町に着きました
こうして俺は延々と“縮地”を繰り返して移動すること一時間程度。
周りに人がいないのを確認しながら俺はようやく魔法を使うのをやめた。
「ふう、一本道とはいえ、ここまで逃げてしまえば大丈夫だろう。後は人の多い町に入り込んで、この世界の服を購入して紛れてしまえば、あの人たちも俺だとは気づくことがないだろう。……この剣の柄はしまっておこう」
俺はそう呟いてカバンに閉まっておく。
そしてそのカバンを見ながら、
「今回はこのカバンの内部を拡張する魔法をかけておこう。これで入用のものはすべてこのかばんに入るし、その感じ取った魔力で盗まれた場所も分かるし、そういう風に魔法をかけておくか。これで俺のカバンはなんでも入る、ちょっとすごい学生カバンになったはず」
そう呟きながら更に魔石も閉まっておく。後は普通に何事もなかったように歩いて行って、村ではなく町までいければ……。
「この先に村じゃなくて町があるのか?」
ふと湧いた疑問。
そこそこ人通りもあるから大丈夫だろと思っていたが、この先にそういった大きい町がなければどうしよう。
いざとなれば、“縮地”で移動して目的の大きな町に移動してもいいが、と俺は考えて先ほどの出来事を思い出して呻いた。
「“縮地”はほどほどにしておかないと。途中の冒険者の人たちが悲鳴を上げていたしな……残像が残るように移動しているらしいから、変な生物か新手の魔物と思われるのも嫌だしやめておこう。それにこれだけ離れていればあの助けた人たちと遭遇することもないだろうし……とりあえず次に会った冒険者か誰かに、話を聞いてみよう。どうやらこの世界でも言語は通じるようだしな」
というわけで俺は新たなこの世界の人物と接触すべく進んでいく。
やがて男の冒険者らしき人物と遭遇して、ここから一時間もしないうちに【トレンの町】に着くとのことだった。
お礼を言って俺は、そちらに進むことにする。
どうやら俺の選んだ道は正解だったようだ。
そう思って進んでいくと町の入り口に検問のようなものがあるのに気付く。
木で作られた柵なので簡単に超えられるが……事を荒立てたくはない。
どうしようか、そう思っていると検問の人間に気づかれた。
「そこの人間、変な服装をしているが異世界人か?」
「え、えっと」
「最近特殊なチート能力を持つ異世界人がそこそこ大量に女神さまから召喚されたと聞いている。能力が有用かどうかは問わず、全員ギルドで一度登録を、といった話になっている」
「そう、なのですか」
俺はそう答えながら、身分証が手に入るのはいいと思った。
だがチート能力はあまり知られたくない。
それを観測されそうなときに偽の情報でも流すか、そう俺は心の中で決めた。
そうすれば強い力だと気づかれずに済むなと俺が思っているとそこで検問の人が、
「異世界人のチート能力は妙なものが多いので、自己申告になっている。どのような魔法が使える?」
「え、えっと、水を生み出すような能力です」
俺は、間違ってはいない説明をした。
魔法を創作出来るのだからうその説明にはなっていない……そう俺が思っていると検問の人が、
「飲料水として使っている湖の水の水位がだいぶ下がっているが、そちらの方で使ってもらえないだろうか」
「……俺の魔法はそこまで強くないので、申し訳ありません」
「そうか……残念だ。ギルドはここをまっすぐ行った場所に右手にある青い看板が目印の建物だ。異世界人ということで通行したという証明書を発行するから、これを持って行ってくれ」
そう言って検問の人は、青いマークの付いた紙を俺に渡してきたのだった。
検問所の人に青い印の描かれた紙を貰った俺は、言われたとおりにギルドに向かう。
この町の周囲が森で囲まれているのもあるだろう、木で作られた家が多い。
とはいえ、俺が現在歩いている道は四角い石が敷き詰められていて土の道よりはある行きやすい。
そう思いながら周りを見回すと、活気のある町であるらしく馬車や人間が大勢行き来している。
そして検問所を越えると、馬を止めておくような空間があって、そこから先は商店街になっている。
