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エクリプスの迷宮(クソゲー)  作者: 日月月明日日月
第五章
202/250

第193話  ~バーニングメイズダッシュ~



「片付きました~!

 さ~行きましょう!」

「おぉその調子だ!

 突っ走るぞ、ついて来い!」


「おかしなノリになってますねぇ……!」

「いいのいいの、勢いって大事よ!

 ほら走れ~!」

「むっきゅ~!」

「わーい、いくぞ~!」

「バテても知らねえぞ、ヒカリのアホめ……」


 暑すぎておかしくなっちゃった子がいるらしい。ヒカリっていう奴なのだが。

 立ちはだかってきたホムンクルスを全員倒すや否や、息切れしてるくせに高らかにレッツゴー宣言していらっしゃる。

 じっとしていてもつらいのは変わらないので、いっそ開き直ったらしい。

 へこたれてぐちぐち言われるよりはずっとマシと見て、先頭を行くフーヴァルは小走りで、後続の仲間達を速い進みで導いていく。


 まあ、やるしかないし、行くしかないのだ。居直るのは良いことである。

 一方フーヴァル、ムードに水を差すまいと走ってはいるものの、当然ながら全速力などせず徐行気味。

 速く走り過ぎて体力消耗して、いざホムンクルスとの戦いでヘトヘトになっていたら本当にアホである。

 行っちまいましょう精神のヒカリを肯定しつつも、やけくそガールにパーティを振り回させない指揮官としてよく考えた走りだ。

 無理しない程度の速い行進自体は悪くないのだ。ちんたら進んでいたらホムンクルスとの遭遇回数、戦闘回数が増えてしまうので。


「おうヒカリ! 右か左か!?」

「ひだり~!」

「よーしわかった!」


 分かれ道が見えてきて、尋ねる余裕があればフーヴァルはヒカリに問う。

 ヒカリは即答してくれる。何も考えてないけど。どうせ考えても、どっちがゴールに向かう道かなんて誰にもわからないのだし。

 サナを高い所に飛ばして順路を探して貰ってもいいが、あいにく未だ果てしない大迷路と化しているこのエリア、サナに任せても順路の逆算が難しい。

 せめてゴールがもう少し近付いてからなら、それをやる価値もあるかもしれない。


「はいよ行き止まり。

 引き返すぞ!」

「すいません、間違えました! 私の責任です!」

「いや、全然いいけどね……」

「がははは、戻れ戻れ!

 さっきの分かれ道のもう一方に進むぞ!」


 目の前にマグマ溜まりが広がるだけの行き止まりに突き当たっても、へこまずさっきの場所まで戻るだけ。

 いつもやってることである。道を間違えたら戻って正路探し。

 滞在するだけで嫌になる場所で、いつもやっていることをめげずにやれるのは良いことであろう。

 あぁ行き止まりだ、がくー、なんて毎度毎度やってたらキリがない。


「おおっと、お出迎えだぜ!

 いくぞおめぇら!」

「全部ぶっ飛ばします! イクゾー!」

「いくぞー! 殺すー!」


「ヒカリ酔ってんのか?

