというわけではない。

 サナも、きちんと話をしてみれば、もしかすれば理由が判明したりもするのかもしれない。

 頑なにアキトとは話したがらないサナなので、話を聞く段階まで持っていく期待も今は持てなさそうだが。


「フーヴァルさんは、仲間は作ってないんですよね?」

「あぁ、俺はまだな。

 今の俺でこれ以上守るべき奴は増やせねえ」


 どうやらフーヴァルは、ホムンクルスを仲間にはしていないようだ。

 まだ使役(テイム)の魔法を習得できていないだとか、そういうことではなく、意図的にホムンクルスを仲間にしていないと見える。

 この辺りの事情や理由も、機会があればアキト達も聞いてみたいところである。


「よし、それじゃあ行くか。

 昨日話したとおり、一旦本棚は全部スルーだ。

 気が向いたら、後でお互い別個のパーティでグリモアを取りに来れるようにな」


 さて、出発。基本的には、フーヴァルがリーダーシップを執ってくれる。

 アキト達冒険者四人、仲間のホムンクルス三人。

 ウリリンのイヴェールも、一人と数えるのが仲間ホムンクルスへの矜持というか何というか。恐らくアキト達はそんな言葉の使い方を好むだろう。

 合わせて七人での迷宮進出だ。数日前のアキト達からすれば、急に大所帯になった気分である。







 第11界層はアキト達も、サナを仲間にする前の三人で、じっくり全域のマッピングが出来たような界層である。四人いれば周回だって可能だ。

 この辺りに出てくるホムンクルスは、アキト達にとっても難敵ではない。

 気を抜けるほどでもないが、仲間も多く手や視野もかつて以上の今、順路もわかっているとなれば何ら苦の旅にはならない。

 さほどの消耗もなく、すいすいと第11界層の走破は果たすことが出来た。


 次は、アキト達にはちょっと慌ただしい思い出の新しい第12界層。

 夕陽に照らされた草原のフィールドを前に、あの時ここであんな目に遭ったなぁという思い出が鮮明に脳裏に蘇る。

 トラウマと呼ぶほどではないが、ちょっと緊張感が増す。


「おー、来た来た。

 毎度この界層は、来るなりわらわらホムンクルスが寄ってくるな」

「アキト、ヒカリ、無理はしないでね。

 まずは敵の数を減らすのが先決だから。

 あなた達だけで頑張らなくてもいいんだからね」

「わかりました……!」

「がはは、もっと肩の力を抜けぇ」


 身体能力強化の魔法を行使して戦うフーヴァルは、ただ戦うだけで徐々に魔力を消費する。

 微々たる消費の連続と考えていいが、彼が先陣に立つ頻度が多くなると、後々の界層で魔力の消耗が響いてくるかもしれない。

 魔法が主な攻撃手段であるシータは、長くそれで戦えるだけの魔力はあるようだが、彼女の仕事が増えればそれも消耗には違いない。

 なのでここまででは、魔力の消費無く戦えるアキトやヒカリ、アーノやイヴェールが主に前に出る戦法を取ってきた。

 サナも少々だが参戦している。氷の属性の魔法で攻撃するサナだが、至近距離の相手への魔法程度なら、魔力の消耗も殆ど無くこなせるらしい。

 ヒカリのそばで追加攻撃をする程度の役割に収まっているが、魔法を使わぬ攻撃力には乏しめのヒカリには大きな助けである。


 しかし、第12界層は広いフィールドゆえ、各方向から冒険者を見つけたホムンクルスがわらっと群がってきやすい。

 毎度凄い数が一気に来るわけではないが、一匹一匹仕留めるのに時間がかかると、時間差で寄ってくる奴らの合流で相手取る敵の数が増えてくる。

 以前のアキト達は、そうして連戦に次ぐ連戦を強いられたわけだ。


 まずは総力で速やかな敵の排除を。

 敵の群がりやすい界層における基本戦術の一つである。


「オラオラ来いやあっ!

