洞窟へむかう
こうして湖にたどり着いた俺は周りを見回した。
豊かな森に囲まれたその湖だが、だいぶ水位が減っているらしく、木の生い茂る場所が途切れた場所では10メートル近い崖が出来上がっていた。
しかもこうなってからそこそこ日数が経っているせいか、乾いた湖底には緑色の雑草がすでに生えている。
生命の力強さを感じつつ、とりあえず俺は湖底に降り立った。
「この高さから飛び降りても大丈夫なのは魔法のおかげなんだよなっと。……木の枝やらなにやら結構あるな。ボートもあっちの方にいっぱいあるし……こっちからは遠い場所だから、湖に来る道はあちらに通じる道の方が主なのか? だがボートの管理だか何かをしていそうな小屋には人はいなそうだな。……来られないようにしているのか、この推移だと仕事にならないのか、その両方なのか」
そう呟いて陸に乗り上げてしまった木製のボートを見る。
この水ではボートを漕ぐのもあまり楽しくないだろう。
そう思いながらこの水がどこから湧き出ているのかを、“探査”し、ついでに周辺に俺を監視するような人物がいるかどうかも見てみるが、少し離れた場所に二人ほど人間らしいものの、
「……あちらの“系統”だな。だがあの位置からは俺の姿は見えないだろう。気づかれずにことは終わらせたい」
そう俺は呟きながら周囲を調べて見つけた湧水の出ているものの一つに向かう。
湧き出している場所は幾つかあるようだった。
一番近い場所は数十メートルも離れておらず、滾々と水が湧き出しているのは見えた。
この湧き出している部分に特に異常は感じられなかったが、その先の湖の水と混ざり合っている場所で俺は違和感を感じる。
「湖の水の方には僅かだが、アレが感じ取れるな……支配されている時に生ずる“意思”のようなものは無いか。けれど薄いとはいえ長期的な摂取はあまりよろしくない。今のうちに処理はしておこう。さて、どうするか……」
俺は考え始める。
この湖の近くにきて気づいたことが二つある。
一つはこの、以前の世界で俺が戦っていた“魔王”と同じ魔力のもの。
人為的な先ほどの人払いの魔法を考えると関係はしていそうだが、“魔王”ほどの連携と支配力があるとは、まだ言えなそうだ。
こちらは確実に片付けないといけないのは事実だが、
「こちらの部分の弱々しい様子を見ると先にこちらの対処の方が先か。道理で水が枯れるはず、というのもあるし、人質に取られても面倒だしそれに、これを使って何かをしようとしているとも考えられるか」
そう俺は呟いて、風の魔法を使い湖の湖面を走り出した。
小さな波紋がいくつか走るが、この程度であれば少し強めの風が吹いた程度の認識しかされない……ように偽装してある。
そして湖を渡った先にあったのは、俺の身長の二倍はあるような洞窟の入り口だった。
枯れた水位の湖とはかろうじてつながっているその場所。
普段は水没しているであろう洞窟の中は、日の光が入らずに暗い。
明かりをつけると反応するタイプの魔法が仕組まれているのを警戒して、赤外線での視覚を魔法で確保する。
同時に周囲にある魔法を確認したのだった。
視野を赤外線に変更する。
可視光に反応する罠は以前の世界で見かけたものだ。
とはいっても、可視光の範囲になったのは結果的にだろう。
人間を倒すための罠、なのだから。
ただこういった赤外線の範囲にするひと手間をかけるよりは、前の世界でやっていたように力技で罠をすべて消滅させる、という手もあるのだが今回はこの先にある“気配”の関係上、手荒な真似はしないようにしようと考えたのだ。
それに罠を崩せば敵に気付かれる可能性が高い。
「気づかれない方が敵を倒しやすいからな。……しかし、また糸状のものが張り巡らされていて……引っかかると気づかれるのか。そして足元や横には罠が敷かれている……こちらは魔力を感じ取らないと見えないか。読んでみると光をやはり感知するタイプだな」
そう呟きながら俺は違和感を感じる。
やけに、前の世界のものと似通っていないか?
同じ人間だから似たような発想をしたり、その結果、進歩の結果が似たようなものになったりすると考えてもいいが……。
「対戦は前の世界では終結させたが、残党はまだ残っていたはず。そちらの方の戦いは、あの世界の“仲間”にお願いしてきたはずだが……まさか、世界までは渡ってこないよな……」
嫌な予感を覚えて俺はそう呟きながら、その場から軽く地面を飛びあがる。
上の方に張られた糸などを飛び越えて、罠の魔法陣同士の隙間に着地する。
魔法が使われたと感知できないような量で効率を重視しながらそこを飛び越えていく。
そういえばこういった繊細な魔法の使い方を俺が考えて使ったときは、前の世界で“神業”だと言われた。
また、“異世界人”は“魔力感受性”が高いために、これができるのだろう、とも。
ちなみに魔力が強いと、“魔力感受性”が高い傾向にあるという。
それらを思い出しながら更に洞窟の奥の方に進んでいく。
赤外線による映像は、中のものがはっきり見えるものの白黒映像のようで、あまり気分のよろしいものではない。
そう思いながら進むとやがて、地面に敷かれた罠がなくなる。
代わりにさらに奥に進んだ場所で、別の魔法を感じる。
それと干渉しないようにといった配慮があるのかもしれない。
しかもそちらから流れてくる水は、二種類に分かれていて、俺のすぐそばの足元で混ざり合っているようだった。
「浄化された方の水と、“邪悪に汚染されたような水”の二種類か。だが、だいぶ弱っていそうだな……急ごう」
そして俺は再び歩き出す。
治療の方法も前の世界の知識と経験でおそらくは何とかなる……ならなければ誰かに頼むのがいいだろう。となると、
「……昨日会ったあの人たちは騎士団だといっていたからまだ信用できそうか? 味方にスパイが紛れ込んでいる場合もあるが、この世界はまだ平和そうだし信じてもいいか……様子を見て考えよう」
そう、失敗した時のことを考えてさらに歩みをすすめる。
柱のような物がいくつもある場所を潜り抜けて、そして洞窟の一番奥にたどり着く。
そこには……一人の少女が、囚われていたのだった。
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