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エクリプスの迷宮(クソゲー)  作者: 日月月明日日月
第一章
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第13話   ~グリモア収集とライブラリ~



 その後アキトはヒカリと一緒に、何度かのホムンクルスとの遭遇を経つつ、第2界層の本棚を回りきる。

 まめスライム、もこもこネズミ、ウルフ、ゴブリン。

 いずれもアキトは遭遇するたび少々緊張するが、危なげなく一撃で仕留められており、特に彼の障害にはなっていない。

 ヒカリもわざわざ、順調だって毎度口にすることもなく、アキトがホムンクルスを撃破するたび嬉しそうに笑うのみ。

 口にするまでもなく順調、というのを表すヒカリの態度は、アキトに自信をもたらしてくれていた。


 この界層には、三つの本棚がある。

 最初の本棚で黄色い"雷撃魔法(ライトニング)の書"と出会ったアキトは、二つ目の本棚で黄色の"火球魔法(ファイアボール)の書"を発見。

 ここでも最初にやったとおり、アキトは火球魔法(ファイアボール)の魔法を習得したのだが、問題となったのは三つ目の本棚だ。

 そこにあったのは見覚えのある黄色いグリモアで、手に取ればやはり"雷撃魔法(ライトニング)の書"と書いてある。


「あっ、ダブっちゃったね。

 アキト君、さっきもう雷撃魔法(ライトニング)覚えたし」

「じゃあ別に、持って帰らなくてもいいのかな?」

「いや、持って帰った方がいいよ。ちゃんと使い道はあるから。

 アキト君、インデックスを出す時とおんなじ感覚で、"ライブラリ"を出してみてくれない?」


「ライブラリ?

 インデックス出す時みたいに、出てこいって念じればいい感じ?」

「うん、やってみて」


 ヒカリに言われたとおりにしてみると、ぽふんとアキトの手元に小さなブックケースのようなものが現れた。

 ライトノベルサイズのグリモアが、ぴったり一冊収まる程度の大きさである。


「それはグリモアがいくらでも入る、無限グリモア袋みたいなものだよ。

 その雷撃魔法(ライトニング)の書を、そのブックケースに入れてみて」


 本棚に置かれていたグリモアを手にしたアキトが、それをブックケースめいたライブラリの中に入れてみる。

 すると収めきった瞬間に、ひゅっとグリモアが消えてしまった。

 ブックカバーの中身は空っぽになり、指を中に入れてみてもすっかすか。


「また今のグリモアを取り出したい時は、出したいグリモアのことを考えたら、そのブックケースの中に出したいグリモアが現れて取り出せるよ。

 そのライブラリに入れたグリモアの一覧は、インデックスの所有グリモア一覧ページでも確認できるからね」

「それじゃこの迷宮で回収したグリモアは、いくらでも持って帰れるんだな」

「けっこう長いこと迷宮探索してたら、持てないぐらいのグリモアを集めることもあるみたいだしね。

 私はまだそこまでやったことないけど、ライブラリがあるといくらでもグリモアを回収できて便利だよ」


 これが"ライブラリ"と呼ばれるものだ。

 いくらでもグリモアを収納できるものなので、グリモア収集を目的に迷宮に潜る者達にとって、絶対に欠かしたくないアイテムだ。

 消えるように念じればインデックスと同じように消えるし、持ち運びも簡単である。


「でも、このグリモアって持って帰って意味あるの?

