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チート能力

 実のところ魔法自体は、声を出す必要がある分とない部分がある。

 声があった方が、魔力が“意思”と連動している部分や、“効率”がものによってよくなるために出す場合が多い。

 だが圧倒的な魔力を持つなどの条件であれば、声など出さずともそれを“表現”できる場合もある。


 とはいえ、大多数の人が声を出すことによって魔法を使うことが前の世界では多かったので、多数派に属して違和感を薄める、という意味でも俺は声を出してそれらを使っていた。

 まず初めにこの目の前の石と肉で出来た魔物? の弱そうなところを調べて“印”をつける。

 この魔法自体は、前の世界でも俺のチート能力で行えたものだ。


 目標の場所を設定し攻撃魔法を唱え、そちらに誘導して特に“効率よく”攻撃を行う。

 この炎の槍も、この世界にこう言った魔法が存在するかどうかは分からないが、この程度なら大丈夫だろうと俺は考えたのだ。

 そして次々とその炎の魔法がその黒い煙を出す不気味な魔物? に攻撃していく。


 まずは様子見といったつもりだったので手加減したが、この遠距離からの攻撃ではやはり威力が低くなる。

 だいぶ動きは鈍くなっているがまだまだ動きそうだ。

 そしてこちらも認識されてしまったらしい。


 ぐるりと頭のような部分がこちらを向く。

 赤く輝く三角形の石が三つついていて、それが俺の方向をまっすぐに見定めているようだった。


「気づかれたならすぐに倒さないとまずいな。……本当は不意打ちで倒せればいいが……一月も戦場から離れると勘が鈍るのもあるのか? さて、やるか」


 そう俺は呟き、カバンの中から丸い円柱状の物を取り出す。

 銀色に塗られて小さな細工がされたそれだが、実のところただの木で作られた柄に過ぎない。

 先ほども説明したが、魔法は“意思”の力に影響される。


 より明確な“想像”を作る方が、“効率よく”魔法が行える。

 そう思ってそこで柄の先に青白い光が線状に現れる。

 事象を引き起こす範囲は、視覚や魔力の感知など色々なもので感じ取ることができるが、やはり視覚は重要だ。

 

 だからこの光の範囲で、以前の世界で使っていた魔法と同じようなものを発現させる。

 同じようなものと言ったのは、現在手に入れたチート能力と、以前手に入れたチート能力では、同じ結果を引き出すのに過程プロセスが異なるからだ。

 この世界で発言した俺のチート能力。


 空間創作クリエイティブ・ワールド

 以前に別のチート能力を使っていたせいか、今回発現した能力はすぐにどんなものかを認識できたのは僥倖だ。

 今回のこの世界で発言した能力は、簡単に説明すると魔法を作る能力である。


 そしてこの名前の由来は、この世界そのものが魔法で作られた空間であり、引き起こされる事象全てが魔法をもとにしているため、魔法=空間が成り立っている。

 それ故に、魔法を作り出すことが、このチート能力の名前になるようだ。

 そう思いながら、こちらに狙いを定めたこの魔物? に向かって俺は“縮地”を使おうと決める。


 一瞬にしてこの怪物の前に俺は躍り出ることは可能だが、前の世界と今の世界のチート能力では、以前も説明したように過程が異なるが……。


「この世界で発言したチート能力ならこの世界で使うべきだろうな。……さてと」


 俺はそう呟いてチート能力を駆使し、“縮地”の魔法を発動させたのだった。








 “縮地”を発動させると、目の前の視界がゆがむ。

 気持ちの悪い周りの風景が一瞬視界いっぱいに広がる。

 やはりこの瞬時に敵の前に躍り出るのは慣れない、そして一か月のブランクはあると俺は感じた。


 とはいえ敵の目前に出たのだから、こんな場所で動けずにいるのは自殺行為だ。

 だが、ブランクがあるとはいえ俺の体は覚えていたようだ。

 戦い方を。


 地面を蹴って飛びあがると同時に、先ほどの走査した弱点部分を認識する。

 魔力で付けた“印”はまだ残っている。

 後はその場所を……“断ち切る”のみ。


 そう思って剣を動かす。

 凪ぐように少ない動作で自身の作り上げた“剣”で切り裂く。

 感触は思いのほか無いのは、この剣の特性だ。


 だが、“結果”はすぐに見て取れる。


グァアアアアアア


 悲鳴を上げるこの魔物だが、それぐらいの余力は残してしまっていたのか、それともこの方法では“最適”な倒し方と言えないのか。

 さらに追加の攻撃を加えるべきかどうかは、考える必要はないがと俺は思う。

 魔物は悲鳴をやめた。


 代わりに石のようなものがこすれる音がして、ズウッと鈍い音を立てながら横にずれていき、更にばらばらと崩れ落ち、黒く立ち上るそれは消えていく。

 また、この魔物を構成していた部分も、砂となって崩れ落ちていく。

 石だと思っていたものは魔力で結合されて強度を増した物であったのかもしれない。


 そして肉の部分は魔力……そう思っていると、この魔物の消えゆくからだから幾つもの赤い魔石が見て取れる。

 小さいものではあるが五つくらいありそうだ。

 前の世界では、魔物には大抵一つしか魔石はなかったが、この世界ではこういったものが一般的なのかもしれない。


 とはいえ、これでどうにか魔物は倒せた。

 呆然としたような、フードの少女だが手足には擦り傷が見て取れる。

 それに少女の手助けに加勢しようとした勇敢な商人の護衛達。


 彼らは魔力を読み取る感じではまだ生きているようだ。

 それならば回復系の魔法を使ってしまおう。

 何かを聞かれる前に!


 そう思って俺は範囲指定を少女と倒れている男たちの範囲に設定しながら、


「“回復のヒール・ミスト”」


 そう告げると、俺の指定した範囲で霧が発生して傷口に入り込んでいく。


「え、え?」


 少女は驚いたように声を上げる。

 同時に、男たちが小さく呻いてそれから何が起こったんだと呟きながら立ち上がる。

 どうやらうまくいったようだ。

 

 そこで助けた少女が、


「こんな高度な回復魔法……それに、私が倒せなかった悪魔ゲヘナをいとも簡単に倒すなんて……あ」

「それじゃあ俺は、やることはやりましたので、さようなら!」


 何かを言いかけた少女に向かってそう告げて俺は、“縮地”の魔法を連続してその場から逃走したのだった。








 颯太がやることはやった、だから後はスローライフをするためにフラグを折るぞと頑張って魔法を使い逃げているころ。


「……ようやく見つけた、私よりもずっと強い人物……逃がさないわ」


 颯太が助けた少女はそう呟いて、颯太の逃げて行った方向を見て、嗤ったのだった。


 

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