 あいつオーガに泥酔ブレスでもくらった?」

「もうそっとしとけ、バカになっちゃったんだよあいつ……」


 キマイラがイフリート二体とボルトスプライト、それにエンジェルやらウィルオウィスプやら引き連れた厄介者集団に遭遇しても、ヒカリは全然怯まない。

 怖くない相手だとか思ってるわけではないのだが。現に立ち位置は冷静に、いつものとおりアキトとフーヴァルの後ろの前衛安定位置。

 感情と発言だけ前のめりである。逆に言えば判断力を損なっていないので良しか。

 サナレベルまで発言レベルが落ちているのは気がかりだが。


 攻撃強化(ストライカー)を自分にかけたアキトとフーヴァルを主軸に、イヴェールもまた力強い戦力として敵勢に立ち向かい。

 この界層に出現する敵との戦い方も、数をこなしてきただけあって、おおよその確立が済んでいる。

 少々の反撃を受けるのは仕方ない、されど一体ずつ片付けて、敵の数をゼロにして進んでいくだけだ。やることはいつもと変わらない。


「ビビビビイッ!!」

「んぐうう、っ……い、ってえぇっ……!」

「あわわわっ、あぶっ、あぶなっ……!」

麻痺癒(パラライズケア)! アキト、頑張れっ!」


 残った敵は三体というところまで早々に片付ける。

 ヒカリとシータがよく頑張ってエンジェルを仕留め、ウィルオウィスプも踏み込んだアキトが早々に斬り捨てて。

 イフリートのうち一体をアキトとフーヴァルが一気に仕留め、今はフーヴァルがもう一体のイフリートと交戦中、イヴェールがキマイラと交戦中である。

 アキトの剣で深々と傷を与えたボルトスプライトが、闘志を燃やして懐まで飛び込んできて、全方位放電を発したところである。

 痛烈な電撃を浴びるアキトに対し、なんとか跳び退がって逃げたヒカリはその放電域から逃れている。

 肌が火傷したように敏感な今、あの電撃は痛さが普段以上なのだ。誰でもそうだが痛いのは嫌、ヒカリってば今でもその辺りには敏感である。


「っ、はあっ!」

「ギビ……!」

「んの、野郎っ!」


 なんだかんだでボルトスプライトにクナイを投げる仕事をしてくれるヒカリである。

 クナイを受けて怯んだボルトスプライトをアキトがぶった斬り、こちらは勝負をつけられた。

 麻痺を受けた彼を即座に見極め、それを治す魔法を即座にかけてくれた後衛シータのはたらきも大きい。


「いだっ!?」

「ん、ヒカリ!?」


 残る敵はフーヴァルがぶん殴っているイフリートと、イヴェールが押しきっているキマイラの二体。どちらもそろそろ勝負が付きそうだ。

 しかし道の端、いわばマグマとの土俵際位置に立っていたヒカリが、マグマから顔を出した何者かにくるぶしを引っかかれる。


 マグマの中から顔を出したスクリューモールが、モグラ型ボディの爪でヒカリの背後から、彼女の脚を傷つけたらしい。

 壁を掘って背後から襲いかかってくる特殊能力で名高いスクリューモールだが、その能力の本質は"潜行"である。

 マグマの中だろうが泳げるのだ。溶岩熱でも溶けないメタルボディである。材質が何かはあまり気にせず、特殊な能力によるものと考えよう。

 唐突な痛みへの驚きでバランスを崩しつつ、マグマの方へすっ転びそうになりながらも、ヒカリは辛うじて横倒れの方向に体を持っていくことは出来た。

 最悪の結末ではないのだけど。


「あぢぢっ、あづっ、あづいいいっ!?」

「…………」

「こらーっ! おまえおねえちゃんをいじめたなーっ!」

「ガビビビ……ッ!」


 地面に手をついて倒れたヒカリだが、マグマに炙られるこのエリア全体、地面もじゅうじゅうに熱々である。

 卵を焼けるフライパンの上に手を着いて太ももをつけたようなもので、大悶えして転がった末にヒカリは立ち上がる。

 深刻な熱さと苦痛だったのはわかるのだけど、テンションのおかしくなったヒカリが地面と遊んでるようにしか見えず、アキトは白い目で眺めてしまった。

 サナがスクリューモールに飛んでいって、粉雪を浴びせてくれているので事なきを得るが、あんまり戦場でぼーっとしているのは良くありませんよ。


「ヒカリ……」

「んぐううぅ~っ、あっついあっつい!

 大丈夫! それより終わった!?」


「おぉ!

 今終わる、とこだっ!」

「むっきゅううっ!」


 イフリートの顎を蹴り上げるフーヴァル、牙で深く傷つけたキマイラの顔面を全力の体当たりで砕くイヴェール、見事な勝利を双方が飾ったところ。

 マグマに半身浸かった状態から這い上がってくるスクリューモールも、アーノが体当たりでとどめを刺してくれている。

 敵全滅。でもヒカリが『終わった!?』って指揮官めいたことを言うのは、なんだか釈然としないアキトである。大丈夫、アーノもそう思っている。


「よーし行くぞ!

 立ち止まってるヒマなんてねぇからな!」

「はーいっ!

 アキト君、行くよっ!」

「いま俺の中でヒカリの株が急下降してる……」

「わかってるよー! 今日だけ今だけ!