雑貨のような店や、洋服の店から飲食店、八百屋といったようなものだ。
後でこの世界の人達に紛れ込めるように服をそろえないといけない。
髪の色は色々で、もちろん黒髪もいる。
服さえ変えてしまえば、紛れ込めるはずだ。
「早めにギルドに行ってギルドカードを貰っておこう。……すぐ作成できるのか? そもそもこの世界はギルドカード制なのか?」
そう呟いて俺は、そのギルドの登録に下手をすると何日もかかるかもしれないと気づいた。
事前に検問所の人に手続きにかかる時間を聞いておけばよかったと俺は思うものの、後悔先立たず、振り返って先ほどの人達を見ると、すでに何人もの人が待っているようで忙しそうだ。
とても聞ける雰囲気ではない。
「仕方がない、直接ギルドに言って説明を聞こう」
そう俺は思って、歩き始めたのだった。
ギルドの内部は明るく開放的な空間だった。
主に四つのフロアに分かれていて、受付と、受付の人たちが億で仕事をする部屋の二つ、依頼などが張り出される掲示板、そして酒場だ。
酒場は昼間から冒険者達にでにぎわっている。
一部ランチメニューもあるので、そのうち利用してもいいのかもしれない。
そう思いながら受付に向かっていくと、初心者登録の方はここで必要事項を記入してくださいといった紙があるのに気付く。
そちらをまず先に書かないといけないが、異世界人の俺ができることは少ない。
登録コーナーと看板が掲げられた受付に何人も並んでいるのを見ると、ある程度必要事項を書いてから並ぶ方が、受付の人の手間がかからないだろうと考えて、早速紙に必要事項を記入していく。
この世界の文字が自動で読めると同時に、どうやら俺は自動で書けるようになっているらしい。
この点も前の世界と同じで便利だった。
意思の疎通には言語が効率がよく、けれどそれを一から覚えるとなると時間がかかる。
だからこの能力は俺にとって都合がいい。
俺はそう思いながら名前などを書き込んでいく。
なぜか意訳で、カタカナで名前は記入くださいと書いてあったので、苗字を後にして、名前を前にし、間に点を一つ入れておく。
そして一通り記入してから、すぐそばにギルドカードについての説明の紙があるのに気付いた。
ギルドカード制なのはよかったと思いつつ読んでいくと、これは一時間程度で出来るらしかった。
また異世界人の場合は記入する項目が名前、種族のみでいいといった話、そして登録すると幾らかお金がもらえるらしいといったことが書かれている。
ちなみに異世界人の魔力波長はこの世界の人間と一部異なるところがあるため、誤魔化しがきかないとの事だった。
そしてギルドカードにはこのカードを持つ人間の情報、性別などから魔力波長といったものまで、多岐に渡り記録されるらしい。
そのカードを一度作るとこまめに記録の書き換えがされて、二種類の項目についてランキングわけがされるそうだ。
基本的にギルドの依頼は、ギルド内での換金が義務ずけられているらしい。
危険な場所に入り込む冒険者の安全と、強い力を持つ冒険者の管理といった意味合いがあるらしい。
それらの内容を読んでいくと最後にカードの絵が描かれていてそれぞれの項目についての説明がある。
それによるとギルドカードの一部には乳白色の四角い石がはめ込まれているらしい。
“記憶石”と呼ばれるこの世界に鉱物で、合成されて作られているものらしい。
記録の書き換えができないよう“保護”も何十二かけられているそうだ。
その表面には二つの情報が書かれているらしい。
その人物のランクと、実績ランクだ。
前者が能力で、後者が依頼を受けた信頼度と経験値のようなものだそうだ。
これらはS、A、B……Fの順でランクが下がるらしい。
また、これらはレベルアップごとに、F、FF、FFFといった形になり、同じ文字が三つ並んだ後にレベルが上がるらしい。
「でもなんで英語なんだろうな。……きっと俺の目で翻訳されているのかもしれないな」
そんな考えても意味があまりない疑問に適当に理由をつけて俺は、紙を持って登録受付に並んだのだった。
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