 今日の俺達は前のようにはいかねぇぞー!」

「うわぁ、アーノが調子乗ってる」

「数は力よぉ! 強気にいくぜぇー!」


 あの日のように、まずは四体のホムンクルスがアキト達に迫ってくる。

 バーンフェアリーが二体、キルアーマーが一体、コボルドが一体。

 遠目にも、駆け迫ってくるホムンクルスの姿を確認できる。まずは近い敵を速やかに排除すべし。


 しかし、こちら七人もいれば楽なものだ。

 掌底一発でキルアーマーを吹っ飛ばすフーヴァルと、コボルドを斬り捨てるアキトの並び立つ後ろ姿は頼もしい前衛のそれ。

 火の玉を発そうとしたバーンフェアリー二体も、先んじて水の球体を放つシータの攻撃で一体撃破。

 ヒカリも同じ、水弾魔法(アクアボール)と呼ばれる魔法で、もう一体のバーンフェアリーにバスケットボールサイズの水の塊をぶつける。

 連日きっちり周回してグリモアを集めているだけあって、基本的な魔法の習得数自体はアキトもヒカリも多い。

 火属性魔法を使うことの多いヒカリの水弾魔法(アクアボール)、魔法使いとしての一日の長があるシータのそれよりは威力も劣るが。

 バーンフェアリーを一撃で仕留められないが、弱ったそれにアーノが飛びかかってとどめを刺してくれる。


「行儀よく待ち構えて戦う必要はねえからな。

 次の界層への道はこっちだ、ゆっくり歩きながら近付いてきた奴を蹴散らしていくぞ」


 さくっと一戦を終えれば、次のホムンクルス達との戦いまでの時間も少々開く。

 さほど緊張感を感じさせないフーヴァルの歩みに合わせ、アキト達もそれについて歩く。

 間もなくして近付いてきていた敵との距離も詰まるが、その間にもちょっとずつ進んでおこうぜというのがフーヴァルの考え方だ。


「あいよ、一丁あがり。

 シータ、あそこのメイジ撃ち抜いておいてくれるか」

「はいは~い、見えてるわ」


「よーし、あのパピヨンは俺が片付けとく!

 アキト、地上の敵は任せるぞっ!」

「ああ、わかった!