 あとでいっぱい苦情聞くから! ほら行こ!」

「あぁ、自覚あるのね、よかった」


 別に嫌いになったりはしないけど、狂ったようにはっちゃける姿をこうもまざまざ見せつけられると、気持ちはわかるがドン引きしちゃうというか。

 でも、ヒカリも色んな意味で必死である。メンタルごと突っ走らないと折れそう。

 顰蹙を買った目で見てくるアキトの顔と向き合って一瞬素に戻りかけていたが、今の私にはこの勢いが必要なのという、理解を懇願する顔にすぐ変わる。

 これを真正面から見てしまうと憎めない。いつもの必死なこの子である。


「おーら、なにくっちゃべってんだ!

 行くぞ行くぞ!」

「頑張れよ、ヒカリ。俺も頑張るから」

「うんうんっ!

 私すっごい頑張ってるつもり……っ!」


 あんまり責めちゃ可哀想かもしれない。

 深く息を吸うと肺まで焼かれそうなこの環境下で、ぜぇはぁ息を荒げている。相当必死である。

 無茶に振り絞った自らの気力に縋らないと、帰りたい気持ちが勝っちゃうのだろう。アキトも同じ暑さに見舞われているから理解できないでもない。


 フーヴァルの調整してくれる進行速度についていく形で、陽炎にゆらめくマグマの黄色に満ちた光景に向けて前進していくのみ。

 立ちはだかるホムンクルスは幾度となく現れる。交戦を繰り返す。ダメージを受ければシータ主体の治癒魔法で癒す。

 進んで行き止まりに差し掛かったら戻る。順路を求めて灼熱世界をさまよう。

 確かに少しずつ進んでいる旅だ。にしても、その道中の過酷さは言わずもがな。しつこいようだが暑い熱い。


「よし終わった! イヴェール、そいつぁぶっ飛ばせ!」

「むきゅっ、むきゅううううっ!」

「グゴア、ッ!?」


 少数の敵――オーガ二体とイフリート一体と遭遇した局面などでは、パーティの総力を投じて早々に二体を片付ける。

 残った一体を、イヴェールの突き飛ばし能力でマグマ溜まりに突き落とす。今回のターゲットは、残った一体のオーガである。

 マグマ溜まりに落とされてもがき、何とか立ち上がってアキト達の方へと再び迫らんとするそれに、サナが急接近して粉雪攻撃。

 マグマの中に落とされたら、いかに屈強なあれとて相当に弱るほどダメージを受けるのだ。効率的な勝ち方の一つであろう。


「はぁ~……はぁ~……しん、どい……」

「ヒカリ、頑張れ……!

 あと少しだぞ、多分な! だから頑張れ!」

「っ、ぐ……わかってる……!

 頑張るぞー! 全回復しましたっ! 行きましょう、っ……!」


「サナ、飛べ!

 ゴールからここまでの道を逆算して俺らに教えろ!」

「わかったー!」


 走って、戦って、それが終わればまた走って、その繰り返し。

 疲労だって溜まるだろう。最前衛で戦うアキトやフーヴァルほど息もつかぬ立場ではないにせよ、ヒカリだってよく動く立ち位置である。

 息切れっぷりが凄い。とうとう弱音が出てくるぐらいには。

 無理くりテンション上げてここまで来たって、体がもう無理もう休ませてと訴えるほどまでくれば、ヒカリも膝に両手をついて背中を丸める。


 マグマ溜まりの上に広がるこの迷路めいた道こそ、ゴール前の最終難関だって信じる想いで、アキトがヒカリに発破をかけている。

 肩を持って揺さぶるアキトに、今さらヒカリも触るななんて言ってこない。なんだかんだで彼の全力のエールこそ、ヒカリにとっては一番元気が出るのだ。

 汗まみれの体を触られるのは今でも嫌だが、アキト君が応援してくれている手を振り払ったりはもう出来ない。

 女心からくる主張を表せないほど、彼女も弱ってきているようだ。


「見てきた~! たぶんこっちがせいかい!」

「よーし行くぞ行くぞ!

 ヒカリ、どうした! 背負って欲しいならそう言え!