 俺もう雷撃魔法(ライトニング)は習得済みなのに」

「ふふふ、教えてしんぜよう。

 グリモアには、魔法を習得する以外にも用途があるのだぞ」


「もしかしてグリモアには、書いてある魔法を発動させてくれる効果があったりする?」

「えあっ、あ~……うんうん、そんな感じで……」

「それってもしかして、習得した魔法を使うとMPを消費するけど、グリモアを使って発動させた魔法はMPを消費しないとか?」

「あ、はい、そうです」


 正解。さすがゲーム慣れした頭である。

 実はちらっとニケがそれを言ってはいたのだが、昨日の最初の方のことでアキトも忘れていた模様。その上で、いま思い付きで閃いている。

 教えてあげる気満々だったヒカリの、つまづいた苦笑いがやるせない。


「えと、なんかごめん」

「そなたに教えることはもはや何もないようじゃ」

「ニケさんの真似してんじゃないよ、センパイ」

「やっぱり一週間先に召喚された程度じゃ、あんまり先輩面できないね」


 笑いながらそう言うヒカリだが、そんなことは最初からわかっているだろう。

 むしろ早期にそれを実感したおかげで、概ね同時に召喚されてきた者同士、対等な関係と二人が認識し合うきっかけにすらなっただろうか。

 ヒカリに助けられている立場で少し気が引けているアキトと、いつかはそうは思わず対等に接して欲しいヒカリ、二人はまだ厳密には対等になれていない。


 また迷宮を歩きだす二人だが、そう遠くないうちに今の先輩後輩めいた関係も終わるだろう。

 冗談めいたやり取りも既に出来ている。良い傾向だ。











 第2界層のゴール地点、次の界層への転送魔法陣を経て、次の界層に辿り着く。

 第3界層、晴れた草原の丘の上に到着だ。

 ここから先はアキトにとって、ニケと一緒に歩いたこともない、本当の意味での未踏の地。


「そういえばさ、レベルってどれぐらい実戦経験積んだら上がるの?

 けっこう時間かかる?」


 インデックスのステータス画面には、能力値の外、アキトの"レベル"も書いてあった。

 今日はじめて自分で迷宮に挑んだアキトは、勿論"Lv.1"である。

 実戦経験を積むにつれこの数字が上がり、強くなれる、というイメージを持つアキトは、出来ればこの数字をもっと上昇させていきたい。

 未踏の地に辿り着いたことで、ふとそんなことを意識したのだろう。


「ステータス画面にある書いてあるLvのこと?

 あれは次の界層に行かないと増えない数値だよ」

「え、そうなんだ?」

「第3界層まで辿り着いたら、第2界層を制覇したってことになって、Lv.2になるみたい。

 アキト君は第4界層にまだ行ったことないなら、今はLv.2なんじゃない?」

「あー、そういう数字だったんだ」


 つまりこの世界の"レベル"とは、第何界層まで進んだ経験があるかを語る数値である。

 深い界層、より強いホムンクルスのひしめく界層まで行ったことがあるのなら、それだけの実力があるという指針にもなるだろう。

 他人と比較して、その差が僅差であるならば、必ずしも両者の実力差を断言しない数値であるとも言える。


「実戦を繰り返していくと、レベルとは関係なく、いつの間にかステータス値が上がってたりするよ。

 アキト君、自分の初期値を覚えてるかどうか知らないけど、あれだけ戦ってたら何かの数値が上がってそうな気がしなくもない」


「ん~……あぁ、うん、言われてみればちょっとだけ上がってるな」


 自分のインデックスを開いて確認するアキトだが、確かにいくつかのステータスは上昇している。

 攻撃力を表すSTRや、機敏さや素早さを表すAGIの数値だけ上がっているのは、アキトのこれまでの行動に依存してのものと見えた。

 ここまでアキトは敵の攻撃を一切受けていない。攻撃ばかりしているから、その数値が上昇しているように感じる。

 歩き慣れてきたことにも比例して、機動力も上昇しているということだろう。


「多分、戦い方次第で変わってくるんだろうね。

 私は戦うのがヘタクソだから、よくホムンクルスに攻撃くらっちゃうし、守備力やHPが鍛えられるのも結構早かった」

「受けなきゃ成長できないステータスってなんかヤだな」

「そのうち流石に無傷ではいられなくなっちゃうんじゃない?

