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平和ボケしている

 湖を目指したはいいが、そういえば朝食を食べていなかったと俺は気づいた。

 だから途中でサンドイッチのようなものと飲み物を購入し、俺は走った。ただ、


「カバンを持って移動が面倒だ。後で収納出来る腕輪か何かを用意しよう。とはいえ、飲み物3本と昼食分のサンドイッチも準備したから、夜までに戻れは大丈夫のはず。……念のために宿屋か町を変えるかどうしようかも考えておこう」


 俺はこれからについて走りながら考える。

 スローライフをするにしてもその場所がある程度居心地のいい場所でないと、というのもあるのだ。

 魔物がよく発生するような場所ではそれどころではない。


 できれば取柄というのは平穏だけというような、牧歌的な村が一番よく、よそ者にもそれほど偏見がない場所がいいが、そんな都合のいい場所はおそらく存在しない。

 それに生活をするならそこそこ発展した人の多い街の方がいいだろう。

 スローライフといってものんびり生活をするために必要なものはいくらかある。


 となると、今いる街の郊外に家を構えて好き勝手に暮らすのが一番よさそうなのだが。


「まさか水を生み出す魔法程度でここまでの事態になるとは。く、どこかのラノベ主人公のように、俺はやりすぎてしまったというのか……この程度なら許容範囲だと思ったのに!」


 悔しさをかみしめながら俺は手に取ったサンドイッチを口にする。

 そこそこ薄切りの野菜が入っていて、周りに胡椒のようなスパイスの付いたハム、そしてソースが挟まれている。

 ほんのりとチーズの香りとヨーグルトの香りのする塩気のソースだった。


 意外に美味しいと思いながら、それを食べ上げて飲み物を入れた分を取り出す。

 金属製の栓がされたそれを適当に魔法で開けて、中身を飲み干すと、


「ぶどうジュースだな。……この世界にぶどうがあるかどうかは分からないが」


 そう呟きつつもジュースを飲み込み更に俺は走っていく。

 身体強化の魔法も併用しているのでそれほど動きには問題ないはずだ。


「町中で空間転移系の魔法を使うのは、場合によっては俺が街中で危険な魔法を使おうとしていると察知されかねないからな。かといって、この前の俺が分身して見えるような動きでは怪しまれるだろうし……できるだけ普通の“異世界人”として行動しないとな」


 ただでさえこんなチート能力を渡されてしまったのだ。

 目立たないに越したことはない。

 そう思いながら更に進んでいくと、やがて街を抜けて、周りには畑が広がりその先には森が見える。


 この森の奥に彼かけている大きな湖があるらしい。

 その湖からは大きな川が一つと、小川がいくつも流れているらしい。

 畑のすぐそばにある灌漑用の水路もその小川から引いているそうだ。


 その水の流れてくる方向をさかのぼっていけば目的の湖には着くだろう。


「こちらの道をまっすぐ行けばよさそうだ。後は湖までたどり着いてそこで……簡単にいくのか?」


 俺はそこである物の気配を感じて俺はうめいた。

 若干離れているとはいえ、これに俺が気付かないのは、やはり一月という機関の間に平和ボケしてしまったということなのだろう。

 それにそのすぐそばで……。


「放っておくわけにもいかないな。人知れずにこの事件を処理し終えなければ。……一時間程度足止めできれば十分か?」


 俺はそう呟いて振り返り、魔法を使った。


「きゃあああああ」


 少女のかわいらしい悲鳴が聞こえる。

 騎士団に女の子はいたのかと俺は思ったが、店番の、俺があっていない子かもしれないと思った。

 立ち止まった俺を、木の陰で俺の様子を伺っているため、ちょっとねばねばするような蜘蛛の糸のような魔法でその場から動けないようにしておいたのだ。


 とりあえずその人物に俺は、


「無理に動くと服が破けるから気をつけてな。もっとも一時間程度で効果はなくなるから安心してくれ。それじゃあ!」

「! 待ちなさ……」


 そんな少女の声が聞こえたが、俺は無視をして走り出したのだった。

 






 こうして俺は騎士団に所属? しているらしい少女を出し抜くことに成功した。

 まさか女の子で俺を落とそうと狙ってくるとは……なかなか敵も侮れない。


「女の子に頼まれると、断り辛いんだよな」


 俺は小さくため息をつく。

 断らなければならない時に断り切れず、そのせいで敵の罠にかかってしまったこともある。

 あの時は仲間を危険に曝してしまい、時には心を鬼にしないといけないと反省した記憶がある。


 ただあの時も仲間に、男に言われても同じような行動をとったんじゃない? と言われた気がする。

 助けを求められて、見捨てられなかったのがその時の出来事だから、確かにそうかもしれない。

 実際に今だってスローライフをしようと決意もしたのに、いざ誰かが傷つこうとしていたなら俺は、“助ける”行動をとってしまった。


「損な性格だよな……でもこれを変えると、場合によっては卑怯者だしな……やはり、人知れず人助けをしたり問題を解決してスローライフに突入する……そうすれば目立たず、俺に降ってくる厄介ごとも少なくなるはず」


 そう俺は頷く。

 きっと大丈夫なはず。

 何せ俺は“巻き込まれ主人公”ではないはずだから!


 今回はこの世界に、別世界の“英雄”もいるようだし、俺はそんなに活躍しなくていいはずだ。

 はずだよな?

 心の中で俺の中にふと湧いて出た疑問。


 だが今回は大変な思いはしたくない、そう決意をしつつ、そこで走る速度を徐々に弱めていく。

 すぐそばに小川の水が流れて行く音が聞こえる。

 穏やかな朝の森、といった雰囲気ではあるが……。


「そういえばこちらの方の水源である湖の方には、人はあまりこないのか? 先ほどから全然他の人と遭遇しないな……水源なのに」


 俺は嫌な予感を覚えながら呟く。

 案の定、あるものが道に敷かれていた。

 その魔法を大まかに見て俺は、


「分かれ道の片方に、もう片方の道に行きたくなる魔法がかけられていて、偽装までされ普通では気づかないか。かなり高度な魔法だが、認識を操作する方向か。来た人間を“皆殺し”にする方法での証拠隠滅ではないのは……この世界がまだ平和な証だな」


 俺はそう一人頷きながら、まだまだ俺のスローライフへの可能性が眠っていると嬉しくなる。

 戦乱状態になれば……否が応でも戦わないといけなくなりそうだからだ。

 前の世界のように。


 そう思いながら更に進んでいくと、


「今度は木と木の間に細い侵入者探知用の糸か。触れると同時に魔力を少量吸い取って術者に伝えるタイプ……これは前の世界でも見たな。そう、前の世界でも……」


 俺は小さく呻いて考える。

 世界が違うといっても、同じような魔法は存在するだろう。

 だが、“ここまで全く同じ”な魔法は、どうなのだろうか?


「まだあいつらが関係していると決まったわけではないし、考えすぎないようにしないとな。あいつらが来ているのなら、ここに来た時点で“殺す”と選択しそうだし。えっとここの糸はこの位置だから……」


 そう呟きながら張り巡らせた糸に触れないように俺は、その隙間を通っていき更に進んで……やがて、湖にまでたどり着いたのだった。



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