 今ならマジで甘えでもなくそうすべきかもしれねえぞ!」


「っ……走ります! いけまぁす!」

「無理だけはするなよ、ヒカリ……!」

「うん、大丈夫! やれるやれるっ!」


 長々とした道を駆けてきた甲斐あって、今の立ち位置からようやくこの迷路の果て、洞穴の入り口めいたものを遠方に見つけたアキト達だ。

 とりあえず、あと少しでこの迷路を抜けられそうだという実感がある。

 ヒカリが息を整える中、サナが高所から見定めてきた、ゴールへの道のりを辿るために再出発。


 疲れた脚と体と肺であろうが、あとちょっとだと思えば気力も振り絞れる。

 フーヴァルとサナを先頭に、迷路を駆けていく一行の足は、今日一番速いものと言っても過言ではない。

 ヒカリやアキトほど露骨に主張しなかっただけで、フーヴァルやシータですら、正直こんな場所はさっさと抜けてしまいたいのである。


「だーっ! なんとなくそういうモンだとは思ってたわ!

 最後の難関ってか!」

「うぐうぅ……! どいて欲しい……!」

「いくぞ、ヒカリ……!

 こいつらさえ倒せば、少なくとも迷路は終わりだ……!」

「頑張るっ……!」


 ようやく迷路も終わりを迎えるという所で、ヘルハウンド二体が待ち構えていた。

 勝てない相手とは言わないけど、疲れた体と心で相対するとうんざりする相手。

 こいつらさえ仕留めてられれば、迷路のゴールと見える洞穴に入れるのだが。


「死ね火炎狼どもが!」

「殺すーっ! 死ねーっ!」

「どけえっ、お前らっ……!」

「むっきゅきゅむきゅうっ!」

「やるぞーっ! 水球魔法(アクアボール)!」


「山賊かアイツらは」

「健全じゃないわね……」


 前で戦う五人の発言が血の気多過ぎ。

 少々冷静でいられる立ち位置にある後衛シータと、その護衛位置にあたるアーノは、血気盛んな前衛組の戦いぶりに戦慄すら覚える。

 強い敵だしダメージを受けることもある前の五人に、場合によっては治癒魔法を飛ばすシータだが、あれだけ鬱陶しかったヘルハウンドが今は気の毒な気も。

 元々血の気の多いフーヴァルやサナ、おかしくなってるヒカリはともかくとしても、アキトやイヴェールすら狂気にあてられたかなんだか怖い。

 みんな本当にこのくそ暑い世界の走破を切望し、立ちはだかる敵が憎らしくてしょうがないんだろうなと、他人事のように思わざるを得ない。


 結果、あれだけの強敵二体が、そんなに時間もかけずに片付くのである。

 多分みんな、平常時には出せない力が出てる。普段以上に必死になるには充分過ぎるシチュエーションでは確かにあろう。


「よし、行くぞ!

 シータ、ちゃんとついて来いよ! 白けてる場合じゃねえぞ!」

「はいはーい……」


「怖いねぇ、兄さん」

「視野は広いわ、なんだかんだで頼もしいとこはあんのよ」

「ありゃ、素直に褒めるじゃねえの」

「たまにはね。ちょっとぐらいはね」


 フーヴァルだって少々はハイ。駆けろとシータに言う声も強め。

 気を遣って茶化すアーノだが、シータもそんなに悪い気はしていないらしい。

 なんだかんだで全員のことをちゃんと見ているフーヴァルである。

 ちょっと強く言われるぐらいは結構だ。頼もしくいてくれることの方が重要なんだから。


「かぁ~、まだ暑いな。涼しくならねぇわ」

「あっ、でもでも! ほらほらほら!!」

「あった~! まほうじん~!」


 マグマ溜まりのエリアをようやく抜け、洞穴らしい場所に潜りこんでも、マグマからは少々離れたとてやはり暑い。

 しかし、その先にあるものを見つけるのはヒカリが一番早かった。

 いつも最前にいたフーヴァルの立ち位置を追い抜いて、ぱたぱた駆けていくヒカリに、サナもぴゅーんとついていく。

 発見したものを口にするサナには全員の反応が上々で、みな足早にそれについて行く。


「終わったあぁ~~~~~!!