 アキト君は今のところ、上手いことダメージ受けてないけどさ」

「それもそうな気がする」


 どうせ今よりもっと強いホムンクルスと戦うようになれば、一切敵の攻撃を受けずに勝つばかりの戦いにはなるまい。

 避けられないダメージが、自身の能力向上に繋がるのだとすれば、それはそれで痛みに収穫が必ずついてくるということ。

 ものは考えようである。アキトはそう考えられたようだ。痛いのは正直嫌という本音はさておいて。


「とりあえず、進んでいこう。

 眺めが良すぎて目的地が見つかりにくいかもしれないけど、案外この界層も一本道だよ」


 小高い丘の上をスタート地点とする第3界層だが、その丘を広い螺旋の下り坂で降りていく道があり、それが順路だと示唆されているかのよう。

 壁に囲まれた第2界層と違い、ぱっと見渡してどこに行けばいいかと考えさせられるフィールドだが、意外と道は示されているのだ。

 エクリプスの迷宮、それも浅い界層、冒険者がどう歩けばいいのか全くわからなくなるような、そんな構造にはなっていない様子。

 これまでと同じように、ヒカリが行く先を指してくれて、アキトが前を歩く形で、二人がゆるやかな坂道を降りていく。


「あっ、気を付けてねアキト君。

 ホムンクルスが出てきた」

「わ、あんな風に急に出てくるんだな」


 障害物の無かった第2界層とは違い、ここは草の生い茂る界層だ。

 前方、少し離れた位置の草陰から、ぴょこんとホムンクルスが飛び出してきた。

 見晴らしのよい界層と異なって、物陰がある界層は別の注意が求められる


「あれは"スパイダー"だね」

「……この世界の魔物っていうか、ホムンクルスって全体的にあんな感じなの?」

「うーん、私が今まで見てきた限りではそうだよ。

 なんか全体的にカワいい」


 子犬サイズの茶色い蜘蛛だ。蜘蛛としてはかなり大きいか。

 しかし、蜘蛛とは人次第で見た目だけで不快感を覚えそうなものだが、どうも体のシルエットがぷっくり丸っこく、そんなに気持ち悪い外見じゃない。

 極めつけに、アキト達の方を向いた"スパイダー"の顔は、初見のアキトが冗談でしょって思うほど可愛い。


 有り体に言って(・ω・)である。

 しかもアキトを見定めたら、顔が(`・ω・´)になって接近してくる。

 正直なところ、アキトが剣を向けるのも躊躇ったほどの可愛らしさ。


「ダメだよっ、気持ちはわかるけど!

 ああ見えて噛まれたら痛いよ!」


 しかし油断ならないと思わせられるのが、このスパイダーの接近速度。

 ウルフには劣るが、まあまあ速いのだ。脚がカサカサし過ぎていて、そこはリアルな蜘蛛らしい動きだが。


 間合いにアキトを含めた途端、膝元めがけて飛びついてこようとしたスパイダーを、アキトは剣を振り抜いて斬りつける。

 一撃で真っ二つになったスパイダーだが、煙を発して消えていく寸前、顔が(´・ω・`)になっていたのが見えた。

 ちょっとかわいそう。


「すっげぇやりづらいんだけど」

「うん、でもね。

 躊躇してて噛まれたら、ウルフに噛まれるより痛いんだよ」

「ヒカリ噛まれたんだ」

「なんかこう、可愛い見た目だし最初は手が出なくってさ。

 飛び付かれて噛まれた瞬間、悲鳴上げてパニクっちゃった」


 第3界層のホムンクルスだから、第2界層のホムンクルスよりも攻撃力が高いのである。

 あんな見た目と顔とクチしながら、オオカミ姿のホムンクルスよりきつい牙というわけだ。

 デフォルメされた見た目に騙されて、ホムンクルス相手に情けをかけていたら、いつかどこかで痛い目を見るということである。


「あ、待って待ってアキト君。

 ああいう大きな草むら気をつけた方がいいよ。

 ちょっと私が前に出るね」


 再び前に進んでしばらくしたところ、背の高い草が群がるそばを通らなければいけない場所に差し掛かる。

 ここだけヒカリが前にでて、その草むらへと近付いて行った。

 腰元のナイフを抜いて、どことなく臨戦態勢という風でだ。


 ヒカリが草むらにあと二歩で踏み入れられそうなところまで至った瞬間、突然その草むらから何かが飛び出した。

 蛇だ。口を開いてヒカリの方へと、勢いよく飛びついていく。

 それをヒカリは見越していたかのように、ナイフを振り抜いて蛇の首元を的確に断ち、頭を失った蛇の体がアキトのそばに、ぼてんと落ちた。


「こういう小さいホムンクルスは、物陰から不意打ちしてくることもあるんだ。

 今のは"ヴァイパー"っていうホムンクルスで、噛まれてもそんなに痛くはないんだけど、噛まれたらやっぱりHPがちょっと減らされちゃうからね。

 こういう物陰になりそうな所のそばを通る時は、気を付けた方がいいよ」

「うん、覚えておく。

 ありがとう、助かった」

「ふふっ♪

 ちょっとは先輩冒険者らしいとこ見せられたかな?」


 ちゃんと真剣な顔でアドバイスしていたヒカリだが、話が終わるとすぐ顔をくしゃっとさせ、いつもの明るい笑顔に戻ってしまう。

 大事な話はふざけずに伝えているが、やはりこちらがヒカリの素だ。

 小難しい話を厳格に伝えるより、同い年の誰かと楽しくお喋りする方が楽しいと、彼女の性分がその表情豊かさに表れている。


「さっ、どんどん行こう。

 第3界層もそんなに長い道のりじゃないし、寄り道しながらマッピングしながら、本棚探しながら冒険しよっ」


 手を引くような仕草をして、早く行こうと無邪気に呼びかけてくれるヒカリには、アキトもついて行きたくなってしまう。

 本当に楽しそうで。もしも少しぐらい疲れていたとしても、きっとアキトは待ってとも、休ませてとも言わないだろう。

 アキトも少しずつ、ヒカリと共に歩くのを、いっそう楽しみ始めている。未知の世界に肩肘を張ったものではなくなりつつある、良い傾向だ。

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