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もう一人の女神

 プロセルピナとハデスが仲良くしているのを見るのは何となくこう、いいといえばいいのだが俺としては、


「それで、俺の呪縛はとってもらえないのですか?」


 そう聞くとプロセルピナはぎくりとしたようだった。

 そしてハデスが俺の方を見て、少し手を伸ばしてから首を振る。


「たぶん、強制的にほどこうとすると、貴方がバラバラになってしまう」

「……やはりですか」

「わかるのですか?」

「何となくは」

「……プロセルピナちゃんが選んだ通り、貴方はとても優秀なようです」


 そういうと俺に向かってハデスが手を伸ばして手を握ってくる。

 女の子の手は小さくて温かい……ではなく手と思っていると彼女は俺の方を見上げて、目をじっと見てくる。

 美少女が、上目遣いで俺を見てくる。


 別にただそれだけのことで……それだけなのだが……うまく言えないが、こう……などと俺が思っているとハデスが、


「私からもう一度謝罪させていただきます。無理やりこの世界に連れてきて申し訳ありません。そして、ついでという形であれ、あの“闇ギルド”の人物たちの対処に協力してくれているあなたに、感謝します」

「いや、その……一応かかわるが、俺は、その危険だったら逃げるし、できればこれが終わったらスローライフもしたいし、多分、俺の知っている奴がこの剣は全部解決しちゃうと思うし……」

「そうなのですか? それでも、少しでも手を貸していただけるのは私達としても心強いです。ありがとうございます」

「そう、ですか……」


 俺はそんな風にしか答えられなかった。

 確かに無理やり連れてこられたのは気に入らないが、こうやって丁寧な対応をされてしまうと俺としても……と考えているとそこで、


「今回の件が終わるまでにこの拘束の魔法が解かれなければ、私が責任を持って解けるまであなたをサポートをします。必ず私が責任を取って、貴方を自由にして見せます」

「あ、はい」

「私たちの責任ですから。それなのにこの世界の事を手伝ってくれようとする、貴方の“綺麗な心”に私は打たれました。だからこそ私も、その心を返すべきだと思います」


 そうハデスが言ってくれた。

 なんだかこっちの人はとてもいいというか、何となく俺が誤解されているような気がする。

 普通に断り切れなかった部分もあったので、俺は体がソワソワする。


 するとプロセルピナが、


「ハデスちゃんがお手伝いするの? だったら私も……」

「プロセルピナちゃんは、この世界の管理があるから。私がいなくてもこの世界はある程度どうにでもなるけれど、プロセルピナちゃんはいないと困る存在だもの。それに管理業務はそんなに開けていられないと思うし……また仕事をさぼりたいというのもあるのかな?」

「……」

「今は大変な時期だからお仕事をさぼるのは駄目だよ。これが終わったらみんなで遊ぼうよ。、和えからこっそり二人でこの世界にきて遊んでいたし。食べ歩きツアーもしたいし」

「……わかったわ」


 ハデスの言葉に、プロセルピナが渋々というかのように頷いたのだった。






 こうしてプロセルピナはこの世界のお仕事をするために、帰っていった。

 実はこのプロセルピナとハデスという二柱の女神さまはこの世界によく遊びに来ていたらしい。

 そして今回あったこのハデスという女神さまは俺が元に戻るまで責任をもってついてきてくれるらしい。


 責任を感じてくれたらしい……しかも美少女。

 こうしてゆっくり見るとやはり、通常とは違うような雰囲気を感じる……そう思っているとそこでそれまで話を聞いていたエイダが、


「では……しばらくよろしくお願いします。ハデス様」

「様づけであなたに呼ばれると、正体が気付かれてしまいます。ハデスとお呼びください」

「ですが」

「一国の姫に様づけされるような存在と思われるのは困るのです。こっそり地上に降りてくることもできなくなってしまいますし」


 そうハデスが言う。

 それにエイダは黙ってしまうが……今の話を聞いていて俺は、何か引っかかるものを感じた。そう、つまり、


「……姫?」

「そうよ。言っていなかったかしら」


 エイダが俺に返してくるが、そういえば先ほどの“闇ギルド”の人達も姫がどうのこうのと言っていた記憶がある。

 まさか。

 これはあの、異世界に転移した所で貴族の令嬢を助けてしまうという何処かの物語の主人公パターンに俺は入ってしまったというのか?


 いや、それはないだろう。

 もしそっちに入ってしまうとこれから戦闘が大変になり、どこかのモブのようにスローライフをしてゆっくりこのよく分からない拘束を解きつつ何事もなく戻りたいという俺の希望が果たせない。

 しかもそんな主人公格になったら、俺は目立って沢山戦闘をしないといけなくある。


 ただでさえ、“英雄”だと思われたり……おそらくは別人だと思うがそんな風に言われたり色々しているこの状況だ。

 できる限り俺は、目立ちたくないのだ。

 なのに気づけばこんな事になっていた。


 そう衝撃を受けているとそこでエイダが、


「……姫だから、手伝うのをやめる?」

「やめはしないよ。約束だから。でもなんで転移してすぐにお姫様を助けるような事件に遭遇するんだ俺? ! ま、まさかこれもプロセルピナの陰謀だったのか!?」

『違うわよ。そこそこ町に近い場所で、人気があまりない場所を選んだだけよ』


 そこで俺が衝撃の事実に気づいたと思いながら告げると、どこからともなくプロセルピナの声が聞こえた。

 どうやら適当であったらしい。

 もう少しこの世界の女神様は、考えるべき所がある気がする。


 前の世界の女神様なんて、頭を抱えながら異世界転移者などの配置を考えていたのだから。

 そう俺が思いつつそこで日がだいぶ上ってきていて、しかも外で人のざわめきが聞こえる。

 そろそろ仕事が始まるのかもしれない。


 そこまで考えた俺は何かを忘れているような気がした。つまり、


「しまった、日雇いのアルバイトが今日一日あったんだ。……それをやってから移動でいいか?」


 そう俺が聞くとエイダが、


「日雇い? どんな?」

「水を作るアルバイトだ。俺の能力は水を作るものだし?」

「……それでは説明付かない魔法を使っていたわよね」

「……」

「でもこちらが頼んでいる側だからそれ以上追求しないわ。手伝ってあげるから、早く終わらせて移動しましょう。“闇ギルド”の人達が襲ってきた件もあるしね」


 エイダがそう俺に言ったのだった。


 


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