 第24界層、走破ぁ~~~~~!!」

「やったー! わたしたち、やりとげた~!」


 握り拳を二つとも振り上げて歓喜するヒカリとサナだが、仕草こそ同じでありながら迫真さが全く異なる。

 満点の笑顔のサナに対し、天井を見上げて打ち震えるヒカリの表情は誰にも見えない。どんな顔してるんだろう。感涙しててもおかしくなさそうだが。


「サナっ!」

「えっ!? あっ、えー、うんっ!」

「「よーーーーっし♪」」


「あれ、アイツらだけで勝手にやっちまってんぞ」

「よっぽど嬉しいんだな、そっとしとこう」


 いつもは四人でやることを、ヒカリはハイタッチの手をそばのサナに向け、いつものアレをやるよと示す。

 ちらっとアキトとアーノのことを見たサナだが、ヒカリと二人だけで出来ると思ったらちょっと嬉しくなったか、そのままやっちゃう。

 そのままヒカリに抱きついてぎゅー。お姉ちゃん独り占め。


「あのさー、ヒカリ?」

「あっ、触らないで。

 汗まみれなの私、アキト君とは絶対ハイタッチはしない」

「そうですか」


「ヒカリ~、俺とはやってくれる?」

「いいよいいよ~、勿論。せーのっ」

「「よーーーっし♪」」


 目の前の魔法陣に、達成感でいっぱいになったか、ヒカリがようやくいつもの彼女の姿に戻った。

 蔦をにょろっと伸ばしたアーノとも、一対一でいつものアレ。

 なんだかはみ出された気分のアキトだが、女の子だし色々あるんだろうなと許容して、苦笑い気味にそれを眺めるに留まる。


 アキトだって、今なら何でも許せるぐらい機嫌はいいのだ。

 あっつい暑い第24界層もここまで。第25界層まで至れれば、今後はその界層に直行できる。

 もう二度と、この界層に来る必要は無くなるのだ。大勝利である。

 実は先程のマグマ上迷路の中にも本棚はいくつかあったが、ぶっちゃけ全くメモしてきていない。二度と来る気ないもの、こんな場所。

 強くなるための周回も惜しまないアキトとヒカリながら、こんな所は二度と周回ですら来たくないようである。

 大丈夫、大抵の冒険者は同じ気持ちだから。


「ふぃ~、ようやく終わったな。

 さっさと行くか、もう正直たまんねぇわ、この暑さ」

「そうね、行きましょ!

 私ももう限界!」

「がははは、毛皮のねえ種族はさぞ大変だったろうな」

「むっきゅきゅ」

「あんたが羨ましいわよ、今日ばっかりは。

 あっ、イヴェールは気にしなくていいわよ~、今日も頼もしかったっ!」

「むきゅ~♪」


「アキト君っ、アーノっ、サナっ、行こ!

 私もうだめ! さっさと行きたい!」

「あはは、そうだな……俺も今さらどっと疲れた……」

「ヒカリのアホテンションに引きずられるのも大変だよな」

「おねえちゃん、ばかじゃなくなった?」

「ああっ、色々恥ずかしくなってきた!

 もう行こ! やめてっ!」


 一同達成感を様々な形で言い表し、魔法陣の上に乗る。

 気兼ねない会話の中、みな一様に表情は柔らかかった。何と言っても、困難であった界層の走破そのものの達成感は只ならない。

 苦しめられた灼熱界層から脱出できる喜びもさることながら、魔法陣を前にしてしまえば、そんな喜びも同時に痛感できる。

 大いなる成功、それも犠牲者一人もなく達せられたその喜びは、ほんのさっきまでの地獄など忘れさせてくれるほど大きい。

 良くも悪くもエクリプスの迷宮がもたらす苦難の数々は、それを乗り越えた時に冒険者達にもたらす快感も並々ならぬようだ。

 だから苦難が待ち受けているとわかっていながら、一つ一つ界層を攻略していくことをやめない冒険者が、なんだかんだで未だ絶えないのだろう。


 魔法陣の上に乗り、次なる界層へと向かっていく七人。

 足跡のようにこの界層へ滴り落としてきた汗の数々も、彼らが決死の想いで駆け抜けてきた軌跡を、よりその道へ刻み付けるもの。

 すでに蒸発しつつあるそれは歴史に刻まれることもないが、それは確かにあったものだ。

 どんな苦難も、乗り越えてしまえば良い思い出には変わり得る。

 そう遠くない日にアキト達も、あの時は大変だったなぁとこの日を笑いながら語れる日が来るだろう。それもまた、達成者達の特権だ。

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