 ヒカリ、あっちのフラワーを頼む!」

「オッケー! 火球魔法(ファイアボール)っ!」


 ドリモグとジャッカルとキングコブラの三匹をざくざくっと掃除するフーヴァルの強さは、間違いなくこのパーティの主戦力だ。

 魔法で狙撃してくるメイジが近付きつつある姿には、シータが先んじて風の刃を飛ばす魔法で始末をつけてくれる。

 高所の敵は俺が、という意気込みのアーノがパピヨンの相手を宣言すれば、アーノを狙って近付いてくるビットガンナーをアキトが仕留めに走る。

 アルキダケという少し強めのホムンクルスを生み出すフラワーの接近には、ヒカリが得意の火属性魔法で一撃葬送だ。

 声をかけ合う中には参じていないものの、ウリリンのイヴェールも、地を這って近付いてきていたアンワームやタランテラを突き飛ばしている。

 サナもヒカリのそばできょろきょろと周りを見回し、もしもお姉ちゃんを狙う奴がいたら私が、と気を張っている。それだけでヒカリにとっては頼もしい。


「おっ、"エアリアル"が来てるぞ。二匹か。

 アキト、一匹はお前に任せていいか」

「やります!」


 第12界層には二十七種ものホムンクルスが生息していることもあり、今日初めて見るホムンクルスも姿を現す。

 黄緑色の髪の小さな妖精、サナと同じような姿ながら、やたら素早いスピードで矢のように接近してくるやつ。

 カーニバルで大暴れしていたシルフの下位種であるこのエアリアルは、すごい速度で飛来して、両手に持った二本の針でぶっすり刺してくるのである。


 幸い動きは単調で、小柄でも急接近してくるそれは迫力があるが、迎え撃つ剣を的確に振るえば、アキトにも一撃で仕留められる相手だ。

 その高速飛行はあくまで冒険者を逃がさないためのものであり、猪突猛進な性質は上位種と比べて御しやすい。

 びびらずきちんと対処すれば撃破は容易いのだ。他の敵にも苦戦している中、急に参戦された場合などが怖いケースと言えるか。


「んむむ、またサンダーフェアリーが……!」

「ちょっと待ってヒカリ、魔法を撃っちゃ駄目よ。

 近くに"ニンフ"を引き連れてるでしょ? 跳ね返されるわ」


 飛来するサンダーフェアリーの姿を見て身構えたヒカリだが、先輩のシータが念のためにとヒカリの肩を持って制止する。

 サンダーフェアリーのそばにいる、水色の服を着た小柄な妖精のような姿のホムンクルスは、サナと同じフリーズニンファに少し似ている。

 しかし金髪おかっぱ頭の上に輪っかがあり、サナの透明な四枚羽とは違う二つの小さな翼を持つそれは、はっきり別物の"ニンフ"と呼ばれるもの。

 仲間のホムンクルスを癒す治癒魔法の使い手かつ、魔法攻撃を跳ね返す特殊能力の持ち主で、魔法で狙撃された仲間の盾になって魔法を跳ね返したりする。

 自身の戦闘能力は高くないが、けっこう嫌なやつである。こいつが戦場にいるかどうかは、よく意識した方がいい。


「任せて、私もあれ相手ぐらいなら戦えるから!

 行くわよ、イヴェール!」

「ぷきゅっ!」


 サンダーフェアリーとニンフに向かって、シータとイヴェールが駆けだした。

 シータよりも速いイヴェールが、跳躍しての突進でサンダーフェアリーをぶっ飛ばす。

 そしてニンフは、杖を振るうシータが二度打ちのめして撃破。

 あっさりと二体の敵をイヴェールと共に片付けて、すぐに周囲を見渡して髪をたなびかせるシータは実に美しく頼もしい。

 とりあえずヒカリ目線では、ほわ~と見惚れてしまうほど格好いい。


「……わっとと、いけないっ!」

「おねえちゃんにさわるなっ!」


 はっとして我に返り、地面を這うように近付いてきていたヌケガラムシに気付いて構えたヒカリだが、サナが彼女よりも少し早くに気付いている。

 跳んでヒカリに体当たりしようとしてきたそれを、両手を前に出して冷気を発するサナが迎撃してくれた。

 性質上、とどめとなったその一撃で死にながらも、即座にアンワームに生まれ変わるヌケガラムシだが、わかっていればヒカリがナイフを突き立てるのも早い。

 きっと一人でも対処できたが、これほどスムーズに済んだのはサナのおかげだ。


「ありがとっ、サナ!」

「えへへ~♪」


 ヒカリはサナを、顔のそばに片手で抱いて感謝を告げながら、さっきの轍を踏まないよう、よく周囲を見渡す。

 ヒカリの目線が自分に向けられていなくたって、サナは頬ずりして嬉しそう。

 嬉しくってサナが周りに目を遣れなくなっているのは幼いが、今はヒカリがちゃんとしているので大丈夫。


「よーし、概ね片付いたな。

 ま、のんびり行こうぜ。何が来ても余裕なのはよくわかったろ」


 キルアーマーを殴り飛ばし、とうとう近場のホムンクルスの掃伐が完了した眺めの中でフーヴァルが、何も怖がることはないと宣言してくれる。

 そもそも彼らは、フーヴァルとシータとイヴェールの三人だけで、余裕を持ってこの界層を進めるパーティなのだ。

 そこにアキト達も加わって、これだけやってくれる姿を見れば、慢心でも何でもない余裕というものがフーヴァル達にも溢れてくる。

 アキト達だってそう。信頼できる言葉を向けてくれる安心感ひとつ取っても、自信を持って実力を存分に発揮できるきっかけになっている。

 今日初めてパーティを組んだ二組にして、実に理想的な形で機能している冒険者一団であると断言していい。


 順路はフーヴァルが指し示してくれる。道に迷うこともない。

 しばしば迫ってくるホムンクルスとの交戦も、充分すぎる戦力を擁したこのパーティにとっては障害たり得ない。

 順調な歩みの末、いつの間にか第13界層への魔法陣に到達したアキト達は、あの日の苦労は何だったんだろうとさえ思っちゃう。

 ちゃんと落ち着いて戦えば何とかなるのだ。別に、フーヴァル達がいてくれるからというだけではない。それだけの力量はアキト達にだってある。

 この経験は、いつかアキト達だけで第12界層を周回する時にも、実力相応に力を発揮できるようになるきっかけにすらなったのではないだろうか。


 フーヴァル達と出会い、こうして一緒に冒険するようになったことは、アキト達にとってはただ戦力的な助力を受けたことだけに留まる出来事ではない。

 環境が変われば、かつて気付かなかったことへの発見もある。

 一度それなりに苦労した界層だからって、過剰に委縮する必要はないということに、気付きかけているだけでも大きな収穫だろう。

 出会いがもたらす何かとは、何も目に見える実益ばかりではないということだ。

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